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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第147章 貿易都市セレヴァリア ― 第一拠点始動

 

 三日後の夕刻。〈潮見亭〉の中庭。


 ロープに干した帆布の影が、石畳に長く落ちている。簡易の卓を二つ寄せ、全員が囲んだ。


「では、共有を始めます」


 リュシアが帳簿を開く。手元の紙面を指でなぞりながら、顔を上げる。


「結論から言います――やはり既成商会が強い」


 彼女は卓を一周する視線をゆっくり送った。夕日が帳簿の頁を赤く染め、数字の影を際立たせる。


「港湾連盟(S.T.A.)の推薦状、組合保証、私設保険……。新規参入は、末端で細々としか動けません」


 リュシアは小さく息をつき、肩を揺らす。静かな中庭に、紙をめくる音だけが響いた。


「抜け道は、今のところ見えません。少なくとも、正面から攻める方法は」

「真っ白な街というわけではないだろう」


 漣司がスプーンを置く。


「この規模で完璧はない。綻びはある。ただ、綴じ目は高度に隠してある。見えないのは、ないからではない――そういうことだ」


 ロイが手帳を指で軽く叩く。


「労働者はきつい仕事が多いですが、その分、実入りも大きい。夜番は倍。港の稼働は二十四時間体制です。だから人手も休まない。街の活気は……確かに目を見張るものがあります」


 潮風に混ざる香辛料の匂い、行き交う荷車の軋む音、声を張る行商人たち。港の喧騒が、ロイの言葉に現実的な重みを添える。


「治安維持の兵の練度、士気は高ェナ」


 ガロウが腕を組んだ。


「よそ者の傭兵はあまり歓迎されネェ。だが、カストリア出身だと言って、実際に打ち合ってみせタ。奴らは見る目が変わっタ。……少し自慢ダ」


 その得意げな笑みに、ミナは目を細めて肩を揺らす。小さく息をつき、軽くあきれた様子で――


「はいはい」


 ルーチェが続ける。


「魔導学院の規模もそこそこ大きいでござる。海の魔物対策ゆえ、術士は重宝される。光は水面で屈折するが、逆に反射を利用して刃を生み出す術も可能。拙者の術とも相性が良い」


 リュシアが眉を上げる。


「灯台の剣、ですか。――面白い」

「で、ミナは?」


 漣司が視線を向ける。ミナは椅子にもたれ、片肘をついて口角を上げた。ふっふっふ、といつもの不吉な笑み。目が小さく細まり、好奇心に揺れる瞳が輝いている。


「アビス・マーケット」


 少し身を乗り出し、手のひらをくるくると回しながら続ける。


「夜間限定で開かれる密輸市場で、表通りからは見えない波止場のさらに地下にあって、入口は幻術で隠されてる」


 帆布の間を通る夕風が、卓の上の書類を揺らす。潮の匂いが濃くなる。


「幻獣素材、禁書、薬、禁輸の宝飾。闇値は昼の二倍から三倍。常連には、印があるとか……ふふ、面白いでしょ?」


 漣司は静かに頷き、短く言った。


「――なるほどな」


 漣司は視線を巡らせ、港町の様子を思い描いていた。


「セレヴァリア商業連盟(S.T.A.)と海上警備団〈ブルーハウンド〉の目の上の瘤か。港町にはよくある話だが、綻びがあるとすれば、そこだ」

「でしょ?」


 ミナが胸を張る。だが次の瞬間、漣司の声が一段低くなった。


「ミナ。ここまでの規模で動く犯罪集団は、必ず組織化されている。面子、金、沈黙、儀式――命の値段を間違えないよう、仕組みで縛っている。今この段階で“下手に出る”のは危険だ。慎重に探れ。足跡を残すな」

「へーい」


 気のない返事。ロイが即座に横から諭す。


「社長は心配して言っているんだ。ミナが一番、隠密行動に優れているから」

「だったら最初から最後まで褒めてよ?」


 ミナが頬をふくらませ、皆の笑いがこぼれた。張り詰めた糸が一度だけ緩む。ルーチェが微笑み、卓の下でテリアが尻尾を振る。


「褒められても、褒められなくとも、働くのが仲間でござる」

「名言で逃げないの!」


 ミナの突っ込みに、また小さな笑いが起きた。



「続ける」


 漣司は指で卓を軽く叩いた。


「俺は市中の物件を二十軒見た。倉庫兼店舗の骨がいいのが一つ。――外港側の古商館だ。元は香辛料の卸。所有は連盟の委託信託に移っている。借り手がつかず、維持だけが費用を食っている」


 卓上に広げられた図に、皆の視線が集まる。湾側に深い間口、通り側に小さな扉。梁は太く、二階の床は補強済み。通路は狭いが抜けが二本ある。荷の流れが詰まらない。


「評議人は保守的だが、数字は現実的だ。三か月の短期枠で試験運用。保管と販売をセットで回せば、空室損は連盟にとっても痛みが薄い。――交渉の入口はそこだ」

「正攻法ですね」


 リュシアの声が弾む。


「末席でも、座ることに意味がある」

「そう。末席でも席に座れば、話は通る。立ち話のままでは、いつまでも外の人間だ」


 リュシアが帳簿を閉じ、静かに頷いた。


「出店する品目は、どのようなものですか?」


 漣司は視線を前方にやり、港の喧騒を感じながら答える。


「第一陣はラクリア製品だ。織物、乾燥果、良質の陶器、そしてオルテリアの銅細工。風を読む杖や光を操る小型魔晶石、便利な幻術用アイテムなど――港の昼の早い回転に合わせる。利益率は薄くていい。――正しく早く売るが、この街での名刺になる」


 ロイが穏やかに補足する。


「昼の通りで正札販売、夜は倉庫で仕分け。荷受けの混雑時間帯を避け、夜明け前の二刻で搬出。荷役の手配は僕がやります」

「兵の巡回と夜間の鍵はオレが見ル」


 ガロウが胸を叩く。


「手ェ出してくる奴がいたラ、見せルだけで引かせル」

「見せるまでで留めてね」


 リュシアが釘を刺し、ミナが手を挙げる。


「じゃ、裏の空気は私が見る。影が店の周りに伸びてこないか、匂いでわかるから」

「踏み込みは一線手前だ」


 漣司が繰り返す。


「こちらが正しいほど速いと、向こうは測りに来る。そこで尻尾を掴ませない」

「了解でござる」


 ルーチェが静かに頷き、テリアが短く鳴いた。潮風が、図面の端をぱらりとめくった。港の鐘が遠くで鳴る。夕刻の合図。仕入れの商船が最後の荷を降ろし、通りの灯が少しずつ増えていく。


「――動く」


 漣司は立ち上がった。


「今宵は各自、仕上げの準備。明朝、契約へ向かう。窓口は私とリシュア。ロイは荷役の人繋ぎ、ガロウは夜間警備の顔繋ぎ。ルーチェは学院で灯台の剣をもう一度確認。ミナは――」

「へーい、踏み込み一線手前ね。わかってるってば」

「頼むぞ」


 ロイが目で言い足す。ミナは舌を出して笑い、肩をすくめた。


 ◇


 夜。〈潮見亭〉の窓から見える港の灯は、昨夜よりも身近だった。


 人の声、帆の揺れる音、遠い歌。二階堂商会の旗は、まだ店の看板ではない。だが、看板にかける名は決まっている。――正札、正量、正時。漣司は机に手を置き、静かに息を整えた。ラクリアで交わした約束、オルテリアで拾った光、バルメリアで磨いた理屈。それらを、海の街の潮に合わせて編み直すだけだ。


「明日から――始まる」


 呟きに、風がこたえる。帆布が鳴り、潮が返す。遠くで鐘が一つ。二階堂商会直営の店舗経営、セレヴァリアにて始動。数字と剣は、海の市場で新たな頁を開く。


 正攻法で、末席から。そこから世界は、いくらでも広がる。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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