表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/64

29 脱線 -Digression-

食後に梨人の部屋に集まった、猫好きAと蛇遣い。


家族の記憶を無断で操作してしまった彼は、項垂(うなだ)れていた。


「……なんであんなことを?」


「いや……違うんだ。その……。」


「何も、違わないでしょ。ちゃんと説明してあげなよ。」


「あ、ああ……。」


猫好きAに促された蛇遣いは顔を上げ、梨人に向き合った。



「まずは、家族に手を掛けてしまって悪かった。少し、訳のある国なんだ俺らの国は。それに、お前以外は上空の存在を知らない。だからあの時、咄嗟に話を逸らさないとって身体が動いちまったんだ。」


蛇遣いの隣で腕を組んでいた猫好きAも、口を開く。


「上空は今、はっきり言って情勢が良くなくてね。それに、私たちの国は過去に大きな災いを経験している。

もう二度と、国が危険に晒されないように守り合うことで今は成り立っているようなものだね。

こういう訳だから、本来ならば少しの油断も許されないと私は思うんだけど……彼が君に、口を滑らせてしまったから。」


「……それも俺が悪かった。マキシから始まったことなんだ、許してくれよボス……。」


「許すも何も、済んでしまったことは仕方ないよ。それに、偶然が偶然を呼んで今に至るわけだから。

それだって偶然のうちってことで、私は流すつもりだよ。梨人も誰かに話したりはしなさそうだし。」


黙ってふたりの話を聞いていた梨人が話し出した。


「理由は分かった。でも──僕が一番、聞きたいことが聞けていないんだけど。」


今までの話に、梨人は満足していなかった。


「聞きたいこと……?」


(これ以上、国について聞かれてもな……。)


困り顔の蛇遣いに、梨人は近づいた。



「あの" イ ン プ ッ ト "って何!?何をどうしたの!?前に言ってた魔法みたいなものなの?!」


控えめな態度の蛇遣いに、食い気味の梨人。


「え……?あ、俺の術についてか?」


「うん、そう。どうやったの??」


蛇遣いの隣ではクククと猫好きAが笑っていた。


「梨人は、好奇心旺盛なタイプだね。」


蛇遣いは、猫好きAの背中にさりげなく手を回した。


(なあボス、俺はどう答えるべき?リヒターは伏せるべきだよな……?)


(──力の開示は、大丈夫だよ。私は超能力で通してある。リヒターと気づかれなければいい。)


蛇遣いは自身の力を使って猫好きAと記憶を共有し、意思疎通を測っていた。


「ねえ、どうしたの?」


梨人は黙り込んだふたりの様子を気にしている。


「いや、ボス背中痛そうだなーって。」


堕界の影響で背中を痛めているのは事実だった。


「それで、俺の力についてだよな?」


蛇遣いは景色を手の中に収めるように、梨人に向けて囲い(フレーム)を作り、片目を瞑った。


『 ス キ ャ ン 』


そう唱えると、蛇遣いはペラペラと話し始めた。


「岳陵第一高校2年3組、出席番号30。妹大好き、いいことだ。席は教室の窓際、一番後ろの位置。得意科目は国語と美術ってところか。最近は──は?なんだこれ……。」


梨人の脳内を覗くもう片方の瞳が、ブレ始めていた。


「どうしたんだい?」


動揺する蛇遣いに、猫好きAが声をかける。


梨人も不思議そうな顔をしている。


「──いや、何でもない。」


蛇遣いは疲れた表情で、囲い手(フレーム)を解除した。


この時、蛇遣いの脳内には膨大な量の梨人の記憶が流れこんでいた。


動揺した理由、それは日常に紛れ込んだ異様な光景。


蛇遣いが覗いた梨人は、本を破かれ、罵声を浴びせられ、頭を踏みつけられていた。


ここで、口に出す訳にはいかない──。


ドッと自分の中に押し寄せる苦しい感情を堪え、蛇遣いは梨人に笑顔を見せた。


「お前今、食いたいパフェとラーメンがあるのか〜。いいな、俺と食いに行こう。」


異様な光景に挟まれた、些細な情報。


パフェは最近見たミニスポットの、ラーメンは恐らく青二才のものだろう。


「え!僕の頭の中を??」


「そ、これが俺の能力。相手の記憶にお邪魔しちゃう系。さっき三人に施したのはインプットっていって、まあ一時的な上書きみたいなもの。脳に支障は出ない範囲の術だから、心配する必要はない。」


「へえ、すごい。コルクの居るところでは下手なこと考えない方がいいね。」


「そうだぞ。エロティックな記憶だってお見通しだからな。」


「エロティックって……!僕を何だと思ってるの!」


こう言う梨人だが、文芸と称して官能小説に少し触れたことはあった。


しかし、官能小説を蛇遣いの言うエロティックとは認識していないようだ。


──活字媒体でも、エロはエロに違いない。


「何を恥ずかしがってる?男なら、どうってことないだろ。」


「どうってことある!大ありだよ!」


「まあ、落ち着けって。そんなしょっちゅう覗く訳ないだろ。」


ふたりの話が脱線する中、猫好きAは独り考え込んでいた。


(微かだが、瞳に動揺が現れていた。マスターは一体何を見たっていうんだ。)


何か、彼にも秘密があるのか──?


見極めるためには、相手を知るところから始めなければ。


猫好きAは蛇遣いに詳細を聞くことにした。



「なあ、梨人って大人の宝物とか興味ないの?俺はジャンル問わず……」


「何言ってんるんだよ、もう!!」


傍らでは脱線し続ける成人男性と、それに惑わされる高校生が論争を繰り広げていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ