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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第102章 凸凹ペア、街を歩く ― ロイ&ミナ

交易路を切り拓き、湖上都市ラクリアを再生させた武装法人二階堂商会。

だが商会の資金基盤は万全ではなく、次なる一手が求められていた。

彼らが向かうのは、ダンジョン化により衰退した

炭鉱都市オルテリア――眠れる資源の地。

失われた街を再生し、商会と大陸の未来を繋ぐ、新たな挑戦が始まる。

 翌朝、オルテリアの空は灰色の雲に覆われていた。

 冷えた風が吹き抜け、炭の匂いと鉄の粉塵が街全体を包んでいる。

 そんな中、ロイとミナは通りを歩いていた。


「……ねぇロイ。せっかくペアなのに、なんかデートっぽくないんだけど」

「情報収集にデート感を出す必要はないだろ」

「そりゃそうだけどさ。せめて会話ぐらい弾ませなさいよ。

 街が暗いんだから、せめて私たちが華を添えないと」

「お前が喋ってる時点で、十分明るいと思うけどな」

「褒め言葉として受け取っておくわ!」

 

 ミナは明るく笑い、ロイは肩をすくめた。

 そのやり取りを見て、通りの労働者が少しだけ微笑む。

 それだけで、冷えきった街にほんの少しだけ温度が戻ったように見えた。

 彼らが立ち寄ったのは、広場近くの市場跡地。

 屋台の半分は空っぽで、残りの半分には煤けた野菜や古びた衣類が並ぶ。

 物乞いの子供、腕に包帯を巻いた労働者、そして沈んだ目の商人。

 どの顔にも、希望という言葉は遠い。


「……ラクリアとは、まるで別世界だな」

 

 ロイが静かに言った。


「音が少ない。声も、笑い声も、商売の呼び込みも」

「言われてみれば……確かに」

「こうなると、立て直すのは時間がかかる」


 ミナは少しだけ真面目な顔をしてから、すぐに笑った。


「でもさ。だからこそ、やりがいあるでしょ?」

「……まあな。人がいるなら、戻る余地はある」

「ロイって、こういうとこで希望見つけるタイプよね」

「現場慣れしてるだけだ」


 ロイは照れ隠しのように前を向く。


「それに――暗い場所ほど、ちょっとした変化は目立つ」

「お、いいこと言うじゃん」

「難しいことじゃないさ。昔、同じような街を何度も見てきただけだ」


 ミナは一歩前に出て、振り返る。


「じゃ、まずは目立つところから行こっか。元気な二人組、投入ー!」

「ほどほどにな」


 そう言いながらも、ロイの表情はどこか柔らかかった。

 灰色の街の中で、二人の歩調だけが、少しだけ軽かった。

 


 軽口を交わしながら歩く二人。

 だが、ロイの視線は終始、街の端を捉えていた。

 通りの隙間。人混みの流れ。

 そして――

 一歩、間合いを詰めてくる小さな影。


 擦り切れた服。怯えたような目。子供のふりをした、手慣れた動き。

 ロイが声を出すより早く、ミナが半歩、前に出た。


 すっと伸びる指先。刃物は見えない。

 だが、言葉より先に伝わる警告。


「触ったら――切るよ」


 笑顔のまま、声だけが冷える。


「ひっ……! す、すみません!」


 すりは弾かれたように身を翻し、人混みに消えていった。


 その背中を見送りながら、ロイは小さく息を吐き、肩の力を抜く。


「……助かった。やっぱり、気づくの早いな」

「当然でしょ。あの動き、三歩手前から見えてたもの」

「俺、そこまで鋭くないからなぁ」

「それはそれで、ロイらしいじゃない」


 ミナは何事もなかったかのように歩き出す。


「伊達に女狐なんて呼ばれてないわよ」

「……それ、褒め言葉なのかな?」

「どう受け取るかは――男の器次第、かな♪」


 ウィンクひとつ。


 ロイは苦笑しつつ、頭を掻いた。二人は再び並んで歩き出す。

 荒れた街の中で、その足取りだけが、不思議と軽い。


 ――油断はしていない。だが、怯えもしない。


 それが、二階堂商会の前線だった。


 

 二人は市場を抜け、酒場街へと足を進めた。

 薄暗い通りの奥に、木製の看板を掲げた店がひっそりと開いている。

「鉄鉱亭」と書かれたその酒場は、昼間から客で賑わっていた。


「情報は酒場に集まる。古今東西、変わらないね」

「ここの雰囲気はあまり好きになれないけど、聞き込みには向いている」

「私もそうだけど。でも……聞き込みの効果はいちばんでるわよ」

「どうしてだ」

「女の笑顔は、金より効果があるのよ」

 

 ミナがカウンターに腰を下ろし、ロイは隣に座る。

 彼女は注文したエールを唇に近づけるふりをして、周囲の会話を耳で拾う。


「――封鎖されてからもう三年だろ」

「ギルドの連中も逃げちまった。あの炭鉱、もう洞窟の化け物の巣だって噂だ」

「化け物より、腹を空かせた人間の方が怖いさ」

 

そんな言葉が聞こえた瞬間、ミナがわずかに笑みを浮かべた。


「ねえ、あそこ。ギルドって言ってた」

「聞こえた」

 

ロイが頷くと、ミナは店主に声をかけた。


「ねぇ、おじさん。ちょっと聞きたいんだけど、ギルドってまだ残ってるの?」

「……あんたら、よそ者か?」

「旅の商人よ」

 

 ミナが軽くウインクをすると、店主は少し警戒を解く。


「ギルドはもうねぇよ。炭鉱が封鎖された時に解散だ。だがな――」

「だが?」

「あの人は残った。元ギルドの調整官だ。ラクリアとの手紙のやり取りをしてたって噂だ」

 

ミナとロイが目を合わせる。


「その人、今どこに?」


「旧ギルドの建物さ。今は誰も寄りつかねぇ。夜になると灯がつくことがある。

 ……幽霊でもいるのかと思ったがな」

「ありがと、おじさん」

「行くのか?」

「もちろん」

 

 酒場を出ると、ミナが口笛を吹いた。


「やっぱり、情報は笑顔で釣るに限るわね~」

「お前のやり方はいつも強引だが、結果は出る。そこだけは認める」

「そこだけって言わないでよ」

「じゃあ……全部だ」

「……え?」

「冗談だ」

「むっ!」

 

 ミナが拳を振り上げるが、ロイは笑って受け流す。


 

 夕暮れ。

 二人は街外れに残された、古い石造りの建物の前で足を止めた。


 かつてはギルドとして機能していたのだろう。

 壁面には紋章の名残が刻まれ、だが今は風雨に削られて輪郭も曖昧だ。

 扉には錆びた鎖が巻かれ、放置されて久しいことが一目でわかる。


 ――それでも。


 窓の隙間から、微かな灯りが漏れていた。

 消えかけながらも、確かに「人の生活」を主張する光。


「……いるな。少なくとも、最近まで誰かが使ってる」


 ロイが即座に断じる。

 感情を挟まない、淡々とした声だった。


「ラクリアと書簡を交わしてた相手……ってわけね」

 

 ミナが言いながら扉に手をかける。

 だが、がちゃりと音を立て、鍵は微動だにしない。


「残念。今はいないか、中に籠もってるか」

「どちらにしても、焦る必要はない」

 

 ロイは外壁を見上げながら言う。


「でも――生きてる人だ。ちゃんと考えて、ここにいる。

 無理に会おうとしたら、余計に警戒されると思う」


 ミナは一瞬だけ建物を振り返り、それから軽く肩をすくめる。


「じゃ、今日は引き上げ?」

「ああ。また灯りが点くなら、その時でいい」


 飾らない言葉。だが、その判断には確かな思いやりがあった。

 二人は静かに踵を返す。

 背後で、小さな灯りだけが、夕闇の中に残り続けていた。


 

 帰路へ着く二人。

 通りの明かりは少なく、遠くの煙突から火花が散る。

 ミナがふと、歩きながらぽつりと呟いた。


「……この街、みんな必死ね。生きるために、嘘ついたり、騙したり。

 でも、それでも笑ってる人もいる」

「それが人間だよ」

「ロイってさ、本当に優しいよね」

「優しさじゃない。……見てきたから、わかるだけだ」

 

 二人の間に短い沈黙が流れる。

 やがて、ロイが穏やかに笑った。


「案外、ミナもちゃんと人の気持ちを考えているんだな」

 

 ミナは口を尖らせて振り返る。


「今さら気づいたの? 遅い~」

 

 笑い声が夜風に溶け、二人の背中が薄明の通りに消えていった。


 ――旧ギルドの灯が、再びともるのは、翌晩のことだった。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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