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7 蛇遣い -Snake charmer-

「おお、飛んでるねえ。」


巡影(じゅんえい)帝国圏内、上空。

遠くに見えるのは、飛猫(とびねこ)率いる観光客の集団。


輝く金髪に、褐色の肌。白地に金縁の施された品の良い服を纏う男性。

右手の二の腕には、存在感のある腕輪が光っている。


彼の名は、コルク•シャロウィン。通り名は"蛇遣(へびつか)い"。

彼は、『黒樽(くろだる)』という酒場を経営するマスターである。


今日は、街まで食材の買い出しに来ていた。


「おう、おっちゃん。」

「お〜。マスターじゃねえか。いらっしゃい。メモはあるかい?」


「いや。今日は足りないものだけだから、メモはないんだ。」


「そうかい?で、何をご所望ですかい。」


「ああ、今日一番新鮮なのって?」


「それなら──今朝、仕入れたスモモだね。あとは、ちょうどルビーキウイが食べ頃で美味しいよ。」


(キウイはヨーグルトに、スモモはマリネかサラダでいけるな。)


「いいね、それで頼めるか?」


「おう、まいどあり。800ユースな。」


蛇遣いがきっちり800ユースを支払うと、おっちゃんは紙袋がパンパンになるほどの果物を詰めてくれた。


手渡された紙袋を覗くと、なにやら手前に頼んだ覚えのないパックが見える。


「あれ、おっちゃん。何か、頼んでないものまで入ってるんだけど……」


「へへ、今朝大量に入ったブルーベリーと梨も入れておいた。」


「いやあ、困るよ。いくら?払うから。」


「いいって、いいって。貰っとけ。また黒樽に飲み行くから。上手い料理食わせてくれよ。」


「おっちゃん……いつも、ありがとな。」


この、親切な果物屋のおっちゃんは蛇遣いが営む黒樽の常連客でもあった。


「じゃあな〜。」


紙袋を抱えた蛇遣いはおっちゃんに手を振って別れを告げた。


「また、来いよ〜。」


おっちゃんも笑顔で手を振りかえした。




──巡影帝国圏内、上空。


飛猫は、順調に観光客を先導していた。


「左手に見えますのが巡影のシンボル、シャンメリゼ時計塔です。この時計塔の刻む時間に合わせて、時衛官(じえいかん)は活動しています。

更に、上をご覧下さい。ドームの最上に見えますのが、時衛官です。停空帯(ていくうたい)から巡影を照らしています。」


「す、凄い……。」

「あんな高いところに、ずっと……?」

「俺なら無理だ──。」


観光客は興味深々な様子で、巡影ツアーを楽しんでいた。



地上、防護壁(シェード)近くのエリア。


果物屋から真っ直ぐに道を降りてきた蛇遣いは、デッキで朝食を取ることにした。


(あー腹減ったなぁ……)


デッキに到着した蛇遣いは、目を輝かせた。


(お!今日はベーグルのワゴンか!この間のケバブカーのときは食い損ねたんだよな〜。)


ケバブリベンジに思いを馳せる蛇遣いに、ワゴンから店員のお姉さんが声をかけた。



「いらっしゃいませ〜。モーニングにお一つ、いかがですか?」


顔を上げた蛇遣いを見て、お姉さんは目をまあるくした。


(え?黒樽のマスターさん……?)


この男もまた、巷では有名だった。


「メニュー見てるんで、ちょっと待ってもらえますか。すみません。」


「あ!全然!ゆっくりでいいですよ!」


メニューの看板を真剣に見ている、蛇遣い。


(マスターさんが悩んでる……。何を頼むんだろう。)


おしゃれなメニューが多いことで知られている、黒樽。


お姉さんは、マスターの味覚が気になっていた。


「──えっと、注文いいですか?」


「はい!どうぞ!」



「アイスコーヒーのMサイズと、ハムチーズベーグルのアボカド追加を一つ下さい。」


「ご注文承りました。アイスコーヒーMに、HCB(ハムチーズベーグル)アボカド追加ですね。準備できましたら、お席までお持ちいたします。」


「分かりました。ありがとうございます。」


(マスターさんはスタンダードにアボカド追加派なのね──流石だわ。)


お姉さんは、蛇遣いの食の傾向を知れて嬉しかった。


注文を終えた蛇遣いは、果物の入った紙袋を隣に置くと長椅子(ベンチ)に腰掛けた。


(バリゲードの外、しばらく見てないな。)


蛇遣いが座るデッキのすぐ側には、防護壁が広がっている。

巡影は、防護壁と時衛官の両立によって成り立つ国。

安全面に特化している反面、見た目はドームに閉じ込められているようなものだ。


蛇遣いは、仕事で巡影から出ることもあったが最近は、巡影に居ることが多かった。


たまに息が詰まりそうになるとこうして、一番近くに外界を感じられるデッキで休憩するのが彼の習慣だった。


「お待たせいたしました〜。」


さっきのお姉さんが、注文の品を届けにきた。


「計2点で、520ルースです。」


「はい、お願いします。」


「ちょうど、お預かりします。ありがとうございました〜。」


帽子をとってぺこりとお辞儀をすると、お姉さんはワゴンへと戻って行った。


(ほお〜美味そっ。)


ベーグルから漂う香ばしい香りが食欲を掻き立てる。


「いただきます。」


蛇遣いはベーグルにかぶりつき、アイスコーヒーを啜った。


「は〜。うまあ。」


美味しい朝食に浸っているところに、何やらガヤガヤとたくさんの声が聞こえてきた。


上を見上げると、飛猫率いるツアー客の集団がすぐそこまで来ていた。


(げっ、デッキも周るなんて知らなかったんだけど!?)


蛇遣いの静かな朝食タイム、終了のお知らせ。


(……まあでも、食い始めたばかりだし──。)


少しばかりうるさくても、どうってことはない。

そう自分に言い聞かせた蛇遣いは、宙に浮かぶツアー集団を眺めながらアイスコーヒーを啜った。


「今日もまあ、ボスはファンが多くていいね〜。」


雑音も気にせず、呑気にデッキで朝食を摂る蛇遣いだったがまだ、自分に忍び寄る小さな影には気づいてはいなかった……。



果物屋のおっちゃん、めちゃくちゃ良い人。

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