2話
今回はかなり自信がある。
10年ぶりに降り立った駅は、どこか背が伸びていた。
バス停の位置や建物の色、この街を慣れ親しんだ人じゃないととわからないぐらいの変化だ。
でも空気はあの時と変わっていなかった。
あの頃と同じ、春の匂い。まだ少しだけ冷たい。
それだけで今まで心の奥にしまい込んでいた彼女との思い出が不意に浮かび上がっていく。
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「誠って、本当に真面目。」
「僕より真面目な人はいっぱいいるよ。」
「誠のこと褒めてんのに。つまんない。」
「じゃあ、他のことで褒めてよ。」
「ん……顔が少し良くなったんじゃない。」
「それ褒めてるの?」
「知らない。私は結構好きだけど。」
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あの時、何でこんなに笑っていたんだろう。
毎日がただの『日常』で、これからもずっと続いていくと思っていた。
瑞希は、クラスの中心ではなかった。
でも誰よりも笑っていて、誰よりも気遣いができる人だった。
そして、その場にいるだけで空気が柔らかくなる。
そんな人だった。
(何であのとき、僕は…)
もっと話しておけば。
もっと伝えておけば。
もっとーー
後悔が僕を飲み込んでいく。
駅前の広場にあるベンチに腰を落とし、ポケットの中から手紙を取り出す。
『私は生きている。』
信じてもいいのだろうか?
僕はどう想えばいいのかわからなかった。
だけど言えることが一つだけある。
ここに戻ってきてよかったな。
瑞希がいた場所に戻って来れた。それだけで心がポカポカした。
遠くで子供の笑い声が聞こえる。
あの頃と同じ夕日。
「ここにきてよかったな。」
瑞希のいた場所に戻って来れただけで、僕にとって大きく前進できたと思う。
校門は空いていた。
卒業生がたまに立ち寄ることもあるのだろう。
だが10年の月日を経てこの場所に立つのは、どこか場違いのような感じがした。
グラウンドには野球部がノックを受けている。
部活をしている生徒たちの笑い声が、校舎から聞こえた。
(変わったんだな)
当たり前のことに、胸がきゅっと絞められた。
階段を上って、職員室前の廊下を歩く。
すると、懐かしい背中を見つけた。
少し猫背。ボサボサの髪型。
ゆっくりとプリントを運んでいる。その人ーー
「……駒田先生」
呼びかけた声に、先生はびくりと肩を振るわせた。
そして、ゆっくりと振り返る。
細い目を細めて、こちらをじっと見つめた後ーー
ほっとしたように、柔らかく笑った。
「………誠か。久しぶりだな。」
10年ぶりの再会。
それなのに、先生の声はあの頃と少しも変わっていなかった。
職員室前にある椅子に並んで腰を下ろすと、春の光が2人の間に静かに降り注いだ。
「ところで今日は……何の用だ?」
問いかける声も、どこか慎重だった。
多分、わかっているのだ。
誠がいったい何を求めてここにきたのかを。
誠は、少し息を整えてから、便箋を差し出した。
駒田先生は便箋を受け取り、静かに目を通す。
そして、長い沈黙のあと、口を開いた。
「……この筆跡は、間違いない。大橋のものだな。」
その一言に、真の心臓はドクンと跳ねた。
「でも……」
先生は目を伏せ、話を続けた。
「事故は、確かに『事故』として処理されたはずだ。あの日の、あのバスのーー」
言いかけて、言葉を飲み込んだ。
代わりに、鋭かった視線がさらに鋭くなる。
「誠。君は、どこまで‘”知っている”?」
完成度高くなりそう。




