53 予想外のサプライズ -Unexpected surprise-
──ガラガラガラ。
生徒達の視線の中、ふたりは教室の中を歩く。
教卓の真横で止まり、前を向くと生徒達は皆、呆然としていた。
(うわ……とんだイケメンが来た。)
(え……?転校生って二人なの?)
(ヤダ♡ ヤダ♡ カッコいいっ!!)
(やっばい。金髪の方、どタイプ──って、金髪ダメじゃない?)
(背ぇ、たっか。足、なっが。)
各々が感想を持つ中、梨人の思考はフリーズしていた。
梨人と目が合った猫好きAは、パチッとウインクを贈る。
あ──あの感じは。好に間違いない。
梨人は机に目線を落とすと、ぐるぐる考え始めた。
(なんか若くなってるけど……好とコルク、だよな?こんなの、あり得るのか──?それにしても一体、どうやって……)
教卓の二見先生は、白いチョークを手に取ると
黒板にふたりの名前を書き出した。
待夜 好
待夜 コルク
名前を見たクラスメイト何人かは、梨人の方をチラチラと見ている。
「えー。見て気づく人もいると思うけど、好とコルクは梨人の親戚に当たる。皆、一期一会だからね。仲良くするように。じゃあ、自己紹介しよっか。」
猫好きAはジロリとクラスを見渡した後、口を開いた。
「──待夜 好、18歳。好きは、素直で優しくて可愛い人。嫌いは、思いやりに欠けるクズ。趣味は、人間観察。一応、よろしく。」
性格の悪さ全開の自己紹介に、教室は凍りついた。
(気持ちは分かるけど!もう少し、なんとか言えなかったのかよボス──!)
咳払いをした蛇遣いは、続いて自己紹介をした。
「待夜 コルクです。同じく、18歳。えっと、
このヒトは、悪いニンゲンじゃないです。こういうキャラ。そう、キャラ。
とにかく、よろしく。」
挨拶ではなく弁解に終わった蛇遣いは、猫好きAを睨んだ。
「は、拍手ー。」
パチ……パチ……パチ……
パラパラと、歓迎の意を持っているかも分からない拍手が聞こえた。
「じゃあ──最初だし、席は梨人の後ろにしようか。だからと言って授業中、喋っちゃダメだからねー。」
窓際、梨人の真後ろにセッティングされた席に、ふたりは腰をかけた。
梨人が後ろを振り向くと、ふたりがニヤリと笑った。
(──はぁ。これからどうなるんだろう……。)
梨人は先の心配で、予想外のサプライズを素直に喜べなかった。
──ホームルームの後。
猫好きAは梨人の隣、順太の机の前で止まった。
「……なんだよ。」
『青龍の愛し子』を抱えた順太の手に、猫好きAは手を重ねた。
「──顔色が悪いよ、君。」
猫好きAから感じる威圧に、順太はたじろいだ。
「手も、こんなに冷たくなって──。」
順太の瞳には、半笑いを浮かべた奇妙な好が映っている。
緊張している彼の手の上に、自分の手を滑らせる猫好きA。
本人の指示により、順太の手を固めていた紫色の敵意は引き、元の透明なバリアへと身を隠す。
解放された順太は、すぐさま小説から手を離した。
(何だったんだ……コイツも、なんなんだよ………)
猫好きAは、順太から取り上げた『青龍の愛し子』で彼の頭をペシペシと、はたいた。
「これ、梨人の本だからね。君のじゃないよ。」
「あ、ああ……」
順太は、怯えていた。
待夜 好と名乗る、この男の背後に悍ましいオーラを見たような気がしたのだ。
それはまるで化け猫のような、得体の知れない生気──。
萎縮する順太の隣で、猫好きAは梨人へ小説を返した。
「安心して読むといいよ。私が居る以上、もう二度と破られることはないから。」
「………ありがとう。」
ようやく、猫好きAの仕込みだと気づいた梨人。
小さくお礼を言った梨人の頭をポンポンと撫でると、猫好きAは自分の席へと戻った。
猫好きAの席の真隣では、蛇遣いが女子に囲まれている。
「コルクくんって、ハーフ?外人じゃないよね?」
「金髪で驚いたよ。よく大丈夫だったね。」
「ねえねえ、趣味とかってないの?」
「出身ってどこ?日本?」
(そんな、一斉に喋られても……。)
聖徳太子でないと聞き分けられない程の質問攻めを喰らった彼は、猫好きAの後ろに回り込んだ。
「俺だけじゃなくて。こっちの、好にも。色々聞いてやってくれよ。」
「私がなぜ──」
言いかけた猫好きAに、蛇遣いはコソッと耳打ちをした。
(梨人のためだ。愛想よくしてくれボス。)
(ハァ。仕方ない──)
サァ───ッ
換気のために少しだけ開けられていた窓の隙間から、風が吹き込む。
真っ黒な髪を揺らしながら、猫好きAは女子に向けて軽く微笑んだ。
「………!!」
女子の一人の瞳には、猫好きAを囲む赤薔薇の幻覚が見えた。
そう、この微笑みこそ──美の暴力。
実際は28歳の自称おじさんである、猫好きA。
そんなことも知らない今の女子高生は、ポーションで呼び起こされた過去の彼の姿に美麗を感じていた。
無愛想でクールな印象の男、これがふと、頬を緩めた時。油断していた乙女の心臓は、高速の矢に射抜かれる。
意外性──これこそが、女の心を掴む鍵なのだ。
顔を赤くした女子たちは、猫好きAから目線を逸らした。
「わ、私……次の授業の支度しなきゃ……。」
「私も……。」
女子たちは、ふたりの元から散っていった。
「……なんだったんだ?」
「──ただのガキさ。それにしても、あんなもので逃げてくれるなんて。笑顔はつくづく、便利だね。」
猫好きAは、目の前の梨人の髪をいじる。
猫好きAのイタズラに慣れてしまった梨人は、気にせず『青龍の愛し子』を読んでいた。
「分かったならそう、ツンケンしないで。人当たり良く、な。」
「はぁ、分かった。最低限、気をつけるよ。」
幸先不安なスタートではあるが──ふたりと梨人の高校生活はこうして、幕を開けた。




