56 恋心 -Affection-
──翌日の朝。
紘も、学校に登校した後の時間。
普段は、早めに登校する梨人。しかし──その彼はまだ、和室にいる。
このままでは遅刻確定だが、表情に焦りは見えない。
そして、梨人の目の前には制服を着た青年が、ふたり。
既に地獄のポーション服用を終えた猫好きAと蛇遣いがネクタイを締めていた。
──シュタッ。
梨人たちのいる和室に、風を纏ったセーヤが到着した。
「セーヤさん!!」
目を輝かせる梨人に、セーヤは微笑みかける。
「おはようございます、お三方。準備は整いましたか。」
「ああ、今ちょうど。すまないね。」
「いえ。」
セーヤは猫好きAと話しながら、直しきれていない梨人の寝癖をおさえる。
手を離すとピョンっと聞かん坊が反発する。
「髪の乱れは、心の乱れ。僕が直してあげよう。」
手に白銀に光る影響力を宿すとセーヤは、恥ずかしそうにする梨人の髪をセッティングした。
「うん、これでよし。」
満足気に梨人を見回したセーヤは、腕を差し出した。
「さあ、行きましょうか。」
準備を済ませた梨人たちは、セーヤの腕につかまった。
梨人──初めての、瞬間移動。
内心ドキドキしながら、しがみつく。
「ほら、そう強張らない。」
猫好きAは、安心させるように梨人の肩を持った。蛇遣いも、大丈夫だと言うように梨人の背中に手を当てる。
セーヤが影響力を身体に纏わせると、彼と梨人たちの周りには風のサークルが形成された。
(引っ張られる……!)
引力がブレ始め、身体が各方向へ分散するような感覚が走り始めた。
「──岳陵第一高校へ。」
次の瞬間。セーヤの言葉を最後に、梨人たちは和室から姿を消し、高校敷地内の人目につかない場所へとワープした。
──岳陵第一高校、校舎内。
「おはよう〜。」
「おはよ。今日も寒いねぇ。」
「ホントね。そろそろ、カイロ持ってこないと。」
下駄箱には、寒いと言いながらも生足の女子生徒。
後ろから、セーヤに送ってもらった梨人たちが登校してきた。
「……朝から凄いの、体験しちゃった。」
未だ、放心状態の梨人。
「これからは毎朝、セーヤに抱いてもらえるよ。」
「おいボス、語弊。あと、靴は脱げって。」
「ああ、そうだった。上履き。」
猫好きAたちは、階段を上っていった。
「抱──く──?」
「え、そういう………?」
下駄箱では、先の女子ふたりが微妙な表情を浮かべていた。
梨人たちはクラスへ向かう途中、実箏と廊下でばったり会った。
「あ、待夜くん!おはよ!」
毛先のくるんとしたポニーテールを揺らしながら、実箏が近づいてくる。
「おはよう、矢城さん。」
「あれ?そのふたりは──」
「ああ、昨日うちのクラスに転校してきた好と、コルクだよ。僕の親戚。」
「ああ!噂の転校生!」
誰だ?と彼女を見るふたりに、梨人は紹介した。
「この人は、1組の矢城実箏さん。僕の友達だよ。」
(友達……!友達って言ってくれた!!)
梨人の友達発言に心の中で小躍りするもう一人の自分をおさえながら、実箏は平静を装った。
「実箏です。よろしくね。」
ニコリと笑顔で挨拶をする、彼女。
(……ああ!あん時の子か!)
蛇遣いは以前、梨人を訪ねてきたうちの一人であることを思い出した。
(どれどれ──)
「俺は、コルク。よろしくな。」
そう言うと、蛇遣いは実箏に片手を差し出した。
「えっ……?」
ポカンとする実箏。
最近のJ Kに、異性と握手を交わす習慣はない。
「ほら、握手。」
「う、うん……。」
彼女は、蛇遣いの大きな手をちょこんと遠慮気味に握った。
その瞬間、蛇遣いは驚きの表情を浮かべた。
触れた者が少しでも蛇遣いに心を開いている場合、彼は肌越しにその者の心情を汲み取ることができる。
これはそう──猫好きAとやっていた"触れる意思伝達"の延長、能力の応用である。
蛇遣いの頭に流れ込む、実箏の心情。
"待夜くん、今朝は元気そう。良かった。"
"なんでもいいから、もっと話したいな。"
"──好き。"
手を離した蛇遣いは、甘酸っぱい彼女の想いに動揺した。
(コイツ……梨人のことを……)
蛇遣いに続き、猫好きAも流れで握手を交わした。
「好だよ。よろしく、実箏ちゃん。」
(み、実箏ちゃん!?)
梨人は、隣でヘラヘラと笑う猫好きAを凝視した。
蛇遣いに「梨人のために愛想よくしろ」と注意を受けていた彼は"最低限の愛想"を実行に移していた。
それにしても──最低限で"ちゃん"付けはもはや、たらしの格である。
「よ、よろしく……?」
実箏も猫好きAの軽い雰囲気に少し、警戒してしまったようだ。
実箏と挨拶を交わした猫好きAと蛇遣いがその場を離れようとすると、実箏は梨人を呼び止めた。
「あ、そうだ待夜くん。MINEで言ってたコバルト、今日実装だね。」
梨人と実箏はMINEを交換したあの日から度々、趣味の話で盛り上がっていた。
「そうじゃん。午後にはメンテ明けるから即、回さなきゃ。」
「私も、休み時間に回そうと思って!石、貯まった?」
「うーん、まあまあ?あとは、期間中のイベントでどうにか。」
「あー、私と同じだ。お昼、教室来てもいい?一緒に回そうよ。」
「いいね、それなら非常口前の階段にしよう。」
「分かった。じゃあ、お昼にね。」
共に運試しをする約束を交わした、梨人と実箏は手を振って別れた。
その様子を、少し離れたところから見守っていた猫好きAと蛇遣い。
「……ボス。あの子、梨人に気があるみたいだ。」
「──そのようだね。」
「……青春だよなぁ。」
「ホント。青いねぇ。」
早速"青春"の予感に浸る、ふたり。
梨人を待つと、朝から騒がしいクラスへと入っていった。




