31 影響力 -Power of Shadow-
猫好きAの猫耳を堪能した梨人は、ジュースを片手にデスクチェアへ腰かけた。
「でも、ホント良かったよね……ふたりが無事で。空の上からなんて、マキシの助けがあったとしても普通の人間じゃまず助からないよ。」
蛇遣いは「はて?」と首を傾げた。
「俺たちも、ニンゲンのはずだけど……?」
分かっていない蛇遣いに、猫好きAが説明に入った。
「上のニンゲンと、下の人間ではまた違うものなんだよ。梨人たち人間は、影響力を持つことができない体質。」
今度は梨人が首を傾げる。
「影響力って……?」
──説明しよう。
『影響力』とは、巡影帝国が発祥の地とされる"ニンゲン"の活力。
上空では、この影響力の操作が可能なニンゲンが能力者と定義されている。
影響力の応用として知られているのが『動物モデル』。
猫好きAが所有している『猫のモデル』は遺伝性であり、猫好きAの影響力には元より猫の要素が組み込まれているということになる。
また「リヒター」として天空睡郷から指名されるには、この影響力を具現させた状態で十分に使用できるかどうか、それに加えて力に見合うニンゲン性を持っていることが必要な条件になっている。
リヒターである猫好きAと蛇遣いは、"ニンゲン"の中でも「能力者」に位置付けられる存在、ということであり影響力を持たない"人間"の梨人とは別種であることが分かる。
「影響力はね、上空のニンゲンが持つ活力。人間界では確認できない力だよ。あ、でも人間界に潜伏している能力者なら使えるね。今の私たちみたいに。」
そう言いながら、猫好きAは飲み終わった紙パックを片手の上でフワフワと浮かせた。
「知らないだけで自分の周りに能力者がいたらと思うと……」
「それは、恐ろしいと思うよ。君たち人間を非力と言っているわけじゃないけど、この小さなマキシでも兵器並みの力を持っているからね。能力者にスケールからして違う力を行使された時には──たまったもんじゃない。」
猫好きAに自分の名前を呼ばれたマキシは床に腹をつけて姿勢を低くした。
「……我は怖くないゾ、少年。」
彼なりに、敵意はないと表現していたようだ。
「怖いだなんて思ってないよ。それに、僕が言いたかったのはね、」
梨人は席を立ち、マキシの細長い胴体を撫でた。
「能力者に会ってみたいなってこと。もう、ふたり見つけてるんだけどね。」
(この子は……思ったより強いのかもしれない。)
猫好きAは出しっぱなしの猫耳をピクリと動かした。
「──俺、梨人は正直ビビってるんじゃないかって思ってた。」
蛇遣いは、梨人が平然を装っているのではないかと心配していたようだ。
「え?そりゃ、最初はビビったよ。でも、なんだろうな…今は、もっと知りたいっていうか。
それに、ふたりはこうして話しているだけでも悪いヒトじゃないんだろうなって。」
「梨人……。」
蛇遣いは、内心ジーンとキていた。
自分たちを受け入れてくれる優しさだけでなく「知りたい」とまで思ってくれていたとは──。
「………ダメだね。簡単に他ニンを信用するなって、教わらなかったかなぁ。」
そう呟く猫好きAだが、彼の口元は隠しきれないほどにゆるりと綻んでいた。
天空睡郷には、誰がいるんだろう──。




