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6 飛猫の空中遊泳 -Flying Cat's Airborne Swim-

梨人(リヒト)が暮らす人間界の、遥か上。


白い雲を抜けた先には、いくつかの都市が存在している。


空の上に浮かぶ、中空都市と上空都市──そこでは、人間界と同じように『ニンゲン』が生活を営んでいた。 


ただ人間界と違うのは、大きな力を持つ"能力者"がいるということ。

そしてまた空の上にも"争い"は存在し、まだ摘まれていない争いの種が身を潜ませていた…。


その都市の中でも、上空都市として位置する"巡影帝国(じゅんえいていこく)"。


巡影帝国は、大きなドーム型の防護壁(シェード)に囲われた特殊な国である。


悲しい歴史を持つ国でありながら、太陽と月の光を遮る国。


そんな巡影帝国では、今日もたくさんのヒトが動いていた。



「皆様。本日は飛猫(とびねこ)の空中遊泳(ツアー)にご参加いただきまして、誠にありがとうございます。」


噴水の広場で多くの観光客を目の前に挨拶をする、スーツ姿の男。


黒い髪に、白い肌。スラリと伸びた長い手足。


彼は巡影の案内人(ガイド)、飛猫。上空では名の知れた案内人である。


「はあ、飛猫様がそこにいる…ワタシもう満足かもしれない。胸がいっぱいで飛べなさそう。」


「何言ってるの!やっとチケットが取れたんだもの、楽しまないと!」


「楽しむわよ。でも……うう。緊張で吐きそう。」


別の都市からやって来たのであろう二人の女性観光客。

彼女たちは飛猫の大ファンのようだ。


彼女たち以外の観光客も皆、この瞬間を待っていましたとばかりに飛猫に釘付けである。


飛猫はどこからかステッキを出すと、クルッと一度回してみせた。


次の瞬間。飛猫の手の中のステッキは手旗へと変化を遂げ、ステッキの先には綺麗な旗が(なび)いていた。

これが、飛猫の仕事道具である。


「皆様、気をつけの姿勢で真っ直ぐ前を向いて──そうです。

そのまま、目を閉じて下さいね。今から私が、景色がより鮮明に見える魔法をかけますので。」


飛猫は目を瞑る観光客の背後に回ると、首の後ろを手旗で軽く触れて回った。


これは、彼の言う"景色がより鮮明に見える魔法"などではない。

観光客一人一人に自らの力を一時的に分け与えることで、命綱(セーフティー)を付与しているのだ。


「あっ、飛猫様……。」

声を出した女性の側で、飛猫はささやく。


「そう、緊張なさらずに。きっと上手く飛べますから。」

「は、はい……♡」


違う。彼女は遊泳に緊張しているのではない。飛猫──貴方に緊張しているのだ。


彼女の後ろに居た男性観光客は、そうツッコミたかった。


(よし、これで全員だな。)


観光客全員に付与が完了したことを確認すると、再び観光客の目の前に立つ。


「さあ、皆様。もう、目を開けていいですよ。」


観光客は、目をゆっくりと開いた。


「なんか……さっきよりも見えやすい気がする!」

「ねえ、不思議!」


プラシーボ(楽しい嘘)の効果が出た観光客は、効果に驚きの声を挙げていた。

……実際は魔法よりも、もっと大事な物を与えられているとは知りもせずに。


飛猫は、手旗をクルクルと回して高く掲げた。


「皆様。準備は良いですか?」


「はーい!」

「オーケーです!」

観光客は、口々に返事をする。


飛猫はゆっくりと瞳を閉じると手旗を横に持ち、口に咥えた。


皆の視線が、飛猫に集中する。


飛猫は、カッと目を開いた。

その瞳には、黄金の中に一本の黒い線が走っていた。

まるで、猫の瞳のようだ。


「うわあ……。」

「──すごい。」


観光客が次々と感嘆の声を漏らしている。

その理由は、飛猫の姿にあった。


頭に現れた猫の耳に、先端から枝分かれした猫のような尻尾。

そしてスラリと伸びた脚の先は、大きく立派な猫の足になっていた。


猫のモデルの力を継ぐ飛猫。

身体的な強化で有名な動物モデルの力だが、この力を飛猫はエンターテイメントとして提供することで観光客を楽しませていた。


この猫の姿は、"飛猫"という彼の名前の由来にもなっている。


「来るぞ……構えろ。」

飛猫の空中遊泳、三度目の参加となる男性観光客がタイミングを伝える。


ヒュロロロ……ヒュロロロ……


飛猫が、手旗から成る横笛を吹いた。

このステッキ、手旗、横笛と活用した棒状の物体の正体は"導きの横笛(リードパイプ)"。

これは飛猫の"中のニンゲン"の武器である。


"導きの横笛"の音色と共に、観光客の身体は宙へと浮かび上がった。


「きゃあ!」

「う、うわああああ!」


驚きのあまり、叫ぶ観光客。


"導きの横笛"から口を離した飛猫は、集団の先頭で後ろを振り返っていた。


「皆様、慌てないで。身体の力を抜いてリラックス、リラックス。

前にある何かに寄りかかるように、身体の重心を傾けてみて。そうすると、楽に浮けるでしょう?」


オロオロしていた初心者も、飛猫の言葉に習い、安定のある飛行姿勢を保てるようになった。


「もし、気分が悪くなったりしたらすぐに仰って下さいね。私がすぐに駆けつけますので。」


「やだ、駆けつけてくれるって。」

「え、それは鼻血出ちゃう♡」


先の飛猫ファンが後ろ側で騒いでいた。


「それでは、皆様。私と共に、巡影の旅へ出掛けましょう。」


飛猫は、導きの横笛から成る旗を靡かせ、巡影帝国の空中遊泳を開始した。



飛猫の素顔は、如何に──。


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