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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第112章 第三層 ― 地底の戦場、連携の刃

炭鉱都市オルテリア――眠れる資源の地。

だが地下深くには、街そのものを呑み込む危険なダンジョンが広がっていた。

資源確保と街の命運を賭け、

二階堂商会達は少数精鋭で未知の深層へと踏み込んでいく。


 ――地の底が、息をしていた。


 第三層。


 それは、二階堂商会一行の誰もが言葉を失うほどの、圧倒的な広さを誇っていた。

 天井は高く、ところどころ崩落し、巨大な空洞がいくつも連なっている。

 光を放つ鉱石が点在し、闇と輝きが交錯する光景はまるで地上の夜空のようだ。

 ガラートが灯りを掲げ、低く呟いた。


「ここが、かつてオルテリアの心臓と呼ばれた場所だ。」


 壁面には採掘跡が無数に残り、錆びた台車と壊れたツルハシがあちこちに散乱していた。


「当時はここが一番、鉱石も魔石も採れてた。

 地の恵みはこの層に宿るって言葉まであったくらいさ。」

 

 リュシアが記録を取りながら頷く。


「つまり、繁栄の中心だった場所が……今は廃墟、ということですね」

「そういうこった」


 ガラートが肩をすくめる。


「だが、廃れた場所ほど、何かを取り戻そうとする力が眠ってる」

 

 漣司は静かに一歩前に出た。


「――ここから陣形を整える」




 

 漣司の声が、坑道の奥へとまっすぐ伸びた。

 湿った岩肌に反響し、その場の空気を引き締める。


「前衛――ガラート。進路の判断と先導を任せる。それからミナ、斥候役だ」


 名を呼ばれ、ミナは即座に頷いた。

 軽やかに肩をすくめ、唇の端を吊り上げる。


「了解。でも――足、引っ張んないでよ。おじさん?」


 挑発めいた視線がガラートに向く。彼は鼻で笑い、肩の力を抜いた。


「ぬかせ。誰が誰の尻拭いしてるか、すぐわかるさ」

 

 軽口を交わす二人のやり取りに、ガロウが笑った。


「ハッハッハ、こりゃオモシロイ組み合わせダ!」


 漣司は一瞬だけ口元を緩め、すぐに次を告げた。


「中衛は――俺とロイ、それにガロウが入る」

「おうヨ!」


 ガロウは斧を肩に担ぎ直し、無邪気なほど単純な自信を声に乗せる。


「何カ出てきたラ、ブッたたくだけダ!」

 

 漣司が苦笑する。


「……頼もしい限りだ」


 漣司が苦笑すると、隣でロイが静かに剣を抜いた。

 刃に灯る覚悟の光を、迷いなく漣司へ向ける。


「社長。背中は、任せてください」

「ああ、信じている」


 短い言葉と頷きだけで、十分だった。


「後衛は――リュシアとルーチェ。補助と魔法支援を頼む。それから、アリアも後ろだ」


 名を呼ばれ、アリアは一瞬息を呑み、すぐに手帳を胸に抱え直した。


「は、はい……! 後方観測と記録、結界反応の監視を担当します」


 足取りは控えめだが、その瞳は坑道の闇を逃さない。


「了解しました」


 リュシアが背筋を正し、簡潔に応じる。


「私の魔力はあなたの足元にも及びません。……頼りにしていますよ、ルーチェさん」

「か、かたじけないでござります……!」

 

 ルーチェは直立し、杖を抱える手が震える。


「まさか氷の副社長殿に、そのようなお褒めのお言葉を……ッ!」

「褒めてません。信頼していると言ったんです。」

「な、なお怖ェ……!」


 ガロウのぼそりとした一言に、張り詰めていた空気がふっと緩む。


 編成は整った。

 前へ進む者、支える者、そして見届ける者――

 それぞれの役割が、闇の中で静かに噛み合っていく。




 

 行軍が始まった。


 坑道は獣の内臓のように絡み合い、無数の分岐が闇へと溶けている。

 天井から垂れる鍾乳石が松明の火を受けて鈍く光り、

 壁面には古い爪痕と、乾いた血の染みが残っていた。

 足音を最小限に抑えながら、隊列の先頭を行くミナだけが、迷いなく進む。

 立ち止まることも、振り返ることもない。

 彼女は一瞬、指先で空気を掴むような仕草をした。


「……この風の通り方。右ね」


 そう言って、軽く顎をしゃくる。


「魔物の巣が近いわ」


 即座に、後ろから低い声が飛ぶ。


「感覚で道を選ぶな。根拠を言え」


 ガラートだ。

 警戒は解かず、それでもどこか楽しげな苦笑を浮かべている。

 ミナは歩みを止めず、肩越しにちらりと振り返った。


「鼻よ」

「鼻?」

「血と鉄の匂い。あと、湿った鱗の臭み」


 彼女は鼻先を軽く鳴らす。


「そういう方向はね、だいたい当たりなの」

「……なるほど」


 ガラートは斧を持ち直し、わざとらしく肩をすくめた。


「勘ってやつか」

「違うわ」


 ミナが即座に切り返す。

 くるりと振り向き、いたずらっぽく笑った。


「ただの勘じゃないの。女の勘よ」

 

 ガラートは苦笑いしながらも、彼女の指した方向へ進む。

 そして案の定、岩の陰から一匹の魔物が姿を現した。

 岩肌と同化したトカゲのような魔獣――《地竜仔アースリザード》だ。


「出たナ!」


 最初に吠えたのはガロウだった。

 咆哮と同時に踏み込み、両腕で握った斧を叩きつける。


 ――ドンッ!


 刃が地面を割り、坑道全体が揺れた。

 衝撃で砕けた岩片が宙を舞い、地竜仔が低く唸り声を上げる。

 その一瞬を逃さず、漣司の声が鋭く飛んだ。


「中衛、距離を保て! 不用意に詰めるな――リュシア、支援を!」

「《氷鎖アイスバインド》!」

 

 リュシアの詠唱が終わるや否や、地面が軋んだ。

 白霧とともに魔力が噴き上がり、床から氷の鎖が次々と伸びる。

 絡みつく。締め上げる。地竜仔の脚と胴を縛り上げ、巨体が強引に引き倒された。


「――今!」


 誰かが叫ぶ前に、ミナはもう動いていた。

 低く、鋭く跳ぶ。

 坑道の影を蹴り、身体をひねりながら魔獣の死角へ。


「はっ!」

 

 短い気合とともに、刃が走る。銀光が弧を描き、次の瞬間――


 ザシュッ。


 鈍い感触。切断音と同時に、赤い血飛沫が空中に散った。

 首元を深く裂かれた地竜仔が、喉を鳴らしながら崩れ落ちる。

 重たい巨体が地面に倒れ込み、振動が靴底を伝ってきた。


 坑道に再び静寂が戻る。


「……悪くない」


 ガラートが低く呟き、斧を肩に担ぐ。


「さすが、場数踏んでるな」

「当たり前でしょ」


 ミナは剣を一振りし、刃についた血を払う。

 動きに一切の無駄がない。


「社長に、恥はかかせないわ」

「ククッ……」


 ガラートが喉を鳴らして笑った。


「気に入ったぜ」


 松明の炎が揺れ、血の匂いが坑道に残る。

 だが隊列は崩れない。


 ――まだ、先がある。




 

 さらに奥へ踏み込んだ、その瞬間だった。

 三叉路の向こう、闇の奥から低く湿った唸り声が重なって響く。


「……来るよ!」


 ミナの声が鋭く跳ねた。


「複数体!」

「数は?」

「五……いや、六!」


 一瞬の間もなく、漣司の指示が坑道を貫く。


「前衛、正面を抑えろ! 中衛、左右援護! 後衛――障壁展開!」


 命令は簡潔で、迷いがない。それだけで、全員の身体が自然と動いた。

 ルーチェが一歩踏み出し、杖を高く掲げる。


「《光壁ルーミナス・シェル》――展開!」

 

眩い光が広がり、暗闇を押し返す。

リュシアの魔力がそれを補強するように重なった。


「魔力干渉、安定化……補強に入ります!」


 リュシアの声と同時に、光壁の縁をなぞるように冷たい魔力が重なる。

 障壁は厚みを増し、重厚な輝きを帯びた。

 

「来いヨ、岩トカゲどもォ!!」


 ガロウの咆哮。

 振り下ろされた斧が空気を裂き、金属音とともに火花が散る。


 ――ガンッ!!

 

 斧が一閃するたびに、地竜仔の群れが吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 一体が叩き飛ばされ、壁に激突する。

 だが群れは止まらない。左右から、さらに二体が迫る。


 その隙を突いて、ミナとガラートが左右から同時に攻撃を仕掛けた。

 連携は流れるようで、二人の呼吸はまるで長年の戦友のように合っていた。


「……抜ける!」


 ミナが低く告げると同時に地を蹴った。

 影のように滑り込み、敵の懐へ。


「合わせろ!」


「了解!」


 ガラートが半歩遅れて踏み込み、豪快に斬り上げる。

 上下から交差する二つの刃。


 ――ザンッ!


 二体の地竜仔が、ほぼ同時に崩れ落ちた。


「チッ……!」


 残る魔物が吠え、前に出ようとした、その刹那。


「――終わりだ」


 漣司の声は静かだった。だが、その一言で空気が締まる。

 踏み込み、抜刀。無駄のない一閃が走り――


 ――シュッ。


 残る一体が、音もなく真っ二つに裂けた。


「やるじゃねぇか、小娘。

「そっちこそ、悪くないわね」

 

 笑いながら背中合わせになる二人。

 血の臭いが立ち込め、戦場に静寂が戻る。

 ルーチェが光を弱めながら、安堵の息を漏らす。


「皆、無事でござるな……見事な連携にござった」

 

 リュシアが小さく頷く。


「即応性、連携、魔力制御……この水準なら、四層も現実的ですね」

「いやぁ……」


 ガラートが笑いながら頭を掻く。


「想像以上だ。まさか商会の連中が、ここまで戦えるとはな」

「我々は――」


 漣司が剣を収め、静かに言う。


「武装法人、二階堂商会だからな」


 その言葉に、ガラートは深く息を吐いた。


 ――この連中となら、四層の先も、見られるかもしれない。




 

 戦闘の熱が引いたあと、短い休息が訪れた。

 坑道の奥から吹き抜ける風が、湿り気を帯びた空気を運び、火照った肌を冷やしていく。

 崩れた岩の上に腰を下ろしながら、ガラートが低く呟いた。


「……三層の空気が、変わってきたな」


 風に混じるのは、土と鉄だけではない。

 どこか重く、息を吸うたびに胸の奥へ沈んでいく感覚。


「ここから先が深層域だ」


 ガラートは視線を前へ向けたまま続ける。


「気を抜くな。地形も、魔物も……今までの常識は通じねぇ」


 漣司は無言で頷き、闇の向こうを見据える。

 灯り石の光が届かぬ先には、ただ黒が広がっていた。


「……四層への道は、まだ姿を見せないな」

「ええ」


 リュシアが記録帳を閉じ、音を立てないよう革紐を留める。


「ですが、魔力反応の推移は明確です。

 ここまで来た以上、確実に核心へ近づいています」


 その言葉に、アリアが静かに微笑んだ。

 岩壁にそっと手を当て、目を閉じる。


「皆さん、すごいです……」


 少しだけ声を落とし、続ける。


「地の鼓動が、さっきより穏やかになってます。

 まるで……こちらを受け入れ始めたみたい」

「へぇ」


 ミナが軽く肩をすくめ、口元を緩めた。


「それが気のせいじゃなければ、だいぶ助かるんだけど」


 誰かが小さく息を漏らし、場の空気がわずかに和らぐ。

 再び歩き出すと、坑道に足音が重なった。

 乾いた音、湿った音、装備が触れ合う微かな金属音。


 一歩、また一歩。

 その響きは、眠れる地の奥深くへと届く鼓動のように――


 二階堂商会は、確かに前へと進んでいた。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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