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48 "序章"  -Just the Beginning-

「ただいま〜。」


雨の中、思う存分はしゃいだ梨人と、ふたりは待夜(マチヤ)家に帰宅した。


「おかえり──あれ、あまり濡れなかったのね。上出来、上出来。」


梨人たちの帰宅を待っていた玄恵はびしょ濡れで帰ってくるものだと、玄関先にタオルと替えの靴下を用意していたが……必要無かったようだ。


梨人たちは自分たちだけの知る秘密(コンタクトベール)に、顔を見合わせてニヤリと笑った。



リビングに入ると、ソファでは紘が眠っていた。


宿題をやりながら、疲れて寝落ちしたようだ。



「3人とも、冷えたでしょ。先にお風呂入っておいで。」


「はーい。」



カバンを下ろした梨人は、和室に向かおうとする猫好きAの服を掴んだ。



「ねえ。今日、もしかしてずっと岳陵にいた?」


「──どうしてそう思う?」


猫好きAは、いたずらっ子のような笑みを浮かべている。


「佐山結希、知ってるでしょ。僕に嫌がらせをしたそいつ、酷い目にあったんだ。」


「何ヤマの誰だか知らないけど、それは大変だったね。まあ、自業自得だとは思うけど。」


眉をあげてそっぽを向く、猫好きA。


「……とぼけないでよ。油性ペンが宙で踊るように動いたんだ。それで、佐山の顔に落書きしたんだ。」


「わあ、それは凄いね。見たかった。」


猫好きAは相変わらず、とぼけた表情を続けている。


「それだけじゃない。周りは、それを覚えていないんだ。変……だったんだよ。何もかも。」


真剣な梨人の顔が猫好きAに近づくと、彼のポーカーフェイスは徐々に崩れた。


「絶対、好とコルクがやったんだって。僕、確信したんだ。あんなことができるのは、ふたりしかいない。」


必死に話す梨人に、猫好きAは我慢しきれず豪快に笑った。


「ハッハハハハハ!はぁ。そうだよ、やったのは私たちだよ。」


「………!!やっぱり!!」


もう!と梨人は少し、むくれた。


「でも、すっきりしたでしょ?」


「そ、それは……まあ……。」


梨人が少し高い位置にある猫好きAの顔を上目に見ると、彼はまるで兄かのように優しく笑っていた。


「部屋の前で何してんだよ。早く、風呂入ろうぜ。」


玄恵に、「美味かったです!」と空のお弁当箱を渡した蛇遣いが、後ろからやってきた。


「あ〜!コルクも。今日の、びっくりしたんだからね!!」


「あ〜。アイツら、今日静かだったろ。頭がボーっとして、仕方なかったと思う。」


「うん、そうなんだよ。平和だったよ。いつもあれくらい静かならいいのに。」



静けさを望む梨人を目の前に、蛇遣いは都合悪そうに頭をポリポリと掻いた。



「ハハ……でも、俺の力は掛けすぎると下手したら植物人間になるからな。危ないんだよ。できれば、二度目はやりたくない。」


今日、彼が梨人のクラスメイトに使った『スリープ』は、待夜家や、コンビニの店員にかけたものとは段違いの術。

脳の一部を静止させることから、回数使えばそれだけ、その脳の性能は落ちていくのだ。



「そうか……確かにそれは、コルクも怖いよね。」


微妙にしんみりとした空気に、猫好きAは言葉を添えた。


「ね。マスターってこう、優しいからさ。過激なことはできないタチなんだよね。私はそこが好きなんだけど。」


「ボス……。」


猫好きAは梨人の手前、表現をオブラートに包んだが、蛇遣いは制裁業に向いていないニンゲンだった。


蛇遣いの欠点、それは──ヒトを殺せないこと。


ヒトに限らず、人も、生き物も同様である。


精神を司る記憶の力、そして酩酊輪の力を手にしても、「誰かを傷つけたくない」という蛇遣いの本質が変わることはなかった。



(コルクはやっぱり、優しいんだな。)


最初から、蛇遣いには馴染みやすさを感じていた梨人。紘が異常に懐いたのも、納得だった。



「ちょっと、いつまで喋ってるのーー?早く、お風呂入っちゃいなさーい!」


廊下に、玄恵の声が響く。


「はーい!今!入るよ!!」


勢い任せに返事をした梨人は、和室に入ろうとするふたりに一言、言葉をかけた。


「あの、さ。今日──ありがとう。嬉しかった。」


照れながらお礼を言った梨人は、ふたりのリアクションを待つことなく、そのまま階段を駆け上がっていった。


「……フフ、どういたしまして。」


「ハハッ、照れてやがんの。」


猫好きAと蛇遣いは、梨人の可愛さに顔を見合わせて微笑んだ。


梨人の心が救われた──その事実だけで、ふたりは今日の制裁を誇ることができた。


しかし、この制裁はたった一人の女子生徒に対した小さなもので、ただの"序章"に過ぎない。


彼らの言う制裁それはきっと、想像以上。


こんなものでは済まないスリリングな日々はもう、すぐそこまで迫っていた。


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