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57 二頭のゾル鹿 -Two Zor deer-

──昼休み。


梨人は実箏(みこと)と約束した、非常口前へと急ぐ。


「梨人、お昼はどうするの。また購買のパン?」


財布を持って飛び出そうとする梨人を、猫好きAが呼び止める。


「うん、そのつもり。今日は矢城さんと食べるかも。」


「どこだっけ?場所は。」


「非常口前の階段だけど……?」


どうして?と、目を丸くする梨人。


猫好きAは嘘くさい笑みを浮かべると、梨人にヒラヒラと手を振った。


「そうかい。行ってらっしゃい。」


「う、うん。行ってくるね。」


梨人の姿が見えなくなると、蛇遣いは猫好きAの机に手をついた。


「ボス──」


「どうしたの。そんな顔をして。」


蛇遣いの顔には、まるで長距離マラソンの後のような疲れが見える。


「もう俺、おかしくなりそう。獣園のゾル鹿()になった気分だ。とにかく、どこかに行こう……屋上にでも……」


ゾル鹿──それは、上空・中空にて使役されている珍獣。巡影騎士団が所有する獣園の檻の中には、様々な種類のゾル鹿が飼い慣らされていた。


高校デビューから、二日。


容姿の珍しいふたりの登場は、クラスの外からも脚光を浴びる事態にまで発展していた。


猫好きAが廊下側を見ると、入り口には猫好きAと蛇遣いを一目見ようと、たくさんの生徒が押し寄せている。


「──ゾル鹿は、随分と人気なようだね。」


3組に身を置く、このふたり。


顔の良いツインの青年の正体、それは──ゾル鹿のような牙を隠し持つ、危険な存在。


それを知らない人間は、外見に惑わされて珍獣の檻に手を突っ込んでいる。


猫好きAは元気のない蛇遣いの腕を掴むと、観衆を掻き分けて教室を出た。


「マスター。私に良い案があるよ。」


猫好きAの申し出に、手を引かれる蛇遣いは顔を上げる。


「……なんだよ、良い案って。」


猫好きAは蛇遣いを振り向くと、ニヤリと笑った。


「決まってるだろう──ダブルデートだよ。」


「ぜってえ邪魔だって!!」


梨人たちの仲を邪魔してはいけないと、ブレーキを効かせようと必死になる蛇遣い。


後ろにそり返る蛇遣いを引きずりながら、猫好きAは長い足で梨人と実箏が密会する非常口前へと向かった。



──非常口前、階段。


そこでは、梨人と実箏が肩を並べて座っていた。


「いくよ………?」


「うん………!」


「せーのっ!」


ふたりは、同タイミングで横向きに持ったスマートフォンの画面をタップした。


梨人の画面、降り注ぐ流星のうち二つがキラリと黄金色に光った。


「お………っ!」


「あっ!!」


画面が切り替わると、そこには待ちに待った星5キャラ・コバルトが二体、映し出された。

梨人は最初の10連でいきなり、お目当てを二枚引き当ててしまった。

これが所謂、"神引き"というやつである。


「よっしゃあ!」


「やったあ!」


梨人と実箏は嬉しさのあまり、手を取り合って喜んだ。


──ガサッ


「あっ………」


「ごごご、ごめんっ!」


物音に驚いたふたりは、すぐに離れた。


階段の下を見ると、そこには購買で買ったパンが入った袋を落とした蛇遣いと、猫好きAが居た。


ここに向かうまで、購買で昼食を買おうと提案したことで時間を稼いだつもりだったが……。


蛇遣いの計らいは、逆にタイミングの帳尻を合わせてしまったようだ。


「──ほお、お熱いことで。」


猫好きAは、まるで揶揄うかのように眉を上げている。


「違うから!これは……その……」


「誰も、悪いとは言ってないよ。」


慌てる梨人に、赤面する実箏。


蛇遣いは気まずさの中、落とした袋を拾い上げると実箏の真横にドガッと座った。


「──食うか?」


梨人にとって敵ではないと判断したからか、蛇遣いは購買のあんパンを実箏に差し出した。


「え?いいの?」


「ああ。お近づきの印に。」


「あ、ありがとう……。」



実箏は真後ろに座った猫好きAと隣の蛇遣い、そしてすぐ横に座る梨人に囲まれながら歓迎のあんパンを素直に受け取った。


「実箏ちゃんも、ゲームが好きなんだね。」


猫好きAは後ろから実箏の膝の上、スマホの画面に表示されたゲーム『ナイツパレット』を指差した。


「あ、うん。このゲーム、世界観も凝ってるし何よりキャラクターがカッコよくて好きなの。ちょうど、待夜くんも同じゲームが好きでね。今、一緒にガチャを引いていたの。」


「へえ。ガチャか──」


猫好きAは腕を伸ばすと、実箏のスマートフォンを手に取った。


「あと何回、回せるの?」


「あと、50連は回せると思うけど……」


「──どれ。」


猫好きAは、実箏の許可を得ず勝手に画面を押すと、10連分回してしまった。


十個の流れ星が、画面上に曲線を描く。


画面の下、プレイヤーが見ることのできない『ナイツパレット』のシステムデータ上では数字が踊り始め、排出率の数字は普通ではありえない100%に書き換えられた。


(これは……来るな。)


実箏の横で、コロッケパンにかぶりつく蛇遣いは勝利、いや──大勝利を確信した。


「う、うっそぉ!!!!!」


梨人が、声を上げた時。

実箏のスマートフォンの画面上では黄金色の星が十個、輝いていた。


──百発百中。システムを狂わせた、不正かつ現実離れしたリザルトに二人の若きゲーマーは驚愕した。


猫好きAの配当属性、"導き(リード)"。


導きのリヒターである彼は浮遊能力以外にもう一つ、特性を隠し持つ。


その特性こそ、たった今証明された"強運"。


決して、猫好きA自身が生み出した強運という訳ではなく。


力の働きを自分へと引き寄せる、導きの能力によって生まれた「規格外のラッキー」である。


実箏が覗き込む確認画面には、コバルトが十体、綺麗に並んでいた。


すり抜けなしの、完凸確定である。


「こ、こんなことって………」


驚きのあまり言葉を失う彼女に、猫好きAは笑いながらメロンパンの袋を開けている。


「ハハハ、驚いた?私、運だけは強いんだよ。」


猫好きAは口を開けると、まあるいメロンパンに八重歯を立てた。


梨人は、最初は驚いていたものの、またマジックか何かだろうと特に気にすることもなく、蛇遣いから手渡されたホットドッグにかぶりついている。


「ボス、俺レーズンロール食べていいか?」


「レーズンは、私のだよ。」


「……。」


自然な甘さを求めた蛇遣いだったが仕方なく、甘ったるいクリームパンを手に取る。


学生達で混み合う購買では、種類違いのパンを適当に購入するしかなかったようだ。


「コルク。僕、りんごパン買ったんだ。交換する?」


「お前、クリームパンでいいのか?甘いぞ?」


「うん、クリームパンが食べたい。」



梨人と蛇遣いは、実箏の前でパンを交換する。



「これ、美味そうだな。」

蛇遣いは、視界に入った実箏のお弁当に美味しそうなおかずを発見した。


「あ……これ?食べる……?」


「いいのか?じゃあ、遠慮なく。」


蛇遣いはピックをつまむと、肉巻きを一口で食べた。


「うん、美味い。」


もぐもぐと口を動かしながら、親指で口元を拭う蛇遣い。


実箏が後ろを振り向くと、長い足を交差させながらレーズンパンをちぎる猫好きAと目が合った。


うん?と吊り目をこちらに向けている。


次に、隣の梨人を見ると口の横にカスタードをつけながら、普通の顔をしてクリームパンを食べていた。


(え……なんで誰も、おかしいと思わないの?)


これが日常だと、涼しい顔で昼食を摂る梨人たち──。


実箏は、たった今起きた奇妙な出来事を一人、消化できずにいた。


この"違和感"のスパイスのせいか、隣にいる好きな人のせいか……。


彼女はいつもより、お弁当を味わうことができなかった。


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