表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/399

第131章 炭鉱都市オルテリア ― 再生の買収

炭鉱都市オルテリア――眠れる資源の地。

かつて地下深くには、危険なダンジョンが巣食っていた。

だが、未知は踏破され、脅威は制圧された。封じられていた鉱脈は再び息を吹き返し、街は「危機の上に立つ都市」から、「未来を掘り進める都市」へと姿を変えた。

 宴の夜から数日が経った。


 オルテリアの街は、まるで新しい生命を得たように活気づいていた。炭鉱の黒煙はもう上がらず、代わりに建設の槌音と人々の笑い声が響く。露店の並ぶ市場には、二階堂商会の商標入りの木箱がずらりと積まれ、復興の象徴として市民たちの誇りになっていた。

 市場には行商の声が戻り、炭鉱の坑口には新しい灯がともる。かつて盗賊団長だったザハード率いる開拓班が整備を終え、ラクリアとオルテリアを結ぶ新街道には、商会の旗を掲げた馬車が往来を始めていた。


「舗装率、予定より三日早いです」


 リシュアが手帳を見ながら淡々と報告する。


「ザハードたちも、見事にやってくれましたね」

「人間、肩書きより信念で動くものさ。現場の士気を上げるのは、数字より目的だ」


 漣司がそう言って書類を閉じる。穏やかな日差しの中、門前に一台の馬車が現れた。その車体には、湖上都市ラクリアの紋章――青い翼の意匠が刻まれている。

 馬車から降り立ったのは、深藍の外套をまとう初老の男。その静かな笑みが、街の空気を柔らかく変える。


 ――ラクリア議会議長、ルドヴィク・ラクリア。


「いやはや……これほどの再興とは。漣司殿、そして二階堂商会の皆さま、まことに見事です」

「議長。お忙しい中、ようこそお越しくださいました」


 漣司は丁寧に一礼する。


「お互い様です。あの時、オルテリアを救ってほしいと頼んだ私の願いに、ここまでの形で応えていただけるとは」


 ルドヴィクの目が穏やかに細まる。背後から、炭塵に染まった作業服の男が現れた。


「ルドヴィク……まったく、おせっかいなのは昔から変わらねぇな」

「ガラート。君もだ。炭の臭いをまとって、相変わらず現場にいる」

「現場が動いてる限り、俺は離れねぇよ」


 ふたりは短く笑い合い、かつての同志のように握手を交わした。


「ガラート。この街は、君と二階堂商会がいなければ再び息を吹き返せなかっただろう」

「……俺たちだけじゃねぇ。動いたのはここの連中だ」


 彼は坑道の方角を指さす。汗まみれの鉱夫たち、笑い合う家族、復興の音。ルドヴィクは頷き、やがて漣司に向き直る。


「――この街を、どうか導いてやってほしい。オルテリアは、あなた方に救われた。私からはそれだけです。あとは彼らに託します」


 そう言って、議長は穏やかな微笑を残し、馬車へと戻っていった。



 ◇



 翌日。


 二階堂商会オルテリア支部――


 かつて監理局と呼ばれた石造りの建物は、今や無駄な装飾を削ぎ落とされ、実務のための静謐な会議室へと生まれ変わっていた。高窓から差し込む朝光が、机に積まれた帳簿の縁を淡く照らす。漣司とリシュアは無言で書類を整理していた。紙の擦れる音だけが、規則正しく空間を刻む。


 ――その静寂を、破るように。


 バンッ!


 扉が弾けるように開き、ガラートが踏み込んできた。


「おい、漣司!」


 低く、荒い声。だが焦りが滲んでいる。


「どうした。珍しく血相を変えているな」


 漣司は顔を上げ、淡々と応じた。


「聞けばお前ら、街ごと買収してるって話じゃねぇか」


 漣司が苦笑しながら立ち上がる。


「資金流通と所有構造を整理しただけだ。そして腐敗を一掃し、我ら二階堂商会の元、街の政治から改革した」


「つまり――」


 ガラートが腕を組む。


「もう半分この街はお前らのもんってわけだな」

「半分、という言い方は正しくない」


 漣司は静かに首を振る。


「ここはまだ、契約前だ」


 漣司が穏やかに答える。その眼差しには、企業家の覚悟が宿っていた。ガラートは腕を組み、少しの沈黙の後、真っすぐに漣司を見つめた。


「……なら、こっちから言わせてもらう」


 リシュアが手を止め、ミナが息を呑む。


「オルテリアも――二階堂商会の傘下に入れてくれ」


 空気が、張り詰める。漣司は一歩、歩み寄った。


「……そちらから持ちかけてくるとは、もっと後になると思っていたんだがな」

「ハッ」


 ガラートが短く笑う。


「商会が仕切ってる町なんざ、いくつも見てきた。どこも搾取と腐敗の巣だ。だが、この前の宴で確信した。お前さん達は違う――この街を、一緒に生かす奴らだ」


 漣司の表情が少し和らぐ。


「そうか。では、引き続き街と炭鉱の指導は頼むぞ」

「当たり前だ」


 二人の間に、確かな信頼の空気が流れた。漣司は懐から、黒革の帳簿を取り出した。ずしり、と机に置かれたその音が、妙に重く響く。


「では――契約を結ぼう」


 指先で帳簿を、軽く叩く。その所作は、あまりに静かだった。


「――《買う》」


 空気が震えた。


 音もなく、金色の波紋が漣司の足元から広がる。壁に刻まれた古い紋章が歪み、床下の封印刻印が一斉に淡く発光する。会議室全体が、まるで巨大な魔導陣の内部に変わったかのようだった。天井から降り注ぐ光が、都市の輪郭を描き出す。


 オルテリア――街そのものの都市登録印が浮かび上がり、鼓動する。


 次の瞬間。二階堂商会の紋章が、金光を纏って重なった。

 拒絶はない。抵抗もない。


『――条件確認完了――』

『対象:オルテリア都市登録印』

『承認:都市代表 ガラート』


 重厚な声が、建物ではなく――

 地脈と街路、石壁と坑道を通じて、世界そのものから響いた。まるで都市自身が、新たな管理者を選び取ったかのように。


『――スキル《企業買収(M&A)》発動――』


 金光が収束し、空気が静まる。リシュアの手元の書類が自動で裏返り、新しい都市契約書がそこに記された。


「……登録完了。これよりオルテリアは、正式に二階堂商会傘下都市として認定されました」


 リシュアの淡々とした宣言で、会議室に残っていた緊張が、ふっと解ける。ガラートが鼻で息を鳴らし、肩をすくめた。


「やれやれ……。紙も印章もいらねぇな」


 そう言って、漣司を見上げる。


「――あんたの信念が、そのまま契約書だ」


 逆光が漣司の横顔を捉える。彼は一瞬だけ目を伏せ――すぐに、前を見る。


「信念は――」


 漣司は少しだけ目を細めた。


「信用を刻む、ペンだ」


 低く、しかしはっきりと。


「だから俺たちは、脅さない。奪わない」


 視線が、自然と集まる。


「――話して、買う」


 その言葉が、会議室に静かに染み渡る。


 短い沈黙。


 それから、ガラートが小さく笑った。


「はは……。悪くねぇ商売人だ」


 リシュアは無言で頷き、ミナは胸の前でそっと手を握る。ガラートは、満足そうに目を細めた。


 誰も拍手はしない。だが――誰も疑っていなかった。


 この瞬間から、この街のやり方は変わったのだと。



 ◇



 夕暮れ。


 炭鉱の丘に立つ二人の影が、ゆっくりと伸びていく。眼下にはオルテリアの街。坑道の入口や精錬炉の縁に灯った光が、ひとつ、またひとつと増え、まるで地上に降りた星座のように瞬いていた。


 風が丘を渡る。乾いた土の匂いに混じって、微かに甘い金属の香り――長い年月、この街を支えてきた炭鉱の息遣いが、胸の奥にまで入り込んでくる。


「……いい眺めだな」


 ガラートが、素直な声で呟いた。いつもの荒っぽさはなく、どこか感慨深い響きがある。漣司は黙って街を見下ろし、しばらくしてから静かに口を開いた。


「再生ってのは、全部を壊すことじゃない。生き残った価値を見極めて、それを未来に繋げることだ」


 ガラートは一瞬、目を細め――すぐに、らしく笑った。


「難しい顔で言うなよ。だが……嫌いじゃねぇ考えだ」


 手にしていたグラスを掲げる。琥珀色の液体が、夕焼けを映して揺れた。


「これからが、本当の採掘かもしれねぇな」


「ああ」


 漣司は頷く。


「掘るのは鉱石じゃない――希望だ」


 その言葉に、ガラートは短く息を吐き、笑みを深くした。


「言うじゃねぇか。なら俺は、腕が鳴るってもんだ」


 二人の視線の先で、夕陽がゆっくりと地平へ沈んでいく。

 赤に染まっていた街並みが、やがて夜の色を帯び、灯りが完全に主役へと切り替わる。


 炭鉱都市オルテリア。

 今日この日、正式に二階堂商会の翼の下へ入った街。


 その夜、誰かが大声で祝杯を上げることはなかった。

 だが確かに――歴史の歯車が、音を立てて回り始めていた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ