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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第108章 封鎖の記憶 ― ガラートのダンジョン講義

交易路を切り拓き、湖上都市ラクリアを再生させた武装法人二階堂商会。

だが商会の資金基盤は万全ではなく、次なる一手が求められていた。

彼らが向かうのは、ダンジョン化により衰退した

炭鉱都市オルテリア――眠れる資源の地。

失われた街を再生し、商会と大陸の未来を繋ぐ、新たな挑戦が始まる。

 旧ギルドの一室。


 かつて炭鉱都市オルテリアの中枢として機能していたその部屋には、

 長い沈黙の時代を越えて、再び灯がともされていた。

 煤でくすんだ石壁に、ランプの光が揺れ、古傷のような亀裂を浮かび上がらせる。


 円卓の中央には、年季の入った一枚の地図。

 幾度も折られ、広げられ、

 書き足されてきたそれは、単なる地形図ではない。

 人の欲と恐怖、そして封鎖という決断が刻み込まれた――

 記録だった。


 地図を囲むように座るのは、二階堂商会の中核を担う面々。

 漣司は腕を組み、視線を地図に落としたまま沈黙を保っている。

 リュシアはすでにペンを構え、

 数値や構造を読み取ろうと目を細めていた。

 ミナは背もたれに軽く寄りかかりながらも、

 足先はいつでも動けるよう張り詰めている。

 ガロウは椅子に深く腰を下ろし、

 だが獣のような集中力で空気を嗅いでいた。

 ルーチェは胸の前で手を組み、祈るように目を閉じている。


 そして――案内人ガラート。


 この街の裏も表も、栄光も崩壊も知り尽くした男。

 ガラートは無言でランプの芯を調整し、明かりを一段落とした。

 部屋の影が深まり、円卓の中心だけが、

 まるで舞台のように照らし出される。


「さて……」


 低く、かすれた声。

 それだけで、全員の背筋が自然と伸びた。


「炭鉱ダンジョンの具体的な話をしようか」


 その言葉と同時に、ガラートの指が地図の奥深く――

 赤線で封じられた区域をなぞる。


「元はただの炭鉱だった。だがな、ある時期を境に……

 ここは掘る場所から、近づくなって場所に変わった」


 指先が止まる。

 そこには、封鎖日を示すかすれた文字。


「瘴気が噴き出し、魔物が湧き、坑夫が戻らなくなった。

 当時の連中は、必死に封鎖したよ。

 犠牲を出して、入口を潰して、見なかったことにした」


 ガラートは一度、言葉を切った。

 その沈黙が、かえって想像を煽る。


「だが――地下は生きてる」


 重い一言。


「封じたつもりでいただけだ。

 瘴気は溜まり、歪みは深まり、魔瘴核が育った。

 今のあそこは、街の下で心臓みたいに脈打ってやがる」


 リュシアが静かに息を呑む。

 ミナの指先が、無意識に装備の留め具をなぞった。

 漣司は、ようやく口を開く。


「……つまり、これは後始末じゃない。

 最初から、やるべきだったことだ」

「その通りだ」


 ガラートは短く頷く。


「だからこれは調査でも小競り合いでもねぇ。

 ――オルテリアの過去と、真正面から殴り合うダンジョン攻略だ」


 ランプの火が、ぱちりと音を立てて揺れた。

 影が踊り、地図の赤線がまるで血管のように浮かび上がる。


 封鎖の記憶。

 街が目を背けた地下。


 その奥へ――

 いま、二階堂商会は踏み込もうとしている。


 

 部屋の空気が、目に見えない糸で引き絞られたように張り詰めた。

 ランプの炎がわずかに揺れ、その影が円卓の縁をなぞる。


 ガラートは無言で身を乗り出し、机に刻まれた無数の傷――

 かつて地図を押さえ、議論を重ねた痕跡を、ゆっくりと指でなぞった。


「俺はこう見えてもな――」


 一拍置いて、低く笑う。


「昔は、腕のいいトレジャーハンターだったんだ」

「へぇ?」


 ミナが片眉を上げ、口元にからかうような笑みを浮かべる。


「本当なの? 今の姿からは、あんまり想像つかないけど」


 挑発を含んだその視線に、ガラートは気分を害するどころか、

 むしろ楽しそうに口角を吊り上げた。


「信じられねぇって顔だな。だが本当だ。

 若い頃は遺跡、古代坑道、封印区画……行けるところは一通り潜った。

 宝も罠も、仲間の死に様も――嫌ってほど見てきた」


 その声色が、一段深くなる。

 軽口の奥に、積み重ねられた時間の重さが滲んだ。


「ちゃかすな、ミナ」


 即座にロイが制する。

 剣を膝に置いたまま、真っ直ぐにガラートを見据えた。


「この人がいなければ、俺たちはここまで街を立て直せなかった」


 その言葉に、部屋の空気が一瞬、静まった。


「……はいはい、了解です」


 ミナは両手を軽く上げて肩をすくめる。


「反省反省。続き、どうぞ?」

 

 そう言いながらも、彼女の視線はすでに地図へ戻っていた。

 からかいはするが、興味と警戒は本物だ。

 ガラートは短く咳払いし、話を戻す。


「さて――まず確認だ」


 机を指で叩き、音を響かせる。


「ダンジョンに潜ったことのある奴はいるか?」

 

 ランプの炎が、ひときわ大きく揺れた。

 やがて、三人が静かに手を上げる。

 ロイ、ミナ、そしてルーチェ。


「お?」 


 ガラートの目が細まり、獣が獲物を値踏みするような光を帯びる。


「なかなか面白ぇ顔ぶれだな。じゃあ順番に聞かせてもらおうか。

 まずは真面目そうな兄ちゃんからだ」

 

 名指しされたロイは、背筋を伸ばし、わずかに顎を引いた。


「俺は……昔、労働者として雇われていた頃に、カストリア地方のダンジョンに関わりました」


 記憶を辿るように、言葉を選ぶ。


「といっても、攻略ではありません。一層と二層の入口付近での安全確認、通風孔の補修、崩落防止の作業が主でした」

「なるほどな」


 ガラートは頷く。


「入口を知ってるってのは大きい。だが、深層はどうだ? 足を踏み入れたことは?」

「……ありません」


 ロイは一瞬だけ視線を伏せ、正直に続けた。


「……あの頃は怖かったです。闇が呼吸してるように思えて」

 

 その瞬間、ガラートの表情から笑みが消えた。


「――それでいい」


 低く、断言する。


「正しい感覚だ。ダンジョンは構造物じゃねぇ。あれは生き物だ」



「次――嬢ちゃんだな」


 ガラートの視線が、今度はミナへと向けられる。

 軽い口調だが、その目は真剣だった。


「うん、あたし?」


 ミナは一瞬だけ間を置き、肩をすくめる。

 そして、照れ隠しのように腕を組み、ふいっとそっぽを向いた。


「……まぁ、ちょっとだけね」


 軽く流すような言い方とは裏腹に、室内の空気が微かに張り詰める。


「盗賊やってた頃さ。一時期、ダンジョンの一層から二層あたりで暮らしてたことがあるのよ」

「暮らしてた、のか?」


 ロイが思わず聞き返す。


「寝床にして、逃げ道にして、時々狩場にもしてた。

 人の来ない場所って、案外落ち着くの」


 冗談めかした口調。だが――


「でもね」


 ミナの声が、わずかに低くなる。


「三層目に迷い込んだ時は……本気で、死ぬかと思った」


 ランプの炎が、ふっと揺れた。

 ミナはそっぽを向いたまま、視線だけを落とす。


「ほう……」


 ガラートが、静かに問いを投げる。


「何がいた?」


 ミナは一度、喉を鳴らした。


「……形のない影」


 その言葉が、空気に溶けずに残る。


「気配も音もないのに、気づくと背後にいる。

 足音も、殺気もない。なのに――確実に見られてるって分かるの」


 ミナの指先が、無意識に自分の腕を掴んだ。


「あれは人間じゃない。

 獣ですらない……意志を持った闇だった」


 一瞬、誰も言葉を発せなかった。


 ガラートの目が、獲物を見据える獣のように鋭く光る。


「――三層目、か」


 低く呟き、ゆっくりと息を吐く。


「やっぱり……いるんだな」


 彼は地図の奥、赤線の中心を睨みつけるように見据え、拳をぎゅっと握りしめた。


 それは恐怖ではない。

 確信と、覚悟の握り拳だった。


 炭鉱ダンジョンは、すでにただの遺構ではない。

 そこに潜む何かが、確実に彼らを待っている――



「では最後に……拙者でござるな」


 ルーチェが一歩前へ出た。

 背筋を正し、杖を床に静かに立てると、

 その先端から淡い光の粒子がこぼれ落ちる。

 それは眩しさではなく、夜明け前の星のような、

 静かで澄んだ輝きだった。


「拙者は、修行の一環として――かつて一人でダンジョンに潜ったことがある」


 その声は穏やかだが、軽くはない。

 ランプの灯に照らされる横顔は、どこか遠い過去を見つめている。


「剣も盾も持たず、頼れるのは己の魔力と心のみ。目的は討伐ではなく、精神の鍛錬……恐怖と向き合うための修行であった」


 光の粒が、ふわりと宙に留まり、ゆっくりと消えていく。


「一層、二層――そこまでは耐えられた。

 だが、三層目に至った瞬間……」


 ルーチェは、ほんのわずかに言葉を切った。


「……あれは、生きた心地がせなんだ」


 声に震えはない。

 だが、その静けさこそが、体験の苛烈さを物語っていた。



「やはりか」

  

 ガラートは喉の奥で、低く唸った。

 その声は、長年胸の内に溜め込んできた記憶を掘り起こすように、重い。


「層ごとに構造が違う。

 まるで――誰かが、後から造り替えているみてぇだ」


 指が地図の線をなぞる。

 深部へ向かうにつれ、その動きは自然と遅くなった。


「そして、深く潜るほどに……理が歪む」


「理が……歪む……?」


 リュシアが、思わず言葉を反芻する。

 理論と秩序を信じてきた彼女にとって、その表現はあまりにも不吉だった。


「つまり、この世界の法則が効かなくなるということだ」

 

 ガラートの声が低く響く。


「重力が逆さになる場所がある。

 時間が引き延ばされ、歩いた距離と進んだ感覚が一致しねぇ層もある。

 光が、届かなくなる空間も確認されてる」


 一同の背筋に、冷たいものが走る。


「――だからな。層を降りるごとに、そこは別の世界なんだ」

「じゃあ……」


 ロイが、慎重に言葉を選びながら口を開いた。


「この炭鉱ダンジョンも……?」

「ああ」


 ガラートは頷く。


「記録によれば、この炭鉱は――五層まで存在している」


 その瞬間、誰かが息を呑む音が、やけに大きく聞こえた。

 部屋に、重い沈黙が落ちる。ランプの炎が、わずかに揺れた。


「……ご、五層?」

 

 ミナが眉をひそめ、冗談めかす余裕もなく呟く。


「そんなの、災害級じゃない。大陸政府は何してたのよ?」

 

ガラートは苦い表情を浮かべた。


「最初は救援も来たさ。王都の調査団も、学術院の魔導士も、冒険者ギルドの精鋭もな」


 彼は、一拍置いて続ける。


「だが……誰一人、帰ってこなかった」


 言葉が、刃のように空気を切った。


「やがて外部は、再開の目途なしと判断した。

 この山奥なら、周辺都市まで被害は広がらねぇだろう、ってな」


 自嘲気味に鼻を鳴らす。


「そして俺たちは見捨てられたのさ」

 

 ドンッ、と拳が机を叩く音が響いた。


「……それでも俺たちは街で生きた」


 ガラートの声に、静かな怒りが滲む。


「幸い、外に這い出てくるのは低級の魔物が中心だった。

 だから街は、かろうじて持ちこたえた」


 視線が、円卓に集う面々を順に射抜く。


「だがな……誰も助けに来ねぇなら、守るのは自分たちしかねぇ。

 俺たちはそうやって、この街を、必死で繋ぎ止めてきたんだ」


 沈黙の中、その言葉の重みだけが、確かに場に残っていた。


 

 沈黙を破ったのはルーチェだった。


「しかし――希望は、未だ潰えてはおらぬ」

 

 彼女の掌に、柔らかな光が灯る。


「拙者の光は、瘴気を祓い、闇を退ける力を持つ。

 炭鉱に巣食う魔物と相反する性質ゆえ……道を照らす助けにはなりましょう」

 

 ガラートはその光を見つめ、目を細めた。


「……なるほどな。あんたの魔法があれば、突破口ができるかもしれねぇ」

「拙者の光のみでは足りぬ。されど――仲間の力があれば、必ずや」

 

 漣司がゆっくりと立ち上がる。


「いいか。俺たちがやるのは、単なる探索でも宝探しでもない。

 この街の根を救うための戦いだ」

 

 彼の声に、全員の背筋が伸びる。


「恐怖はあるだろう。だが――恐怖の中にこそ、前進の意味がある」

「社長……」


 ロイが低く呟いた。漣司は微笑み、言葉を続けた。


「ガラート、協力を感謝する。準備を整え次第、俺たちはこの街の心臓へと潜る」

 

 ガラートはふっと笑い、手を差し出した。


「……頼もしい連中だ。よし!俺がしっかりと案内する」

 

 漣司はその手を握り返した。

 互いの手に伝わる力は、確かな覚悟の証。

 長く閉ざされていた炭鉱都市の運命が、静かに動き出す。

 二武装法人階堂商会。オルテリア・ダンジョン攻略戦、開始。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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