50 セーヤと、梨人と、大福と。 -With Seya, Rihito, and Daifuku.-
──数日後の夕方。
猫好きAと蛇遣いの元に、セーヤが到着した。
この間はバルコニーだったが今度は、窓からセーヤを和室の中へと招き入れ、近くのノーソンで買っておいたペットボトルのコーヒーでもてなした。
「こちらが、おふたりの制服と身分証です。」
セーヤは下ろした大きな黒い鞄から、岳陵第一高校の制服とナンバーカードを取り出した。
「おお!梨人と同じ制服!!」
蛇遣いは、制服を身体に合わせて猫好きAとセーヤに見せた。
「あれ、似合うじゃないか。」
「マスター、まだまだ制服いけますね……?」
セーヤと猫好きAは、意外と制服が似合う蛇遣いに正直、驚いていた。
続けて猫好きAも、制服を身体に合わせてみる。
「どう??」
猫好きAはキメ顔でふたりの感想を待った。
「……まあ。ポーション使うからな。」
「ええ……そうですね。」
反応からして今の姿ではあまり、似合ってないようだ。
「私はどうせ、老け顔だよ。」
「いや、ボスはスーツ姿に見慣れてるからっていうか……な?セーヤさん。」
「そうですよ。スーツと制服ではまた、違いますから。」
そう答えるセーヤは、他にも教材やジャージなど高校生活に必要なものをふたりに手渡した。
「おふたりのことは、2年3組に配置してもらいました。梨人君と、同じクラス。名前は"待夜 好"、"待夜 コルク"で通してあります。ふたりは親戚という形で説明しておきましたので設定、忘れないようにしてください。」
セーヤはさらっと、登録した情報をふたりに共有した。
「……なんか俺だけ、外国人って感じだな。」
蛇遣いは、微妙そうな表情。
「それなら。今はキラキラネームという、洒落た名前も流行のようなので。きっと大丈夫ですよ。」
「キラキラネーム……俺の名前って、日本ではキラキラネームに入るのか……。」
特に名前を気にしたことのなかった蛇遣いは今初めて、漢字で書ける名前が羨ましくなった。
「そうだ、セーヤくん。擬態ポーションについてなんだけど、午前中から夕方まで……そうだな、9時間くらい擬態効果を持たせるにはどのくらい飲めばいいいのかな。全部?」
猫好きAはポーションの使用量について聞いた。
「そうですね、9時間でしたら半分を服用すれば足りると思います。ああ、それと。
それ以上、ポーションを身体に取り入れてしまうと一日中、擬態が解けなくなる可能性があるので注意して使用してください。」
「それは──困るね。気をつけて使うことにするよ。」
猫好きAはポケットからポーションの小瓶を取り出すと、中に入った緑色の液体をゆらゆらと揺らした。
「そう言うボスが、うっかり全部飲みそうで怖いんだよな。」
蛇遣いは、猫好きAの手からポーションを回収した。
「でもまさか、おふたりが人間界の学校に通われる日がくるなんて。世の中、何があるか分からないものですね。」
セーヤはスラッとした手でキャップを捻ると、ペットボトルのコーヒーに口をつけた。
「俺も、ボスから計画を聞いた時は驚いた。通うまでは考えてなかったから。」
「だって、せっかく人間界に来ているんだよ?堪能しないと。」
そう言った猫好きAは、湯呑みに入ったお茶を啜った。
「しかし……私たちくらいの歳で学生生活となるとやはり、変な感じがしますね。今の若者とは考えることも感じるものも違うだろうから。」
「そうだね。見た目が少しばかり若くなろうが、中身はほぼ、おっさんのようなものだからね。」
「いや……まだ俺、25だからな?おっさんカウントは嫌だ。」
蛇遣いは25歳、猫好きAは28歳。
この3歳の差は、あってないようなものだった。
「25だって、28だって。おっさんはおっさんだよ。18越えたところでピチピチは、とうに過ぎてる。」
この猫好きAの発言に、コーヒーを飲んでいたセーヤは咽せた。
(ということは、僕もおっさん………)
セーヤは、蛇遣いの一つ歳上。26歳だった。
──ガチャリ。
玄関先から、物音がする。誰かが帰ってきたようだ。
「まずい、片付けないと。」
ふたりが、セーヤから渡された高校スタートセットを押し入れに隠し終えたところで、梨人が和室に入ってきた。
「ふたりとも〜。大福買ってきた………あれ?」
大福を3つ抱えた梨人は、紺色の髪の男性を凝視した。
(うわぁ。綺麗な人だな……)
「ああ、梨人。こちら、セーヤ・レジール。私たちの知り合いだよ。」
紹介されたセーヤは、畳の上に正座するとお辞儀をした。
「梨人くん、初めまして。セーヤです。」
「あぁ、えっと、初めまして。梨人です。」
梨人も慌てて正座をすると、セーヤにお辞儀を返した。
「あの……セーヤさんはどうしてうちに?」
「ああ、今日はおふたりの身分証を届けに来たんです。なにかと、不便なんじゃないかと思って。」
セーヤはうまく、高校デビューのことを隠した。
「それにな、梨人。セーヤさん、俺たちにスマホも用意してくれたんだ。ほら。」
猫好きAと蛇遣いは、梨人にスマートフォンを見せた。
「せっかくだから、皆で連絡先を交換しておこうか。」
猫好きAの提案で、全員は互いの電話番号とMINE を交換した。
梨人のMINEの画面には、玄恵、美雪、実箏、苫男に続き、好、コルク、セーヤの名前が並んだ。
(一気に、三ニン増えた……)
友達が増えたようで、梨人は嬉しかった。
「じゃあ、僕はそろそろ。行きますね。」
セーヤは黒い鞄を抱え、梨人に微笑みかけると手を振った。
梨人も、咄嗟に手を振りかえす。
「セーヤくん、また連絡するから。」
「はい。」
猫好きAとアイコンタクトをとったセーヤは風に包まれ、次の瞬間には部屋から消えていた。
「えぇぇぇぇ!!!!!!消えた!!!!!!」
セーヤの能力は今までで一番、異世界らしい能力なのではないだろうか。
梨人は興奮した様子で、ふたりに尋ねた。
「セーヤさんも!能力者……!?」
「そう。瞬間移動、空間移動のスペシャリスト。私より若いけど、かなり腕が立つ。」
「セーヤさんは強いぞ〜。それに、上ではモテモテだった。」
「へえ……!確かに、モテそうだったなぁ。」
"能力者に会ってみたい"
それはいつか、梨人がふたりに言っていたこと──。
この短い期間で、梨人は三ニン目の能力者とのマッチングに成功してしまった。
「……大福、せっかくならセーヤさんに渡せばよかった。」
梨人は、畳の上に転がった個包装の大福を拾い集めた。
「今日はまた、急いでいたみたいだからね。仕方ないさ。」
猫好きAは、梨人から大福を受け取ると食べ始めた。
「次、いつ会えるかな。」
「……っ、すぐ会えるよ。セーヤさん、日本にいるから。」
蛇遣いは、大福を食べながら梨人を励ました。
セーヤの姿が偽装後だとは知らない梨人。
艶やかな紺色の髪と黒真珠のような瞳をした、あの姿が頭から離れなかった。




