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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第122章 浄唱 ― 光が道をつなぐ


 ルーチェは杖を胸の前に立て、短く息を吸い込む。

 次の瞬間、白い粒子が一気に集まり、杖の周囲に渦を描いた。


 足元では、床に刻まれた白い筋が淡く光り、

 円を描くように広がっていく。

 その光は八人の足元を順に結び、まるで見えない糸で繋がれたように、

 呼吸と鼓動を揃えていった。

 コアの浄化は、すでに仕上げの段階に入っている。


「対幻結界陣――浄唱ピュリフィケーション


 音のない衝撃が、空間いっぱいに広がった。

 爆音も風圧もない。ただ、光だけが波のように走る。

 それは照らす光ではない。

 互いの位置と呼吸を正確に結び直す、つながりの光だった。


 ルーチェの放った光が八人を包み、呼吸のリズムをひとつに揃える。

 核が吐き出す歪んだ脈よりも早く、正しい拍を空間に刻み込んでいく。


「――シール!」

 

 その言葉と同時に、核の青白い光が、すっと縮んだ。


 次の瞬間――


 空間を満たしていた薄い泣き声も、耳障りな嘲りも、完全に消えた。

 残ったのは、静けさ。

 冷えた石が、わずかに音を立てる気配だけ。

 光がゆっくりと引いていく。

 歪みは消え、刃のようだった反響も失われ、周囲の形がはっきりと戻った。


 そして――世界の色が、変わる。


 黒い煤の膜が剝がれ落ち、岩肌が露わになる。

 天井や壁に埋め込まれていた魔石が、澄んだ光を放ち始めた。


 赤、藍、翡翠。


 それぞれの光が混ざり合い、坑内をやさしく染めていく。

 遠くで、水が流れる音がした。

 今まで聞こえなかった、ごく当たり前の音。

 反響層は、ただの炭鉱に戻っていた。


 けれど――そのただが、胸の奥に、深く沁みた。



 ◇



「……戻ったな」


 ガラートが、ゆっくりと息を吐いた。

 肺の奥に溜まっていた緊張が、白い吐息と一緒にほどけていく。

 湿った空気が鼻を打つ。石の冷えた匂いと、かすかな鉄の香り。

 幻の煤臭さも、焼けた魔力の残り香も、もうない。


「湿った石と鉄の混じるこの匂い。これが、本来のオルテリアの匂いだ」

  

 言いながら、ガラートは足元の岩肌を踏みしめる。

 確かな硬さ。揺らぎのない感触。


 ――現実だ、と身体が遅れて理解する。


 彼は、言葉を探すほどの間を置き、ゆっくりと仲間たちを見渡した。

 誰もが汗と埃にまみれながらも、立っている。

 呼吸が揃い、視線が澄んでいる。


「ここが――外から来た連中が消えた層だった」


 低く、噛みしめるような声。


「大陸政府の救助隊も、ギルドの猛者も、誰ひとり戻っちゃこなかった」


 記憶の底に沈んでいた光景が、ふっと滲む。

 地上に積まれた回収品。

 欠けた盾。折れた剣。持ち主のいない装備。


「俺は地上で片付けの音と、置いてかれた装備だけ見た。

 ここまで辿り着いたのは、俺も初めてだ」

  

 自嘲にも似た息が、喉から漏れる。


 ガラートの視線が、順に仲間たちをなぞった。

 斧を肩に担ぐガロウ。刃を拭うミナ。盾を下ろしたロイ。

 術式の残光を見つめるリシュア。薬袋を抱えるアリア。

 そして、静かに杖を抱くルーチェ。


「お前らは、心が強ぇ」


 一度、言葉を切る。


「……いや、それだけじゃねぇ」 

「絆が強ぇんだ。息を合わせ、声を重ねて、戻る道を最初に刻んでいた」


 戻る道。


 それは、地図にも記録にも残らない、生きて帰るための線。


「今までの連中に足りなかったのは……たぶん、それだ」


 空気が、少しだけやわらぐ。


「ふふっ、当然でしょ」


 ミナが肩をすくめ、どこか照れたように笑った。

 緊張の抜けたその笑顔に、場の重さがふっとほどける。


「ま、うちらの信条はさ。頼っていいけど、寄りかかりすぎないってやつ?」


 くいっと指先で自分の胸を叩く。


「だってさ――仲間がちゃんと見てるんだもん。サボれないでしょ」

「……照れますね」


 ロイは背筋を正し、きちんと踵を揃えて一礼した。


「ですが、あの一手は……ルーチェが導いてくれたからです」


 視線を真っ直ぐ向ける。


「私たち全員が、あの光を目印にして動けたのは事実です」

「い、いやいや! そ、そんな大それたものでは……!」


 ルーチェは慌てて両手をぶんぶん振り、

 頬から耳まで一気に赤く染める。


「拙者は、ただ皆の呼吸が離れぬよう、糸を結んでいただけでござるよ。

 皆が揃っておったからこそ、罠も幻も解けたのでござる!」


 照れ隠しのように胸元の杖を抱き寄せ、

 ルーチェは小さくうなずいた。

 

 ガロウがニヤリ。


「自慢しとケ。実力の自慢は、していイ」

 

 アリアが手をぱん、と合わせた。


「ロイさん、どうぞ。ガロウさんは……少しだけ、ですよ」

「ンだよ、少しだけかヨ!俺の喉も戦ってたんだけどナ!」

「一気に飲むと、体が追いつきませんから。深層で倒れられたら困ります」

「チッ……医療班は、ほんと容赦ねぇナ」


 軽い笑いがこぼれ、岩肌にやわらかく反射する。

 その笑いは、ただの冗談ではない。

 さきほどまで心に絡みついていた不安と緊張を、

 静かに溶かしていく確かな熱だった。



 ◇



 ――笑える。


 それだけで、生きて戻ってきたと実感できる。


「――浮かれ過ぎは、ここまでだ」


 漣司の低い声が、場の空気をきりっと引き締めた。


「目的は核の浄化とダンジョン化の解放。

 後者はこれからだ。第五層――元凶のいる場所を探すぞ」

「呼吸が正された今なら、通気が道を教える」


 ガラートが壁へ掌を当てる。


「炭鉱は息でつながってる。

 下へ抜ける風筋ふうすじを拾えば、深層の口に近づける」

 

 探索再開。頭上の魔石が揺れる明かりを落とし、

 導きの糸が腰元でいまここの鼓動を伝える。

 ガラートが指先で岩をこつりと叩き、耳で風を測る。


 第五層への探索が始まった。

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