52 君の元へ -Hi, Rihito-
支度を済ませたふたりは、通学カバンを片手にセーヤの目の前に立つ。
擬態ポーションによる年齢操作に成功した、ふたり。
見た目だけは完全に、顔の良い男子高校生だ。
「準備は、いいですか。」
セーヤは、ふたりの肩を掴んだ。
彼の周りには風が吹き始め、たちまち三ニンはサークルの中に飲まれた。
「──行きます。しっかり捕まっていてください。」
猫好きAと蛇遣いがセーヤの腕にしがみついた、次の瞬間。
──ヒュンッ。
風と共に、三ニンは和室から姿を消した。
「好〜、コルク〜。お茶でも──」
玄恵がドアを開けると既に、和室はもぬけの殻。
「あら?話し声が聞こえた気がしたのに。もう、出掛けたのかしら……。」
玄恵は、静かに和室のドアを閉めた。
──岳陵第一高校、裏門。
駐輪場の隅に風のサークルが生まれ、セーヤら三ニンが姿を現した。
「到着しました。」
セーヤは、ふたりを学内に置くと再び、風に包まれた。
「セーヤくん、ありがとう。」
「いえ。また、何かあったらすぐに知らせてください。駆けつけます。」
「じゃ。」と手を上げる蛇遣いにセーヤは手を上げて応えると、その場から離脱した。
「さ、行こうか。梨人の元へ。」
「初めての高校──なんか、ドキドキするな。」
ふたりは、校則に沿ったシンプルなローファーで建物の中へと向かった。
──2年3組、教室。
ホームルーム前のクラスでは、生徒たちがにぎやかに話していた。
梨人はというと──いつも通り、喧騒の中でも静かに本を読んでいる。
──ガタンッ。
席の近く、男子同士でふざけ合っていた順太が梨人の席に勢いよくぶつかった。
「あ、わり。」
「うん。」
一応謝った順太だったが、梨人の読んでいる本を見ると顔つきを変えた。
「お前、その本──。」
順太は、梨人の読んでいた『青龍の愛し子』を指差した。
「ああ、うん。前に、君に破られたのと同じ本だね。」
そう答えた梨人は涼しい顔でまた、1ページめくった。
「ハッ。わざわざ買い直したのか、破られたから。随分と軸があるんだな。」
「どうでもいいだろ、僕の物なんだから。放っておいてくれ。」
干渉するなと、梨人はそっぽを向いた。
「テメェ……また、そういう態度をとるのか。学習しない馬鹿だな──」
順太は梨人の手から勢いよく小説を取り上げると、前みたく破ってやろうと縦方向に力を加えた。
(好から、もらった本が……!!)
「やめろ!!」
梨人が叫ぶ──が、順太の手の中にある小説は一向に破られない。
「あ?──なんだ、破れっ、ない……あれ……」
順太は力を込めて何度も本を曲げるが、破れるどころか自分の手が痛くなってきた。
「なんでこんなに本が頑丈なんだよ……!気持ち悪りぃ。」
梨人の机の上に小説を投げようとした順太。
(あれ──?手が……外れない………)
何か異変を感じたのか、彼はまじまじと自分の手を見た。
「な、なんだよこれ………うわぁぁぁぁあ!!!!!!」
梨人が、叫ぶ彼を見ると『青龍の愛し子』を包み込む紫色のナニかが、順太の手から腕を飲み込んでいた。
意思を持ったように動くそれはまるで、アメーバのよう。
この不明物体の正体は、猫好きAが仕込んでいたバリア。
衝撃を察知したバリアは、猫好きAの影響力を糧として発動そして──影響力に組み込まれた闘志が目の前の"元凶"に牙を向いた。
外れない手をおさえ、のたうち回る順太。
「あいつ、何やってんだ。」
クラスメイトは何事かと皆、梨人の方に視線を向ける。
──ガラガラ。
「はい皆、おはようー。ホームルーム始めるわよー。」
担任の二見先生が、教卓に立つ。
皆は席に着き、額に汗を浮かべた順太も外れない『青龍の愛し子』を抱え、着席した。
隣で焦った表情をしている順太を、横目に見る梨人。
(二度も破こうとするから、青龍が噛み付いたんだ。ざまあみろ。)
猫好きAの仕業だとは、気づいていないようだ。
梨人は、黒板の前の二見先生に視線を戻す。
「今日はー。なんとぉ。ビッグニュースがありまーす。」
いつも少し、気だるそうな先生は嬉しいのか嬉しくないのか、よく分からないテンションで話し始めた。
「驚いてねー?なんとぉ。うちのクラスに転校生が来まーす。」
「えっ!!転校生!?」
「誰だろう、男子?女子?」
驚いてねという二見先生の前置き通り、生徒達は驚いた後、ザワザワと話し始めた。
ギュイッ、ギュイッ、ギュイッ──
「ここの廊下、なんでこんなに鳴るんだ?」
「生徒が逃げ出しても分かるように、工夫されてるんじゃない?」
「──絶対違う。」
職員室で案内を受けたふたりは階段を上り、とうとう3組の教室の前に来た。
二見先生が、ふたりを呼ぶ。
「おお、ちょうど来たねぇ。どうぞー、入って。」
──ガラガラガラ。
金髪に褐色肌の青年と、黒髪に白肌の青年は梨人の待つ2年3組に足を踏み入れた。




