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武装法人二階堂商会 ―― 転生社長は異世界を株式買収で武力制圧する!  作者: InnocentBlue
第ニ部 武装法人拡大 - 有力都市買収編

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第100章 荒廃の街 ― それぞれの使命

交易路を切り拓き、湖上都市ラクリアを再生させた武装法人二階堂商会。

だが商会の資金基盤は万全ではなく、次なる一手が求められていた。

彼らが向かうのは、ダンジョン化により衰退した

炭鉱都市オルテリア――眠れる資源の地。

失われた街を再生し、商会と大陸の未来を繋ぐ、新たな挑戦が始まる。

 オルテリアの空は、昼だというのに薄闇をまとっていた。


 太陽は確かにそこにあるはずなのに、灰色の雲が低く垂れ込み、

 その光をことごとく押し潰している。

 炭鉱から滲み出す冷気が街路を這い、吐く息はわずかに白かった。


 通りには埃と煤が層を成し、靴底が触れるたび、かすかな乾いた音を立てる。

 建物の壁という壁に無数のひび割れが走り、

 補修の跡すら放置されたまま時間だけが積もっていた。


 漣司たちが歩を進めると――家々の影から、視線が集まる。


 頬が落ち、背中の曲がった老人。色褪せた布を重ね着した母親。

 そして、裸足のまま瓦礫の間に立つ、幼い子供たち。

 視線には期待と警戒が混じり、だがどれも等しく飢えの色を帯びていた。


「おイ……なんか出迎えがすごいナ」


 ガロウが声を落とし、眉をひそめる。


「出迎えじゃないわ」


 ミナは一歩前に出て、静かに息を吐いた。


「施し待ちよ」


 言葉は辛辣だが、視線は冷たくない。

 彼女は懐に手を入れ、小銭の入った袋を取り出した。


 ――その瞬間。


 影の中から、小さな手が弾かれたように伸びる。


「っと」


 短い声と同時に、ミナの腕が閃いた。

 少年の手首を、乱暴にならないぎりぎりの強さで掴み止める。


「そんな動き――」


 ミナは少年の目をまっすぐ見据え、口角を少しだけ上げた。


「十年前に卒業したわよ、坊や」


 少年はびくりと肩を跳ねさせ、すぐに視線を落とす。

 痩せ細った腕、浮き出た骨。逃げようとする力は、ほとんど残っていなかった。

 ミナは手を離すと、しゃがみ込み、少年の手のひらを取る。

 その掌に、そっと硬貨を乗せた。


「……お腹、空いてるんでしょ」


 声は、先ほどよりもずっと柔らかい。


「次はね。盗む前に、お願いって言うのよ」


 少年は硬貨を握りしめて、黙って頷いた。

 その背中が人波に紛れていくのを見送りながら、ロイが低く呟く。


「……痩せすぎだ。

 こんな状態が続いたら、街そのものより先に人々が壊れる」

「だからこそ――」


漣司が歩みを止め、街を見渡した。その声は静かで、だが揺るぎがない。


「急ぐ必要がある」


瓦礫の街に、微かに風が吹く。

煤を含んだ空気の中で、ミナは立ち上がり、肩をすくめた。


「ま、手遅れになる前に来れたってことにしときましょ」


鋭さと優しさを同時に宿したその横顔を、灰色の空が淡く照らしていた。



 一方その頃、リュシアは街外れの路地裏に並ぶ露店を渡り歩いていた。


 屋根代わりの布は破れ、商品は無造作に並べられている。

 だが彼女の視線は、埃や治安の悪さなど最初から存在しないかのように、

 一直線に数字だけを射抜いていた。小麦粉。乾燥肉。水袋。


 ――どれも、あり得ない価格だ。


 「……うそでしょう」


 低く呟き、計算尺を引く。かち、かち、と乾いた音がやけに大きく響いた。


「価格変動率、前日比二〇〇%……?」


 一瞬、思考が止まったかのように見えたが、次の瞬間にはもう再起動している。


「完全に供給不足。しかも、商人同士で値を釣り上げてる……」


 冷静な声色とは裏腹に、帳簿を開く指の動きは異様な速度だった。

 数字、数字、数字。

 書き込まれる計算式は増殖するかのように行を埋め尽くしていく。


 ――その様子を、横からミナが覗き込んだ。


「リュシアさん……なんか、脳から煙出てるよ……?」


 ミナが覗き込みながら茶化す。


「大丈夫です」


 即座に返事。だが目は帳簿から一切離れない。


「現在価格を基準に、回転率と在庫推定量を加味すると……

 はい。二割引までなら、交渉余地があります!」


 顔を上げ、きらりと目を輝かせる。

 その瞬間だけ、氷の副社長はどこか数字に恋する少女のようだった。


「……この街で値切り交渉するの、命がけだと思うけど?」


 ミナの冗談にもリュシアは気づかない。指が止まらなかった。


「理論上、こちらの提示は妥当です。

 感情論を排せば、交渉が決裂する理由は――」

「あるあるある。感情論しかないから、この街」


 ミナが即座にツッコミを入れる。それでもリュシアは気づかない。

 再び帳簿に顔を落とし、指を走らせる。


「むしろ、この価格設定は長期的に市場を崩壊させます。

 ここで適正価格に修正できれば――」


 ぶつぶつと独り言が加速していく。

 その横顔を見ながら、ミナは小さく笑った。


「ほんと、氷みたいに冷静なのに……

 数字絡むと周り見えなくなるの、かわいいよね」


 聞こえていない。


 帳簿と計算尺に囲まれたその姿は、

 荒廃した街の片隅でただ一人、別世界の法則で戦っているかのようだった。



 広場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

 ざらついた視線。低く唸るような笑い声。

 ガロウは、いつの間にか街の荒くれ者たちに半円を描くように囲まれていた。


 「なんだよ、よそ者ォ」

 「ここは俺たちの縄張りだ。観光気分で歩いていい場所じゃねぇぞ?」


 挑発するように、一人が前へ出る。酒と埃の匂い。剥き出しの敵意。

 ガロウは、ゆっくりと首を傾けただけだった。


「……どケ」


 低く、短い一言。


「通るだけダ」

「はあ?」


 男が笑う。


「誰に口きいて――」


 ――言葉は、最後まで続かなかった。


 ドンッ――!!


 雷が落ちたかのような轟音。

 ガロウの拳が、石畳を真正面から叩きつけた。

 ばき、ばき、と不気味な音を立てて、地面に無数の亀裂が走る。

 粉塵が舞い、足元が揺れる。


「……っ!?」


 荒くれ者たちの顔から、血の気が一斉に引いた。

 誰もが理解してしまったのだ――次に砕かれるのが、石ではないことを。


「オレは」


 淡々と告げる。


「殴るのも、面倒くせェ」


 ガロウは拳を引き、何事もなかったかのように立ち上がる。

 その表情には、怒りも殺気もない。


「――退け」


 殺気のない真顔が、かえって恐ろしかった。

 荒くれ者たちは、悲鳴すら上げずに後退し、

 やがて蜘蛛の子を散らすように広場から逃げ出していく。


「……威圧のみで敵意を砕くとは」


 その様子を見ていたルーチェが、感嘆とも呆然ともつかぬ声を漏らす。


「さすがはガロウ殿でござる」


 称賛は、ほとんど独り言のように小さかった。

 だが――次の瞬間。

 彼女の耳が、ぴくりと強く跳ねる。笑みが消え、顔色が一気に引き締まった。


「……ガロウ殿」


 声を落とし、周囲を警戒するように視線を巡らせる。


「感じませぬか。この街の奥から、禍々しい波動が……」


 一瞬の沈黙。

 ガロウはゆっくりと炭鉱の方角を見据え、低く息を吐いた。


「……あァ。オレでモ、わかル」


拳を握るでもなく、ただ事実として告げる。


「まるで、怒ってるみてェだ」

 

その言葉に呼応するかのように――

炭鉱の方向、崩れた塔の向こう側から、淡い紫の光が揺らめいた。


ゆらり。まるで、生き物が呼吸するように。


次の瞬間、風向きが一変する。

冷たい逆風が街路を吹き抜け、瓦礫が鳴り、空気そのものが震えた。


「……ダンジョン化。噂は本当のようじゃな」

 

ルーチェの呟きに、漣司が近づく。


「――調査は後だ」


 漣司だった。紫光を一瞥しただけで、表情を変えない。


「今は、この街に足場を作るのが先決だ」

「住処、補給、信用。順番を間違えれば、全員が巻き込まれる」


 静かな声。だが、そこに迷いは一切なかった。


ガロウは一度だけ頷く。


「了解ダ。……怒ってるなら、あとで相手してやル」


 ルーチェも深く息を整え、杖を握り直す。


「街を救う前に、街に呑まれては本末転倒でござるな」


 再び、風が吹いた。紫の光は、まだ消えない。


 ――オルテリアは、眠りながらも確かに目覚めつつあった。


 

 日が傾き、空が煤色から鈍い橙へと滲みはじめた頃――

 ようやく、一行は一軒の宿に辿り着いた。

 建物は傾き、外壁には補修の跡すらない。

 看板は鎖一本でぶら下がり、風に揺れるたび、ぎい、と軋んだ音を立てている。

 それでも――窓には灯りがあり、扉の前には踏み跡が残っていた。


「……これが、この街でも比較的まともな宿だそうです」


 リュシアの淡々とした報告に、誰もすぐには言葉を返せなかった。


「比較的、ねぇ……」


 沈黙を破ったのはミナだった。肩をすくめ、半ば開き直ったように笑う。


「まあ、屋根があるだけマシじゃない?野宿よりは百倍いいわ」


 そう言って、躊躇なく先に扉を押し開ける。


 ――ぎぃ……。


 軋む音とともに現れた内部は、古びてはいるが、致命的ではなかった。

 擦り切れた床板、煤けた壁、年季の入った木製の机。

 だが、奥にはきちんとした寝床が並び、中央には小さな暖炉がある。

 全員が荷を降ろし、火を入れると、

 暖炉の赤い炎が、疲れ切った顔をひとりずつ照らし出した。

 その中で――漣司が一歩前に出る。


「――各員、今日のうちに見聞したことを整理しろ」


 低く、しかしよく通る声。


「この街は荒れている。だが、完全に死んではいない。

 必ず、再生の火種がどこかにある」

 

 炎が、ぱちりと音を立てた。全員が自然と背筋を正し、頷く。


「……明日からは、議長の友人の捜索と、情報収集を開始する」

 

 漣司は視線を巡らせ、続ける。


「この街では、金や力より信頼がものを言う」


「正しい情報こそが、最大の価値を持つ。

 ――善人や正直者は、どの街にも必ずいる。それを探せ」

 

 命令は簡潔で、無駄がない。

 組織の長としての顔が、そこにあった。


「各自、二人一組で行動しろ。万が一に備える」

「ペア?」

 

 ミナが首をかしげる。


「俺とリュシア。ミナとロイ。ガロウとルーチェ。この三組で動く」

「えぇ~、ロイと? 真面目すぎて疲れそうなんだけど」

「お前が少しは真面目にすれば、釣り合う」

「うっさい」

 

 即席の言い合いに、火の前の空気がわずかに緩む。

 ガロウとルーチェは顔を見合わせた。


「……頼りにしておりまする、ガロウ殿」

「お、おウ……魔法で爆発させんなヨ」

「努力はいたしまする」

 

 わずかな笑いが、重苦しい宿の空気をほぐした。


「――よし。今日は休め」


 漣司が最後に告げる。


「だが、油断するな。この街は、夜になると牙をむく」

 

 低い声に、全員の表情が引き締まる。

 外では、遠くで犬の遠吠えが響いた。

 それに応えるように――炭鉱の方角で、かすかな紫の光が瞬く。


 オルテリアの夜が、静かに、だが確実に始まった。

 荒れた街に降り立つ六つの影。

 二階堂商会の挑戦は、まだ始まったばかりだった。

お付き合いいただき、ありがとうございます。ここまで読んでくださったあなたに、心からの感謝を。

少しでも面白いと思ったら☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂ければと思います。一つひとつの応援が、次の物語を生み出す力になるんです。これからも、どうぞ気軽に見守っていただけたら嬉しいです。

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