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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第107章 兆す火種 ― ダンジョンへの招集

交易路を切り拓き、湖上都市ラクリアを再生させた武装法人二階堂商会。

だが商会の資金基盤は万全ではなく、次なる一手が求められていた。

彼らが向かうのは、ダンジョン化により衰退した

炭鉱都市オルテリア――眠れる資源の地。

失われた街を再生し、商会と大陸の未来を繋ぐ、新たな挑戦が始まる。

 

 オルテリアの朝は、かつて街を覆っていた煤煙の匂いを、少しずつ手放し始めていた。

 深く息を吸えば、喉を刺す焦げ臭さよりも、焼きたてのパンや煮炊きの湯気が先に届く。

 それだけで、この街が確かに変わり始めていることがわかった。

 石畳の通りには、早くも露店が並ぶ。

 布を広げる音、秤を置く音、声を張り上げる商人たち。

 行き交う人々の間からは、冗談混じりの笑い声がこぼれ、子どもたちが駆け抜けていく。


 ――ほんの少し前まで、沈黙しかなかった場所だ。


 長い停滞。炭鉱の封鎖と共に止まり、凍りついていた時間。

 それを越えて、オルテリアはようやく日常という名の歯車を回し始めていた。


 二階堂商会が市場へ参入してから、幾ばくかの日が過ぎた。


 食料は滞りなく行き渡り、燃料は各家庭に届き、医薬品も正規のルートで補充される。

 臨時に組まれた補給網は、もはや仮設とは呼べないほどに機能し始めていた。

 混乱はない。奪い合いも、買い占めも起きていない。


 「明日も手に入る」


 その確信が、人々の心から余計な力を抜いていく。

 街を歩く市民の表情には、

 久しく失われていた色――安堵が、静かに戻ってきていた。


 

 中央広場の一角。

 ざわめく人々の輪の外側で、地面に淡い影が滲んでいた。

 炭鉱から漏れ出した瘴気に引かれ、街の縁から忍び込んだ魔物――

 煤のような体を持つ小鬼が、低く唸り声を上げている。


「……来ましたな」


 ルーチェは一歩前に出て、杖を静かに掲げた。

 恐怖に強張っていた衛兵たちが、思わず息を呑む。


「《浄化光クレア・ルーメ》――

 穢れあるものよ、在るべき闇へ還りなさい」


 次の瞬間、光が咲いた。

 花が開くように、柔らかく、それでいて抗いがたい輝きが広場を満たす。


 光に触れた魔物の輪郭が揺らぎ、

 黒煙のような瘴気が、悲鳴にも似た音を立てて剥がれ落ちていく。


「ギィ……ッ!」


 魔物は後ずさり、逃げようとしたが――

 地面に刻まれた光の紋が、退路を断った。


「恐れることはございませぬ。

 光は、ただ正しき場所へ導くだけ」


 最後の一閃。閃光が走り、魔物の姿は霧散する。

 残ったのは、澄んだ空気と、わずかな温もりだけだった。


 広場に、静寂。

 やがて――


「……消えた」

「本当に、祓われたのか……?」


 誰かが呟き、次の瞬間、安堵の息が連なった。


「すげぇ……」

「街の中で、魔物を……」


 ルーチェは杖を下ろし、穏やかに一礼する。


「光は、脅しではなく救いにこそ使うもの。

 この街に巣食う穢れ、少しずつ掃いましょう」


 その背後で、曇っていた空気が、確かに軽くなっていた。

 オルテリアは――守られている。


 そう、誰もが初めて実感した瞬間だった。

 

 その光景の、少し後ろ。

 ガロウは腹の底から笑い声を響かせながら、警備隊員たちの輪の中心に立っていた。


「ハッハッハ! オイ、そこの兄チャン!!

 剣は腕で振るモンじゃねェ! 腰ダ、腰!!」


 自分の腰を拳で叩き、踏み込みながら見本を見せる。

 大柄な体が前に出た瞬間、地面が鈍く鳴った。


「……なるほどな」

「腰を落として、体重を乗せる……こうか?」


 荒くれ上がりの隊員たちが、真剣な目で動きを真似る。


「そうダ! 今のは悪くねェ!

 だが、まだ軽イ!」


 ガロウは一歩近づき、剣を持つ腕を軽く押し下げる。


「刃は信じろ。自分の体重を信じて、前に出ル!」

「……っ、了解!」


 隊員が低く答え、今度は力強く踏み込む。

 空を切る音が、先ほどよりも明確に響いた。


「いい顔になってきたナ」

「さすがだ……実戦で生き残ってきた動きだ」


 周囲の隊員たちも、自然と輪を狭める。

 恐怖ではなく、学ぼうとする目がそこにあった。


「イイカ、野郎どモ!」


 ガロウの声が広場に響く。


「街を守るってのは、正義のポーズを取るコトじゃねェ!

 倒れねェ体を作るコトダ!」


 拳で自分の胸を叩く。


「怖ェのは当たり前ダ。

 だがナ――腰が入ってりゃ、逃げ足も生きる!」


 隊員たちが、思わず笑う。


「逃げるのも戦い、ってことか」

「生き残るのが仕事ダ!」


 ガロウは歯を見せて笑った。


「一歩前に出りゃ、背中は街が預かってくれル。

 だから腰を引くナ!」

「……応ッ!!」


 返事は揃い、力強い。


 かつては暴力と混沌の象徴だった炭鉱都市の荒くれ者たち。

 今は――守るべき場所を得た戦士として、拳と剣を磨いている。


 二階堂商会がもたらした変化は、秩序だけではない。

 誇りが、人の背中に戻り始めていた。


「ヨシ!」


 ガロウが拳を鳴らす。


「次は全員まとめて来イ!

 最後まで立ってた奴が、今日の一番ダ!!」


 鬨の声と笑いが広場に広がる。

 そこにはもう、怯えた街の影はなかった。


 

 街の北端、かつて商人たちの喧騒で満ちていた旧ギルド館。

 今はその役目を変え、ガラートの住居兼――

 そして、街の頭脳が集う場所となっていた。

 分厚い石壁に囲まれた一室。

 外の市場のざわめきはここまで届かず、代わりに低い声と紙を擦る音だけが満ちている。


「……商会の補給網は、ほぼ想定どおりだな?」


 ガラートが低く問う。その声には、期待よりも確認の色が強かった。


「ああ。主要な交易路は安定し始めている」

「炭鉱由来の物資は依然として封鎖中だが……ラクリア方面との往来は完全に再開した」


 報告を受け、ガラートはゆっくりと息を吐いた。


「上出来だ。街は――ようやく呼吸を取り戻しつつある」


 だが、その視線はすぐに机上へと落ちる。

 広げられた地図。赤線で囲われた、炭鉱跡地一帯。

 そして、その中心に刻まれた文字。


 ――《魔瘴核》


 蝋燭の揺らめきが、その文字を不気味に照らした。


「……問題は、ここからだ」


 ガラートの指が、赤線の内側をなぞる。


「街の表は動き出した。だが地下は、まだ眠っちゃいねぇ」


 沈黙。商人の一人が、喉を鳴らして口を開く。


「……あの下に、まだ何かがいると?」


 ガラートは、迷いなく頷いた。


「間違いねぇ。俺は何度も潜った」

「瘴気の流れが不自然すぎる。ただ溜まってるだけじゃねぇ……」


 拳を握り、低く言い切る。


「まるで、何かが呼吸してやがる」


 その言葉が落ちた瞬間、部屋の空気が張り詰めた。

 地図の上で、赤線が血管のように見える。


「……魔物の巣、では済まないかもしれませんね」

「いや、それ以下でも以上でもねぇ」


 ガラートは静かに笑った。だがその目は、笑っていない。


「ここは――ダンジョンだ。街の再生を阻む、最後の病巣」


 商人たちが息を呑む。


「二階堂商会が来た以上、いずれ踏み込むことになる」

「だが、無策で潜らせるつもりはねぇ」


 地図を畳み、ガラートは立ち上がった。


「準備を進めろ。物資、人員、情報――全部だ」

「街が息を吹き返した今だからこそ、次は地下に手を伸ばす」


 重い扉の向こう、オルテリアの夜は静かだった。

 だがその地下では、確かに何かが蠢いている。


 ――ダンジョン攻略、その幕は、すでに上がり始めていた。


 

 陽はすでに西へと傾き、炭鉱都市を覆う空気の色が、昼と夜の境目へと滲みはじめていた。

 長く伸びる影が石畳を舐めるように這い、街の鼓動が、わずかに速まっていくのが分かる。


 その頃――

 ガラートは短く息を吐き、戸口に立たせていた使いの少年へと顎をしゃくった。


「頃合いだな。二階堂商会の漣司たちを呼んでこい」


 低く、だが決断を孕んだ声。

 少年は一瞬だけ目を見開き、すぐに背筋を伸ばした。


「了解です!」


 踵を返すと同時に、乾いた足音が廊下を駆け抜け、やがて夕暮れのざわめきへと溶けていく。

 その残響が消えたあと、室内には、不思議な静けさだけが残った。

 ガラートは椅子に深く身を沈め、天井を仰ぐように目を閉じる。

 軋む木製の背もたれが、彼の体重を受け止めて低く鳴った。


「……まったくな」


 独り言のように零れた声は、疲労と、かすかな高揚が入り混じった色を帯びていた。


「あいつらと絡んでると、時間が妙に早ぇ。気づきゃ日が沈みかけてやがる」


 腐臭のように澱んでいた街。諦めと恐怖だけが支配していた日々。

 それらが、ここ最近で、確かに変わり始めている。


「だが……悪くねぇ」


 ガラートの口元が、わずかに吊り上がった。


「長いこと腐りきってたこの街に――ようやく血が通い始めた。

 痛みも熱もあるが……生きてる証拠だ」


 そして、その血流が、次に向かう先は一つしかない。

 赤線で囲われた地下。


 瘴気の源――未だ眠らぬダンジョン。


 ガラートは静かに目を開いた。

 夕闇が差し込む窓の向こうで、鐘の音が一つ、低く鳴る。


「……さあ、ここからが本番だ」


 少年が戻る頃には、もう引き返せない。

 二階堂商会が動き、街が賭けに出る。

 そして、地下に巣食う何かが、目を覚ます。


 

 ――その夜。


 宿舎の廊下は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

 ランプの淡い光が壁を照らし、外では風が窓枠をかすめる音だけが、かすかに響いている。


 その静寂を破るように、扉が勢いよく叩かれた。


「ガ、ガラートさんが……! 至急、大事な話があると……!」

 

 漣司は一瞬たりとも迷わなかった。

 椅子から立ち上がる動作は早く、すでに次の展開を見据えている。


「分かった。すぐ向かう」


 その声に、宿舎の空気がぴり、と張り詰める。


「また会議ですか?」


 ロイが剣を磨きながら問う。


「恐らくな。――次の段階の話だ」


 漣司の言葉に、リュシアが静かに眼鏡を押し上げる。

 レンズ越しの瞳が、淡く光った。


「……ダンジョン、ですね」

「ああ」


 即答だった。

 漣司は頷き、皆の視線を一身に集める。


「市場は安定してきている。交易も回り始めた。

 だが、炭鉱が瘴気を吐き続ける限り、この街の根は腐ったままだ」


 指先が、無意識に机の上を叩く。


「――本命は、そこにある」

 

 短く、重い沈黙。それを破ったのは、ミナだった。


「つまり……次は攻略ってわけね」


 立ち上がり、腰に手を当てる。

 その表情には、恐れよりも覚悟が浮かんでいた。


「いいわよ。装備も魔導具も点検済み。あたしは、いつでも出られる」


「オレモ行クゾ!」


 ガロウが拳を打ち合わせ、豪快に笑う。

 その笑みは荒々しいが、底には確かな頼もしさがあった。


「拙者も――」


 ルーチェが一歩前に出て、胸に手を当てる。

 穏やかな声音だが、そこには揺るぎない自信があった。


「光の浄化術は、さらに研鑽を積みました故。

 瘴気の濃い場所でも、皆を守り切ってみせましょう」

 

 漣司は皆の顔を見渡し、静かに言った。


「よし。全員で行く。オルテリアの再生、その本丸に踏み込むために」


 

 旧ギルド――夜の帳が下りる頃、ランプの明かりがゆらめく部屋に、

 二階堂商会のメンバーとガラートが再び集った。

 ガラートは地図を指し示しながら口を開く。


「よく来てくれた。……そろそろ本命の話をしようじゃねぇか」

 

 その声には、長年封じてきた決意の重みが宿っていた。


「街は回復してきた。物資の流れも整った。だが、地下は――

 今もなお、腐り続けている。ダンジョン化した炭鉱をどうにかしねぇ限り、この街の未来はねぇ」

「つまり、次はその攻略、というわけですね」


 リュシアが確認する。


「ああ。お前らがやるなら、俺も手を貸す」

 

 ガラートは目を細め、漣司に視線を送った。


「だが、ただ潜るだけじゃダメだ。まず目的をはっきりさせろ。

 奪うんじゃなく、救うために潜るんだ。いいな?」

 

 漣司は短く息をつき、静かに頷いた。


「心得ている。この街のために、そして人のために。――俺たちは潜る」

 

 ランプの炎が、彼らの瞳に反射して揺れた。

 その灯はまるで、新たな戦いへの狼煙のようだった。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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