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60 運命の起源 -Origin of Destiny-

──放課後。


今日は、梨人が塾の日。


学校帰りの猫好きA、蛇遣いは梨人の塾の時間まで付き添うことにした。


ふたりは、梨人に教わりながら駅の券売機で切符を購入する。


──ガチャ。ピー、ピー、ピー。



オレンジ色の可愛い切符が発券された。



「お〜〜〜!これが!キップ──!」


蛇遣いが、興奮気味に小さな二枚の印字切符を手にした。


猫好きAに一枚、手渡そうとすると近くにいた小学生の男の子に声を掛けられた。


「ハブアナイスデイ!!」


蛇遣いの目の前を通り過ぎた無邪気な男の子は、ランドセルを弾ませながら改札口の方へ走り去っていった。


「サ、サンキュー?」


一応、返事をした蛇遣いは梨人たちの方を振り向いた。


「俺に言ってたよな……?」


蛇遣いから切符を受け取った猫好きAは堪えるように笑っている。



「ククク──ま、外人は外人だからね。間違っちゃいないさ。」


初めての人間界の切符に喜ぶ様子を見た男の子は、蛇遣いのことを"外国人"と認識したようだ。


無論、見た目が金髪なことが最大の要因である。


言葉の意味合いからして間違ってはいないが、彼らは英語圏の人間どころか知られもしない上空圏のニンゲンであった。


「俺って……そんなに目立つか?」


納得いかない様子の、彼。


何やら視界の端で小刻みに揺れているなと横を見ると梨人が笑いを堪えていた──というよりも、ほとんど笑ってしまっていた。


「ふふ……ご、ごめん……制服着てるのに観光客扱いって……ふふふ………」


「笑うなッ!!」


蛇遣いと梨人の掛け合いの間に、猫好きAは勝手に切符を通して改札を抜けてしまった。


「梨人〜?これは、どっちに行くんだい?」


声のする方を見ると、改札の向こう側で上り下りの分からない男が右往左往していた。


「ちょっと!勝手に行かないでってば!」


猫好きAの後を追うと、梨人と蛇遣いも改札を抜けていった。


──電車に揺られること、二駅。


畑の多い長閑な景色が車窓越しに流れ、あっという間に目的地、春御峠駅に到着した。


駅を降りて少し歩くと、立ち入り禁止のテープにカラーコーンで規制された『出遇いの場所』が見えた。


マキシが潰したフェンスと折れ曲がった電柱は撤去され、自治体が原因不明な損害を危惧した結果、しばらく予防線が敷かれることとなった。



「ここだよ、僕たちが初めて出逢ったの。」


梨人たちは、テープが施された路地裏の目の前で立ち止まった。


猫好きAは、入り口に張られた『KEEP OUT』の文字に手を掛ける。



"──梨人くんの元に堕ちたこと自体、何かの運命であってもおかしくないと思うんです"


いつかに受話器越しに聞いた、セーヤの言葉を思い出す。


(……そうなると、ここは運命の起源(ルーツ)ということになる。)


当事者の訪問により、立ち入り禁止となった田舎の狭い路地裏はたった今、聖地としての意味を手に入れた。


「俺たち、ここで梨人に助けられたんだな。」


「そうだよ。コルクには脅かされるし、マキシは喋り出すし……大変だったんだから。」


「ハハハ。その節はどうも。」


喋るふたりの背後に立つ、猫好きA。


「うん、いいアングルだ。」


胸元からスマートフォンを取り出すと、梨人と蛇遣いのデコボコな後ろ姿そして、危険スポットと化した路地裏を写真に収めた。


──チリンチリン。


「ありがとうございました〜!」


真横のラーメン屋から、退店のベル音と元気な女性の声が聞こえてきた。



「スンスン──中華か?」


蛇遣いが、鼻をひくつかせる。


「そうそう。この横、ラーメン屋なんだよ。まだ一回も入ったことないけど。」


未踏と言う梨人に、猫好きAは提案した。


「まだ塾とやらには、時間がある。せっかくだしラーメンでも食べようか。」


「お、それはいい。」


腹が減っていたのか、蛇遣いも乗り気な様子。


梨人たちは、ラーメン屋の表に回った。


「青二才?すげぇネーミング。」


看板を見つけた蛇遣いは、その店の名前に微妙なリアクションをとっている。


「さ、入ろう。」


猫好きAが店のドアを引くと、漂う中華の良い匂いが梨人の鼻に届いた。


チリンチリン──。


「ラッシャーイ。」


店内に足を踏み入れると、厨房からは真っ白い歯をした笑顔の眩しい店主が顔を覗かせた。


梨人と、ふたりの運命が交わった場所は今や立ち入り禁止区域。

立ち入っては、ダメ。危険だから──そういうことです。



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