36 コンビニってなんだ……? -What's that?-
「あ、これもいいじゃな〜い!似合う、似合う!」
猫好きAと蛇遣いは、リビングにて玄恵のファッションドールと化していた。
虚しくも読みが当たってしまった猫好きA。
そんな彼だが、やるからには楽しみたいタイプ。
苦笑いで突っ立っている蛇遣いとは真逆に、自らポーズをとって見せた。
「お〜〜。いいねえ。」
関係のない梨人は楽しそうにふたりのファッションショーを堪能していた。
────夕方。
美雪と梨人に手伝ってもらいながら、紘はようやく和室の片付けを終えた。
初日の居候ミッションを無事に終えたふたりは、リビングでテレビを見ている。
「ボス、この人たちアイドルなんだってよ。一番右の子、可愛くない?」
「皆、同じにしか見えない。」
温かい紅茶を啜りながら、くつろぐふたりの元に紘が走ってきた。
「にーちゃん、にーさま!ちょっと来て!」
紘に手を引かれて、ふたりは和室の前に誘導された。
「今日からここが、ふたりの部屋です!!」
和室のドアには「コウとコルクのへや」と、ふたりの似顔絵付きの張り紙が。
「おや、すごいじゃないか。これは紘が描いたのかい?」
「そうだよ!お部屋は、にぃにとパパがやったんだよ!」
そう言うと、紘はドアを開けた。
「ようこそ〜〜〜〜!」
中には梨人と、美雪が居た。
「え!なんだこれ!?」
部屋の中を見渡した蛇遣いが声を上げた。
和室には、ふたりの布団だけでなく足の低い机とクッション、パイプでできたハンガーラックに、ちょっとした棚まで設置されていた。
「簡易的だけど、部屋らしくはなったろう?」
本来なら来客用にと在る、この和室。
今まで殺風景のまま放置されていたのが不思議なくらいだが、それもそのはず。
少し前にパンデミックを経験した日本には、訪問を控える動きが広まりつつあったのだ。
空に浮く上空都市にも、パンデミックの被害はあったのだろうか──。
人間界と、上空・中空エリア。情勢は違えど、各々問題を抱えているのは、確かだった。
今の日本は、完全な収束は見られずともパンデミックの勢いは落ち着きつつあった。
ふたりの堕界は不幸な事故であっても、時期で言えば不幸中の幸いだったのかもしれない。
美雪が、足元に置かれた小さいボックスをペチペチと叩く。
「ここに、小さい冷蔵庫もある。好きに使っていいからな。」
「えー!!すごい、こんなものまで!!ありがとう、美雪さん!」
蛇遣いはテンションが上がっていた。
「で、これなんだけど……。」
梨人が、側に置かれた腹筋マシーンとフィットネスバイクを指差した。
「場所がなくて。ここに置いておいてもいいかな?もちろん、好きに使っていいよ。」
「本当かい?私たちは毎日、身体を動かさないといられなくてね。ありがたく使わせてもらうよ。」
(やっぱり、毎日運動しているんだ──じゃなきゃ、あんなに腹筋割れないもんな。)
ふたりを着替えさせた時に、ばっちりと身体を見た梨人。
あの身体はやはり努力の賜物だったのだと、勝手に独り納得していた。
────梨人と、ふたり。和室にて。
蛇遣いは早速、用意してくれたハンガーラックに自分のベストを掛けている。
「畳、久々かもしれない。」
「そうなの?」
「うん。懐かしいな……。」
桜舟に長らく住んでいた猫好きA。
桜舟国は名前の通り、日本式の和を基調としたつくりなのかもしれない。
彼は優しく、畳の床を撫でた。
「なあ、ボス。冷蔵庫には何を入れようか?」
蛇遣いはしゃがみ込み、まだ何も入っていない冷蔵庫のスペースに手を突っ込んでいる。
「何か、買いに行くかい?」
運良くキャッシュカードを持っていた猫好きAは、余裕そのもの。
ひとまず、人間界でお金に困ることは無さそうだ。
「ほら、好はATMに用があるんでしょ?あとでノーソン行くついでに、何か買ったらいいんじゃない?」
「そうだね、下ろした金で何か買おう。」
蛇遣いは何やら、ソワソワとしている。
「ここって人間界で"日本"なんだよな?どんなものが売ってるんだろうな。」
「また、上とは違うんだろうね。楽しみだ。」
「そうは言っても、ただのノーソンだよ……??」
「そのノーソンっていうのは、食品館だろう?」
「いや、食品もあるけど。コンビニだよ。」
「コンビニってなんだ……?」
蛇遣いは、目をまあるくしている。
「え?コンビニエンスストアだよ、知らない?」
梨人の言葉に、考えた猫好きAは静かに首を傾げた。
「…………聞いたこともないね。」
────ここへ来て、衝撃の事実が発覚。
上空・巡影帝国に"コンビニ"は存在していなかった。




