59 モテ期、到来? -Is this the popular period?-
「ちょっと、見てよ──」
「あんな人、いたっけ?」
「三組の待夜くんだってば。」
廊下を歩く梨人と、猫好きA、蛇遣いは男女問わず多くの視線を集めている。
それも、そのはず。
普段は眼鏡で冴えない痩せ男が、今では優しげな好青年。
蛇遣いの治癒技術により、症状の緩和だけでなく本来の視力までも取り戻した梨人。
裸眼となった素顔の彼は、甘めな眼差しに柔らかい雰囲気の男子高校生となった。
度の強い眼鏡を掛けていただけのことで、梨人はどちらかというと可愛い系統の顔立ちをしていた。
その当人はというと……猫好きAと蛇遣いの後ろで挙動不審になっている。
体育の授業終わり、三組までの道をただ歩いているだけのはずなのに──いつもより視線が痛い。特に、女子。
横を通りすぎる生徒たちが皆、目で梨人たちを追っている。
眼鏡を外した新鮮な顔に、吊り目色白、そして──彫りの深い褐色肌。
ここまで系統の違う男子が並んでいれば、目立って当然である。
「ええ……どうしてこんなに人が多いの……」
女子トイレから出てきた実箏は、人混みの先にジャージ姿の梨人たちを見つけた。
(あ、待夜くん達だ。)
声を掛けるか、掛けまいか……迷っていたところに、他クラスの女子生徒の会話が耳に入った。
「待夜くんって、確か図書委員の?」
「そうそう。眼鏡で暗いイメージしか無かったんだけど、意外とイケメンだよね。」
「まあ……親戚だっていう転校生も、あの感じだからね。血筋なんだよ、きっと。」
どうみても容姿の似つかない梨人たちだが──。
それらしい情報というものは、いとも簡単に人を信じ込ませる。
セーヤのでっちあげた設定は、しっかりと役目を果たしていた。
(確かに待夜くんはカッコいいけど……あのふたりは、本当に親戚なのかな。なんか怪しい。)
一方で実箏は、猫好きAと蛇遣いに怪しさを覚え始めていた。
とはいえ、確たる証拠もない今の状況では親戚説を受け入れるしかない。
(ダメダメ。また授業に集中できなくなっちゃう。)
そんなことを考えながら一組へ戻る廊下の途中、三組の教室の前を通るとちょうど、こちらを向く梨人と目が合った。
朗らかな笑みを浮かべて手を振る青年に、実箏は心を奪われる。
実箏も手を振り返そうとした時、梨人の前が他クラスから押し寄せた女子生徒の背中で遮られた。
「待夜くん、眼鏡どうしたの??」
「とっくにコンタクトにすれば良かったのに!」
キュルンとした顔の女子生徒が、接点欲しさに梨人へ話しかけている。
「…………。」
実箏は、振ろうとした手を静かに下ろした。
それと同時にモヤっとした何かが、じわじわと彼女の胸に広がっていく。
(どうして眼鏡外しちゃったの……。そのままでも良かったのに。)
実箏は、今更梨人に近づこうとする女子達に不満を持った。
どうせ、彼女たちは外見から入っただけのにわかに過ぎない。
そして何より、自分の知る梨人の本当の魅力に気づかれてしまうことが最大の不満だった。
(知れば──好きになるに決まってる。)
落ち込んだ様子で、三組の前から離れようとする実箏。
何かを察したのか、三組の教室の中から猫好きAと蛇遣いが実箏に向けてヒラリと手を振った。
それはまるで……恋する乙女へささやかなエールを送るように。




