18 お着替え -Swap out-
──あの後。
待夜家に着くや否や、二人は大忙しだった。
まだ目を覚さない大きな男ふたりの靴を脱がせ、車から一階のリビングに運び込む。
既に、玄恵と紘は寝静まる時間帯。
美雪と梨人は、足を忍ばせ静かに階段を登り降りしながら必要なものを用意した。
梨人は寝室近くのクローゼットから、来客用の布団一式をニ組。
美雪は、自分の服の中でふたりが着れそうなものを見繕った。
服に関しては梨人の方が数を持っていたが、どう見てもサイズが合わないため、ふたりに体格の近い美雪が服を貸すという結論に至った。
「ういしょ……っ」
二階から布団セットを抱えてきた梨人は一階に着くなり、行儀悪く足で来客用の和室のドアを開けた。
両手が塞がっているのだ、致し方ない。
肘でスイッチを押し、電気をつけた梨人は唖然とした。
和室には、紘の玩具や本が大量に散乱していた。
ここを基地代わりにでもしていたのだろうか。
おまけに、和室の隅には「家族の健康のため」と美雪が買うも、使わなくなった腹筋マシーンとフィットネスバイクが放置されていた。
(これじゃ、使えないじゃん……。)
来客用のためにある和室を梨人が開けることはほとんどなかったが、まさかこのような状態になっているとは思いもよらなかった。
今は片付けている暇もなし、散らかした主犯に片付けさせるのが"道理"というもの。
「ったく、散らかし大魔王め。絶対に片付けさせてやる。」
そう言いながらも、梨人は自分の妹が可愛くて仕方がなかった。
きっと、片付けも手伝ってやるのだろう。
梨人は和室の電気を消すと、布団をリビングへと運んだ。
床には、ひとりが仰向け、もうひとりが横向きに転がっている。
梨人はソファと机をずらし確保したスペースにニ組の布団を敷き、そこにズルズルとふたりを移動させた。
「おんもい……!なんでこんなに重いんだよ……!」
梨人はキレ気味に金髪の彼を布団へと運ぶ。
ずっしりとした重さが、梨人の細い腕にのしかかる。
痩せて見えるスーツの彼でさえ、梨人には重く感じた。
(何食ったら、中身がこんなに詰まるんだ……?)
梨人は自分と、目の前のガッチリとした男性の身体がどうしてこうも違うのか、疑問に思った。
──答えは簡単。食べる量と、筋肉量の違いである。
どうにかふたりを運び終えたところで、二階からは美雪が静かに降りてきた。
「服、とりあえずこれでいいよな?」
美雪は紺色キーネックの長袖Tシャツと、白色ラウンドネックの長袖Tシャツを広げて見せた。
白い方のTシャツには「NAZE-OREGA」と、ロゴがプリントされていた。
「うん。着れれば問題ないよ。」
布団に横たわるふたりを抱き起こし、二人がかりで着替えさせていく。
まずは、黒髪スーツの彼。
いかにも高そうなスーツのジャケットと真っ白なワイシャツを脱がせ、首飾りを外す。
首飾りの真ん中に嵌められた楕円の石の中には、「A」という文字が刻まれていた。
全て衣服を取り除くと、中からは透き通る程に真っ白な肌が現れた。
それに上裸の彼は、スポーツ選手のような引き締まった体型をしていた。
「す、すごいな……。」
「うん……。」
ヒト様の肌だ、あまりまじまじと見て良いものではないと二人は素早く、彼を紺色の服に着替えさせた。
お次は、金髪の彼。
金色のラインが縁に走った高級感のあるベストを脱がし、シャツに手をかける。
手触りもなめらかで、きっと着心地が良いものだ。
梨人がシャツのボタンを全て外すと、健康的な褐色の胸板が目に飛び込んできた。
「こっちの兄ちゃんも……すごい身体つきだな?」
なかなかお目にかかれない肉体美を前に二人は目を奪われた。これは、同性でも目を引く仕上がりだ。
「なにか、身体を使う仕事の人かもよ……?」
なんだかいけないことをしている気持ちになりながらも、梨人は手を動かしていく。
彼の左手を抜き、続いて右手も服から抜こうとした──しかし。
服を脱がそうとするも、右腕に嵌めてある腕輪が邪魔をする。
「これ、どうやって外すのかな。」
「下に、下げればいいんじゃないか?」
そう言って美雪が外そうとするも、腕輪はビクともしない。
「……しょうがない。」
服を着せたくても、厚みのある腕輪が邪魔をする。
梨人は、金髪の彼の着替えを諦めた。
筋肉質な彼の右腕には、腕輪の直前まではだけさせられたシャツが残っていた。
下のスラックスとズボンはそのままに、上だけ楽な服へと着替えさせられた彼と、追い剥ぎ状態の彼。
(とりあえず、こんなもんで良いよね。)
梨人は、出番を失った白いロゴTシャツをソファの端にかけた。
目が覚めたら、自分で着替えさせよう。
「いや〜すごいな、どうなっているんだ?」
リビングから少し離れた食卓の椅子に腰掛ける美雪は、黒髪の彼から脱がせたジャケットを360度、物珍しそうに見ていた。
何も知らないふたりは締め付けから解放されたからか、先より穏やかな表情をしている。
狭めのスペースで仲良く並んで眠る男たちに、梨人は布団を優しく掛けた。
「おやすみ。」
リビングの照明を落とすと、梨人はキッチンへと向かった──。
ふたりとも、ムッキムキなんですって。




