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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第124章 オルテリア瘴竜 ― 光が入る角度


 第五層は、地底湖の底に穿たれた迷宮のようだった。


 冷たい風が細く通り、濡れた岩肌が暗く鈍く光っている。

 頭上には古い梁の名残、足もとにはすり減った枕木が、ところどころ露出していた。

 坑壁には鉱脈が星座のように散り、四層の澄んだ光景とは対照的に、ここでは青黒い陰影が濃く沈んでいる。


「通気は静かだ。崩れの気配はねぇ」


 ガラートは壁に掌を当て、耳を寄せて微かな鳴きを拾った。


「だが奥は――吸ってる。……口があるな」

「温度と湿度は下向きです。風の筋は、右へ迂回しています」


 リシュアが測定器を見ながら、淡々と数字を告げる。


「歩幅一定、隊列維持で。社長、右回りで合ってます」

「了解した」


 漣司が短く答える。


「前、切り開ク」


 ガロウが斧を担ぎ直し、濡れた床をコツンと叩いた。


「薬品……よし、包帯……よし、落とし物……

 あ、待っ、待って……セーフ!」


 アリアが慌てて瓶の栓を締め直し、胸を撫でおろす。


「回復は任せてください」


 と言い直した。


「拙者の光はつなぐためにある。

 導きの糸は細く保ち、必要な時だけ増すでござる」


 ルーチェが静かに杖を胸に立てる。

 その声は低く穏やかだが、芯が通っていた。


「ロイ、あんたは左角。盾で視界を作って」


 ミナがひらりと前に出る。


「了解。左、任せろ。

 ミナは突っ込みすぎるなよ」


 ロイは笑いながらも、盾と重心を慎重に合わせた。

 坑道はゆるく折れ曲がり、ところどころ天井が低くなる。

 古い梯子は岩に飲まれ、

 レールは鉱石の膨張で歪みに歪んでいた。

 青黒い霧が薄く漂い、

 胸の奥に小さな刺のような違和感を残す。

 だが、その刺は歩を進めるほどに増えていく。


「右の壁、鳴きが変わった」


 ガラートの声が低く落ちる。


「ここから先、息が深ぇ……でけぇ空洞が控えてる」

「音の反射が膨らんでます。開けた場所です」


 リシュアの眼鏡に青い魔石の光が灯る。


「気圧、わずかに下がりました」

「よし、雑談は切る。集中しろ」


 漣司が手を下ろした。折れをあと二つ。最

 後の角を抜けた瞬間――視界の先が、ふいに縦へ抜けた。



 巨大な空洞。


 天蓋のように反響する天井。

 擦りガラスを重ねたような霧が、

 空間そのものを曇らせている。

 足元の岩盤には、焦げた煤が薄く積もり、

 踏みしめるたび微かに舞った。


 ――中央に、横たわるそれ。


 岩山に見紛うほどの黒い胴体。

 煤に覆われた鱗は鈍く光を弾き、

 まるで地層の一部が隆起したかのようだ。

 そして胸腔の中央。

 黒い膜に包まれたコア魔石が半ば露出し、

 呼吸に合わせて、どす黒く脈打っている。


 空気が、重い。

 喉の奥に、鉄と硫黄が混じったような臭いが絡みついた。


「……いた」


 ロイが、息を殺すように呟く。


 その瞬間、霧がわずかに揺れた。


 ――吐息だ。


 瘴気を孕んだ気流が、ゆっくりと洞内を撫でていく。


「瘴……気?」


 ミナが鼻を押さえ、顔をしかめる。

 リュシアは一歩、前に出かけ――

 すぐに足を止めた。

 視線は鱗、霧、脈打つ魔石へと忙しなく走る。


「……おかしい。瘴気の濃度が、一定じゃない」

「呼吸と、連動してる……?」


 アリアの指摘に、リュシアの表情が硬くなる。


「……コア魔石が、共鳴している。

 瘴気を吸い込み、内部で増幅して……

 吐き出している」


 短く息を吸い、言葉を選ぶように続けた。


「通常の攻撃で削っても、

 瘴気で再生される可能性が高いです。

 ……いえ、再生されない方が不自然ですね」


 数拍の沈黙。


 誰もが、黒い巨体から目を離せずにいた。


「――瘴竜しょうりゅう


 リュシアが、ようやく名を与える。


「ダンジョン化の核と化した個体です。

 この第五層そのものが、

 あれの肺みたいなものかと」


 空気が、さらに冷えた。


「ならば――」


 静かに、ルーチェが一歩前へ出る。

 糸の光が、淡く強まった。


「拙者の役目、はっきり致したでござる」


 光だけが、瘴気の濁りを切り裂くように、

 静かに揺れていた。


「呼吸の間を合わせ、光を刻む。

 皆々、注意を引き付けてくだされ」


 ルーチェの声に、白い光が微かに脈を打つ。


「通気は安定してる。崩れの気配はねぇが……」


 ガラートが空洞の骨壁に指を滑らせ、息の流れを測る。


「――来るぞ。次、深く吸う」


「了解」


 漣司が短く応じ、全体を見渡した。


「――勝ち筋だけを拾う。

 ルーチェの光で削り、他は隙を作れ。

 前に圧を掛ける。頭を下げさせるぞ」


「ロイ、顎を半歩、開かせロ」


 ガロウが低く言い、重心を落とす。


「了解。正面は私が受けます。

 首の動き、抑えます」


 ロイは脚を入れ替え、盾を斜めに構える。

 正面から受け、力の逃げ場を奪う構えだ。


「ミナ、尾の根。裂いていい。

 ――遅れだけ作って、深追いはしない」


 リシュアの指示に、ミナが短く笑う。


「了解。切って戻る。

 引っ張られたら即離脱ね」


「導きの糸を二層展開でござる。

 一層は位置共有、もう一層は幻覚干渉の軽減」


 ルーチェが杖を回すと、白い光糸が幾重にも走り、

 八人の腰を確かに結びつけた。


 

 その時――瘴竜が顔をもたげた。

 眼窩の奥で、煤の火花がチリ、と弾ける。

 胸腔が大きくせり上がり、深い吸気。

 周囲の割れ目から薄青い霧が逆巻き、

 渦を描いて竜の肺へ吸い込まれていく。


 喉が鳴った。――吐く。


「伏せて! 息を止めて――今!」


 アリアの叫びが空気を切り裂き、

 全員が反射的に腰を落とす。


 ――ごうっ。


 扇形に広がる瘴霧が地面を薙ぎ、

 岩肌を薄く削りながら通り過ぎた。

 白い靄が視界を飲み込む。

 

 視界が戻るより早く、

 漣司の手が鋭く振り下ろされた。


「前へ――踏み込め!」


 漣司の号令と同時に、

 ガロウが前に出た。


「押ス!」

 

 斧の面で前脚を打ち、衝撃を横へ流す。

 瘴竜の巨体が、わずかに――

 だが確実に、軸を崩した。


「今だ、角度を作る!」


 ロイが一歩踏み込み、盾を首の付け根へ噛ませる。

 力で止めるのではない。

 向きを固定し、逃げ場を消す。


「尻尾……腱だけ、そこ!」


 ミナが低く滑り込み、

 黒鱗の継ぎ目へ短剣を走らせた。


 チッ――乾いた音。


 尾の振りが、一瞬だけ鈍る。


「再生、止まった――今です!光を!」


 リシュアの声が戦場を貫き、瞬間の隙間を光が駆け抜けた。

 

「拙者の光――通すでござる!」


 ルーチェの杖先が白く灯り、

 足下に淡く光の道筋が描かれる。

 吸気・停止・吐気――

 呼吸のリズムに合わせ、

 光の道が揺れ、八人の動きを静かに結ぶ。


「吐きの瞬間に先んじ、光をコアへ。好機!」

 

 瘴竜の喉が震え、煤の火がちらつく。

 黒い膜がわずかに収縮した瞬間――


「――今!」

 

 白い光が、鋭く裂けるように走った。

 

 照明ではない、つなぐ光が、

 呼吸に先回りしてコアの黒膜へ正しい光を焼き付けた。


 ――じゅ、と低く弾ける音。

 

 黒膜が収まり、瞬間、

 鱗の谷に浮かぶ紋理が本来の色を取り戻す。

 光が触れたその跡だけ、静かに燃え、闇を裂いて見せた。


「入った……!」


 ミナの瞳が光り、口角が自然に跳ね上がる。


「効果、確認!減衰を――光式が上回っています。勝ち筋は、確実に存在します」


 リシュアの声が空洞に鋭く響き、空気を震わせる。


「押し続けル!」


 ガロウが斧を構え直し、前へ踏み込む。

 岩肌を蹴る足音が響く。


「ここは絶対に通さない!」


 ロイが盾を斜めに構え、巨体の軸を支える。

 光を受けて黒鱗が鈍く反射する。


「切って戻る!」


 ミナが尾を滑らせ、黒鱗の継ぎ目に短く、

 鋭い一撃を刻む。


「魔力集中――次も光を通すでござる」


 ルーチェが杖を揺らし、呼吸を整えた。


「全員、役目を崩すな」


 漣司の声が空洞に鋼のように響き渡る。

 瘴竜の胸腔が大きく震え、

 空洞全体が低く唸るように共鳴した。

 吸い――止め――吐く。

 次の呼吸が膨らみ、黒いコアが脈打つたび、

 鱗の稜線に微かな火花がちらつく。


 ルーチェは杖をわずかに傾け、

 白い光の粒を束ね、腰の糸を通じて八人の隊列へと流し込む。

 光は脈打つ鼓動のように連なり、呼吸と心拍をひとつに束ねていった。


「皆々、呼吸を合わせるでござる。

 拙者の光、再び――」

 

「《聖閃浄域セイクリッド・レイ》!!」


 名が放たれた瞬間、空気そのものが白に染まる。


 黒い喉が低く鳴り、闇が軋むように歪む。

 瘴竜の咆哮が鼓膜を叩く、その刹那――


 ――光が、走った。


 束ねられた光は一本の聖なる奔流となり、

 咆哮を切り裂き、黒膜を貫き、闇そのものを灼き払う。

 世界が一瞬、昼へと裏返る。


 白光が瘴竜の闇を裂き、黒は悲鳴のように揺らぎながら、浄化されて霧散した。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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