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33 にぃに・にーちゃん・にーさま -Brother, Mister, Sir-

ディロンロロン、ディロンロロン────


耳元では、聞き慣れたアラーム音。


「う〜〜〜〜ん………暑い………」


なんだろう……妙に暑い。いつも以上に暖があるような──



手探りでスマホのアラームを解除し、薄らと目を開けた梨人。


ん──?横に何か───


顔を横に向け、目を細めるとぼんやりとヒトのようなものが見えた。


「おはよう。」


「………!?」


すぐ真横には、黄色い瞳を光らせた猫好きAが寝転んでいた。

見た目に寄らず、平熱は高い方であるこの男。

毛布の中は暖かいを通り過ぎ、汗ばむくらいの温度になっていた。


すぐさま、枕元から眼鏡を取って掛けると

梨人は飛び起きた。


「なんで…!こっちの布団に入ってるんだよ!!」


「いやあ、寒そうだったからさ。そんなに驚くとは。」


「僕一人で間に合ってるよ!!もうびっくりしたな……やめてよね。」


梨人の布団の上で微笑んでいる猫好きA。


これは決して、夜這いの証拠でもBL(ボーイズラブ)展開でもない。


梨人の記憶を覗いてからというもの、猫好きAは梨人のことを分かってやりたいという気持ちに駆られていた。


自分の過去によく似た環境で毎日を頑張って生きている梨人がいつか、報われますように──


そんなことを思いながら彼は一晩中、まだ少し幼い梨人の寝顔を側で見ていたのだ。


「そうだ、梨人。そろそろ彼も起こしてやってよ。」


猫好きAの視線の先には、褐色の胸板が転がっていた。

傍には、Tシャツが脱ぎ捨てられている。


「脱ぎたいのは分かるけどさ……さすがに今の時期は冷えちゃうよ。」


「マスター、じゃなかった。コルクは一年中こうだよ。もう、習慣のようなものだから。」


「へえ、丈夫なんだな……。」


梨人は蛇遣いの堅い胸板を揺さぶった。


「コルク、朝だよ!起きて!!」


梨人が何回も声を掛けるが、一向に起きる気配はない。


「ねえ、寝起きって悪い方なの?」


「いや、昨日──ああ、まだ疲れが残っているのかもしれないね。」


(全快する前に、力を使わせてしまった影響だな。)


猫好きAは布団に寝転んだまま、長い足を組むと梨人の机の方へと手をかざした。


「ちょいと、借りるよ。」


次の瞬間、机の上に置いてあったボックスティッシュが宙を飛び、パコンと音を立てて蛇遣いのおでこに命中した。


──起きる気配はない。


「……起きないね。」


「これなら、どうだ。」


次に、猫好きAが蛇遣いの方へ両手をかざすと蛇遣いの身体が宙に浮き、腹に掛けてあった毛布がずり落ちた。


「うわ、コルクが浮いた…!」


「まだまだ。」


猫好きAは浮かせた蛇遣いを回し始めた。


「──目ぇ、回っちゃうんじゃない?寝起きに酔うのはちょっと……。」


「このくらい、なんてことないよ。彼は強いから。」


グルグルと回し続けられる状態でもなお、金色の睫毛を伏せて眠る蛇遣い。強いと言われるだけの三半規管を持っているようだ。


「……回しているのが馬鹿らしくなってきた。」


猫好きAは二本、指を立てると蛇遣いを逆さまにして宙に静止させた。


「ねぼすけは吊るして起こせ、ってね。」


「そういう話でもあるの?」


「──ないよ?」


「ないの?」


トッタトッタトッタトッタ──


廊下から軽快な足音が聞こえてくる。


(妹ちゃんか。)


猫好きAは急いで手をパッと開くと、逆さまになっていた蛇遣いは頭から布団に落下した。


「いってえ……!!」


蛇遣いは頭を抱えながら身体を起こした。


(わけ)のわかっていない彼はすっとぼけた表情をしている。


──ガチャン!


部屋のドアが勢いよく開けられた。


「ぐっもーにーん!!」


寝癖をつけたパジャマ姿の少女が入ってくるなり目の前の蛇遣いの膝にダイブした。


「にーちゃん、おはよう。よく寝た?」


「ああ……おはよう。お前、朝から元気だなぁ。」


目覚めの悪かった彼のテンションはいつに増して低め。猫好きAのいたずらが(こた)えているようだ。



つまらなかったのか、紘は梨人と猫好きAの方を見る。


「ん??」


猫好きAはなんとなくダイブしてくるものだと思って、腕を広げた。


「……おはよう。」


小声で挨拶をする、紘。


なぜか、猫好きAには人見知りを発動している様子。

蛇遣いの側にぴったりと付いている。


「私じゃ、嫌かい?困ったね、寒くて寒くて冷え切ってしまいそうだ。誰か〜人間カイロになってくれる方〜〜いませんか〜〜。」


演技がかった物言いで、両手を広げて待っている。


「……しょうがないなぁ、ひいが、カイロになってあげる。」


布団の上、あぐらで手を広げた猫好きAの膝にすっぽりと収まった。


「こんなに可愛い妹も、家族も、それに私たちだっているんだ。独りじゃないよ、君は。」


紘の頭を、細い指で撫でる。


「うん。これから毎日、賑やかになりそうだね。」


猫好きAの真意を知らない梨人は、まだぼーっとしている蛇遣いを見ながら笑っている。


「君、えらく寝癖をつけているね。」


膝の上の、紘に話しかける。


「君じゃないよ、紘だよ。」


「ああ、失礼。紘だったね。」 


猫好きAは紘の髪を手で()いている。


「にーさまは……朝から綺麗だね。」


「綺麗だなんて。手櫛を通しただけ、寝起きのおじさんだよ。」


紘の緊張は、格好良さよりも綺麗さを感じてのことだったようだ。


「にーちゃんに、にーさまか。紘、一気に兄が二人もできたな。」


紘は梨人の方を振り向いた。


「うん、にぃに、にーちゃん、にーさま。三人カッコいい、ひいのお兄さん。」


「おや、全員?この男はダメだよ、リトルレディの前で裸なんて。はしたない。」


猫好きAは上裸で座り込んでいる目の前の蛇遣いを指さす。


「今から着るんだよ!!ったく、どっかのいたずら猫のせいで……。」


「いたずら猫で悪かったね、ねぼすけさん。」


状況を理解した蛇遣いは、不機嫌そのもの。

きっと、これまでも同じような起こされ方をしてきたのだろう。


側に放り出されたTシャツを拾うと、ブツブツと文句をいいながら袖を通した。


ふたりのくだらない掛け合いに、梨人は笑みを溢している。


しかし、この笑みの真髄(しんずい)はこのふたりではなく、紘にあった。


"にぃに、カッコいい"


そう言ってくれるだけで、梨人は朝から幸せな気分だった。





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