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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第111章 第二層 ― 光の残響と地に生きる者

炭鉱都市オルテリア――眠れる資源の地。

だが地下深くには、街そのものを呑み込む危険なダンジョンが広がっていた。

資源確保と街の命運を賭け、

二階堂商会達は少数精鋭で未知の深層へと踏み込んでいく。

 地の底に降り立った瞬間、空気が変わった。


 第一層の湿り気と煤の匂いとは違う、どこか神聖な静寂――。

 オルテリア炭鉱の第二層は、まるで「眠る星空」をそのまま閉じ込めたような空間だった。

 壁面を覆う鉱石や魔法石が淡く光を放ち、呼吸するように脈動している。

 その光が霧のように漂い、一行の足元に模様を描いていた。


「……これは、ただの鉱脈じゃないな」


 ロイの呟きは、独り言に近かった。

 壁際に露出した鉱石を前に、足が自然と止まる。

 光を受けて鈍く輝くその層は、どこか脈打つような気配を帯びていた。


 先頭を歩いていたアリアが、すぐに気づいて振り返る。

 手には、使い込まれた測定具。透明な筒の中で、

 細かな光点がゆっくりと巡っていた。


「はい」


 小さく息を整え、彼女は答える。


「ここの魔石層は、共鳴型です」


 測定具を壁に近づけると、内部の光が一定のリズムで揺れた。


「魔素が一方向に溜まるんじゃなくて……ほら、こうやって自然に循環してる。

 それができている証拠ですよ」


 説明する口調は落ち着いていて、どこか板についている。

 まるで講義室で黒板を指す教師のようだった。


「この層は魔力が安定している分、魔物の数も少なめです」


 一拍置き、アリアは周囲を見回す。


「ただ、そのぶん流れが穏やかなので――」


 彼女は少し言葉を選びながら続けた。


「攻撃系の魔術は、ここだと相性があまり良くありません。

 魔力が乗らない感じですね」


 そう言ってから、ルーチェの方を見る。


「ルーチェさん。詠唱速度、いつもより一段階落とした方がいいと思います」


 急かすようでも、押しつけるようでもない。

 現場を見て導き出した、自然な助言だった。


 ルーチェは杖を軽く握り直し、深く頷く。


「うむ……見事な見立て」


 その声には、素直な感心が滲んでいる。


「まこと、学問とは実戦の道に通ずるものなり」


 その言葉に、アリアは目を丸くし――


「い、いえいえ!」


 とアリアは慌てて手を振る。


「私なんて、そんな大したことは……」


 頬をかきながら、少し照れたように笑う。


「ただ、この炭鉱に通いすぎて、地形を覚えちゃっただけですから」


 謙遜とも、照れ隠しともつかない言葉。

 だがその裏にある経験の積み重ねを、一行はすでに感じ取っていた。

 そのやり取りを聞いていたミナが、肩を揺らしてくすりと笑った。


「通いすぎたって……」


 視線を坑道の奥へ向け、改めて周囲を見回す。


「普通の女の子は、こんな場所に通わないのよ?」


 湿った岩肌。錆びた道具。足元に残る、古い採掘の名残。

 言われてみれば、確かに日常とはほど遠い光景だ。


「えへへ……たしかに」


 アリアは照れたように笑い、ランプの持ち手をぎゅっと握り直した。


「でも、ここにいると落ち着くんです。

 地の呼吸っていうか……こう、胸の奥まで、静かになる感じがして」


 言葉を探しながらも、その表情は本心そのものだった。


「変わってる子だナ」


 ガロウが鼻を鳴らし、苦笑混じりに言う。


「だが、嫌いじゃねェ」


 一呼吸置いて、低い声で続けた。


「オレもな。戦場の音がねェと、どうにも眠れねェタチだ」


 豪快な体躯に似合わず、どこか達観した響き。

 その一言に、周囲から小さな笑いと頷きが漏れる。

 場の空気が、ふっと緩んだ。その様子を横目に、

 リュシアは静かに記録帳を開く。

 羽ペンが紙を滑り、淡々と数値を書き留めていく。


「湿度、約五十パーセント強」


 視線を上げ、周囲を一瞥。


「空気はやや薄いですが、酸素濃度は安定しています」


 彼女の声は冷静で、感情の揺らぎがない。


「――少なくとも、ここまでは問題なさそうですね」


 オルテリア炭鉱・第二層。

 探索は、まだ制御できる緊張の中にあった。



 ◇



 やがて坑道は、ゆるやかにその表情を変えた。

 天井が高くなり、壁の圧迫感が薄れる。

 足元は削り慣らされた岩盤で、

 これまでのぬかるみとは明らかに違う感触だった。

 そして、視界の先。

 滑らかな岩の上に残された焚き火の跡。

 脇に寄せられた木製の荷車。

 天井から吊るされ、淡く光を放つ灯り石。


 ――そこには、明確な人の生活の痕跡があった。


「……こんな場所に、キャンプ跡が?」


 ロイが思わず呟き、周囲を見回す。


「いや、跡じゃねぇ」


 ガラートが言いながら前に進む。

 彼の足取りは迷いがなく、まるで帰宅するような自然さだった。


「おい――いるか?」


 彼は焚き火の向こう、岩陰へ向けて声を張る。


「久しぶりだな!」


 声が反響し、坑道の奥へと溶けていく。

 一瞬の沈黙。次の瞬間、影が――ゆらりと動いた。

 ランプの明かりがその姿を照らすと、しなやかな体躯の女性が立ち上がった。

 包帯を幾重にも巻いた腕には、無駄のない筋肉が浮かび上がっている。

 腰には、年季の入った鉄製のヌンチャク。

 鋭い眼差し。だが、その奥には、確かに見知った相手を見る色があった。


「……ガラートか」


 低く、よく通る声。


「やっと顔を出したかと思えば、大勢連れてるじゃない」


「三か月ぶりだな、ミルザ」


 ガラートは肩をすくめるように言った。


「元気そうで何よりだ」

「ま、こっちはいつも通りよ」


 ミルザは軽く首を回し、身体をほぐすように一歩踏み出す。


「あんたこそ、また潜る気になったの?」

「まぁな。今回はちょっとしたお使いでね」


 ガラートが軽く笑うと、ミルザも小さく口角を上げた。


「お使いって顔じゃないけど」


 じっと、ガラートの目を見る。


「あいかわらず、目がギラギラしてるわね」

「そっちは変わらず修行中毒か?」

「鍛えなきゃ鈍るでしょ」


 そう言って、彼女は軽く地面を踏みしめた。


「あたしはね。地の底でしか、ちゃんと呼吸できないのよ」


 一連のやり取りに、一同は思わず顔を見合わせる。

 ミナが、声を潜めて呟いた。


「……たまにいるのよね。こういう、ダンジョンが家な人」

「仙人の類だな」


 ロイが苦笑する。


「仙人っていうより――」


 ガロウが腕を組み、ミルザを値踏みするように見た。


「地下界の番人、って感じだナ」


 アリアは嬉しそうに手を振った。


「ミルザさん! こんにちは!」


 アリアだった。両手を振りながら、ぱっと顔を輝かせる。


「お久しぶりです!」

「あら、アリア」


 ミルザの表情が、ほんの少し柔らぐ。


「今日も元気ね。まだ外の世界に戻る気はなさそうね?」

「はいっ!」


 即答だった。


「まだ調査したいことが、山ほどありますから!」

「ほんと、変わってるね、あんた」


 ミルザは小さく笑い、


「どうだい。いっそ弟子にでもならない?」


 冗談とも本気ともつかない声音で、そう告げた。


 オルテリア炭鉱・第二層。


 そこには、地上とは別の時間を生きる者が、確かに存在していた。



 ◇



 焚き火を囲み、一行は短い休憩に入った。

 灯り石の淡い光と、焚き火の赤が重なり、岩肌に揺れる影を描く。

 冷えた身体に、湯気の立つカップの温もりがじわりと染み渡った。

 誰もが自然と腰を下ろし、武器を手の届く位置に置く。

 ここはまだ第二層――だが、その先の話題が出ると、空気は一段引き締まった。

 ガラートが湯を一口すすり、焚き火を見つめたまま口を開く。


「――三層、今どんな様子だ?」


 問いは短く、無駄がない。

 ミルザは少し考えるように視線を落とし、やがて静かに答えた。


「前より瘴気が濃くなってる」


 焚き火に小枝を一本くべながら、続ける。


「魔物も、全体的に気性が荒いね。

 とはいえ……まだ、致命的ってほどじゃない」


 その言い方が、逆にいずれ致命的になる可能性を匂わせていた。


「四層は?」


 ガラートが、間を置かずに重ねる。

 その瞬間、ミルザの表情がわずかに曇った。

 炎を見つめる視線が、どこか遠くへ向く。


「……相変わらずだよ」


 低く、慎重な声。


「入るたびに構造が変わる。

 昨日通れた道が、翌日には壁になってる」


 指先で、地面の小石を転がしながら言葉を選ぶ。


「……まるで何かが内部を書き換えてるみたい」


 焚き火が、ぱちりと音を立てた。


「迷うから、最近は足が遠のいているよ」


 アリアが、はっと息を呑んだ。

 記録を取っていた手が止まり、顔を上げる。


「……地殻変動では、説明できません」


 真剣な眼差しで、ミルザを見る。


「魔力の流れに、人工的な干渉反応があります。

 何者かが――意図的に、層を操作している可能性が……」


「人工的、ね」


 低く呟いたミナは、眉間にしわを寄せた。

 焚き火の明かりが、その険しい横顔を赤く照らす。


「もし人間の手でそんなことができるなら……とっくに制圧されてるはずでしょ」


 理屈としてはもっともだった。

 都市の力、ギルドの戦力、錬金や魔導――

 どれか一つでも本気を出せば、炭鉱一つを抑え込むことは 不可能ではない。


「だから、人じゃねぇんだろう」


 ガラートが低く呟く。焚き火がぱちりと音を立てる。

 火の粉が舞い、ミルザの横顔を照らした。


「……行くのね、四層の先へ」

「ああ」


 ガラートは頷く。


「街を救うためだ。ダンジョンを閉ざしたままじゃ、オルテリアは干上がる」


 炭鉱は、この街の血管だ。

 そこを止めれば、経済も、人も、やがて枯れる。


「……わかってる」


 ミルザは短く息を吐いた。

 そして、焚き火越しに一同を見回す。


「でも、気をつけなさい」


 声の調子が、僅かに低くなる。


「四層に近づいた者は、みんな声を聞いたって言う」

「声?」


 リュシアが反応する。


「ああ」


 ミルザは頷く。


「名前を呼ばれるんだって。心を試すみたいに……甘く、優しく」


 焚き火が、ふっと小さく揺れた。


「そしてそのまま進んだ者は、二度と戻ってこなかった」


 その一言で、場の空気がぴんと張り詰める。

 笑いも、軽口も、完全に消え失せた。

 ルーチェがそっと目を閉じ、胸元で数珠を握る。


「心惑わす術……」


 静かな声で、噛みしめるように言った。


「古の迷宮に見られる幻念の呪にござるな。

 精神に直接語りかけ、己の欲や後悔を映す……まこと、厄介なもの」


「……なるほど」


 漣司が短く頷く。


「それも情報としてありがたい。警戒しておこう」



 ◇



 やがて休憩を終え、一行は立ち上がった。

 ガラートがミルザに一歩近づく。


「――来ないか? お前がいれば心強い」

「ありがたいけど、群れるのは性に合わないの」


 ミルザは笑って、焚き火の火を棒でつつく。


「私はここで、地の流れを見てる方が落ち着くのよ」

「わかった」


 ガラートは短く頷き、笑った。


「なら、また三か月後にでも顔を出すさ」

「ええ。その時、生きてたらね」


 軽口の裏にある真剣さに、誰も言葉を挟めなかった。

 彼女は二階堂商会の面々を見渡した。


「……でも、いい顔してるね。全員、迷いがない。

 その目なら、きっと深淵まで行ける」


 ミナが笑って手を振る。


「お墨付きもらったわね、社長」

「……光栄だな」


 漣司が静かに頭を下げる。


「あなたのように、この地を知る者の助言は貴重だ」


 ミルザは背を向け、炎越しに手を振った。



 ◇



 坑道の奥に進むと、空気が再び変わる。壁の光が薄れ、代わりに冷気が肌を刺す。

 アリアが測定器を見て顔を上げる。


「魔素の密度、上昇しています。……もうすぐ境界線です!」

「三層の入口か」


 ガラートが低く呟く。


「ここから先、魔物が本格的に動き出す。油断するな」


 漣司が振り返り、全員に告げた。


「ここからが試練だ。だが恐れるな。

 ――地は我々の敵ではない。目を逸らさず、進め」


 ミナが剣を抜き、ロイが盾を構える。

 ルーチェが光を強め、闇を押し返す。

 ガロウは斧を肩に担ぎ、笑った。


「オウ、いよいよ面白ェ展開ダナ!」


 その声に皆が微笑み、隊列を整える。

 薄闇の向こう、階段のような岩道が地の奥へと続いていた。

 足を踏み出すたび、地面が低く唸る。

 まるで地の心臓が、彼らの足音に共鳴しているかのようだった。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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