表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見参!おにざくら  作者: eXciter
最終幕:胸に桜を、この手に君を
71/82

第七十一話

明けましておめでとうございます。

本年も「見参!おにざくら」をよろしくお願いいたします。

本日更新分より土曜日曜の週2話掲載、3月中旬ごろに1週間ほど毎日更新となります。


 初音は歯磨きのために洗面所に立った。

茶太郎とコロ左衛門も、夜中にミルクを飲んだので、実と成子が歯を磨いてやった。

心が落ち着いた初音は再び布団に潜り込む。

その頭を実が優しく撫でた。


 「眠れそうか?」

 「うん、大丈夫そう」

 「良かったわ。それじゃあお休み初音。

  茶太郎とコロちゃんも、お休みなさい」


 成子が初音、茶太郎とコロ左衛門と就寝の挨拶を交わす。

2匹も眠気を覚え、ベッドで寄り添ってうとうとしつつ、成子に答えた。


 「また何かあったらすぐ呼んでね、初音ちゃん。おやすみなさい」

 「お休み、初音」

 「お休みなさい」


 きのめ、実、成子の順に今から居間から出る。

成子が照明のスイッチを切り変えると、再び薄暗い闇が居間を包んだ。

初音は布団から顔を出し、もう一度さくらの横顔を見つめる。

さくらはここにいる。隣でまだ眠っている。消えてなくなりはしない。

初音は自らに言い聞かせた――そうしないと眠れそうもない。


 初音の様子を心配した茶太郎が、布団の中に潜り込んできた。

初音にしがみつき、目を合わせる茶太郎。大丈夫だよと、視線で優しく言い聞かせる。

茶太郎もまた、先日は魔妖夷に命を奪われかけた身でありながら、気丈に初音を支えてくれる。


 「わふっ」

 「…うん。大丈夫だよね」

 「わふ!」

 「ありがと、茶太郎」


 初音はそっと茶太郎を抱き寄せ、柔らかな毛並みに顔をうずめて目を閉じる。

先刻の夢の恐怖は瞬く間に消え失せ、初音は眠りに就いた。



 夜が明けた。この日は日曜日。スクナの復活から4日が経って、なお雨はやまない。

地域住民への対応は必要ということで、今日も実は仕事があるが、何か遭った時に家族と共に避難できるようにと、この日は在宅で業務を行うことになった。

そして初音自身、成子ときのめも、避難が必要となれば迅速に行動しなくてはいけない。

もしさくらが目覚めなければ、体力がある実が背負っていくこととなる。


 幸い、花咲家の周辺は危険な状況になってはおらず、さくらの看病も順調にできている。

初音が朝食後の薬湯を用意し、実がさくらの体を起こしてやった。

と、そこに呼び鈴が鳴った。

迎えに出たきのめの「あらまあ、いらっしゃい」という声が聞こえた。


 「朝も早うに失礼いたす。さくらの様子を見に参った」


 玄関から聞こえてきたのは、さくらの父、巌十郎(がんじゅうろう)の声だった。


 「どうぞどうぞ、上がってください。さくらちゃんも喜ぶ筈ですから」

 「では、お言葉に甘えまして。お邪魔いたします」


 きのめにつづいて迎えた成子、そして巌十郎の妻イトの声も聞こえた。

屋外からは夫妻が駆る妖怪、龍馬(りゅうば)である辰丸(たつまる)の唸りも聞こえる。

夫妻が居間に顔を出し、辰丸が庭に回り込んできた。


 「おはようございます」

 「巌十郎さんにイトさん。おはようございます」

 「うむ、おはよう初音殿、実殿。さくらの様子は?」

 「バルル…」


 巌十郎が抱えていたイトを下ろし、2人で並んでさくらの横に座る。

さくらは未だ目が覚めぬままだが、それでもだいぶ肌や髪に艶が戻っていた。

眠っているだけと言えば通じてしまいそうなほどだ。


 「だいぶ良くなりました。…まだ、目は覚めませんけど」

 「フニ~」


 未だ心配そうにのぞき込むコロ左衛門の頭を、イトのたおやかな手が優しく撫でる。


 「…待ちましょう、コロ左衛門」

 「フニ~」


 イトの言葉にコロ左衛門は答えない。やはり長年の相棒が倒れたままとなれば、不安ではあろう。

成子がやってきてさくらの体を起こすと、薬湯を満たした吸飲みを初音がさくらの唇に沿える。

容器を傾け薬湯を注ぐ。こぼれた一滴を初音の指が拭った。

指が柔らかな唇に触れる。胸が高鳴るより、まださくらの意識が戻らぬことに、初音は落ち込んだ…

が。


 ぴくり、とさくらの唇が小さく動いた。

目で見てわかるほどの大きな動きはない。

しかし触れた指先で、初音は真っ先にその動きを感じた。

目を見開いた初音の様子に、周囲の者達が気づく。


 「初音ちゃん?」


 きのめが問うも、初音は答えなかった――答えられなかった。

直後、さくらの閉ざされたまぶたに動きがあった。長いまつげが震えている。

う、とさくらの唇から小さな呻き声が漏れた。

ここで全員が気づいた。さくらが目覚めつつある。

数日間閉ざされていたさくらのまぶたが、ゆっくりと開いた。


 「さくらちゃん」


 さくらの手を取り、小さな声で初音は呼びかける。握った手が僅かに動いた。


 「さくらちゃん、わかる…? 私、初音だよ」

 「ぁ…… ぅ……     

     ――  はつ…ね……?」


 何度か瞬きをすると、初音の声に答えたさくらの瞼が開いた。

まだ茫洋とした眼差しではあるが、桜色の瞳は確かに初音を見つめていた。

安堵の表情で微笑むさくらと目が合うと、初音の目が潤み、涙が一筋こぼれた。


 「さくら、ちゃ――」

 「はつね…はつね………はつね…」


 身を乗り出し、抱き着こうとする初音。が、それより先にさくらの腕が、初音を抱き寄せた。

初音は突然のことに混乱する…が、さくらのぬくもりを感じた途端、それも忘れた。

涙を流しながら、初音もさくらの細い体を抱きしめる。

強き力を(ふる)って魔妖夷と闘うさくらの、力を籠めれば折れてしまいそうなほどのか細さに、初音の胸が詰まる。

こんなにも小さな体で、彼女は闘い続けてきたのだ――

さくらの体はたやすく初音の腕の中におさまった。


 「……初音。初音…良かった、怪我は無いな…

  …会いたかった、初音。会いたかったぞ」


 ――そして、数日ぶりに聞いたさくらの言葉は、初音を求める言葉だった。

たちまちのうちに初音の頬が赤く染まる。初めて聞くさくらの言葉。


 「さくら、ちゃん…」

 「初音……!」


 顔を上げたさくらと再び初音の目が合う。

さくらの瞳はまだ茫洋としている。それでも確かに目覚めたのである。

いつか初音の胸の中で咲いた花に、いま再び熱が宿る。

強く強く初音はさくらを求め、両腕で抱き寄せ、互いに見つめ合った。


 「やっと起きてくれた…さくらちゃん…さくらちゃんっ…!」

 「心配させてしもうたの、初音…すまぬ」


 さくらの言葉が明瞭になった。意識がはっきりと戻ったようだ。

額と額が、手と手が触れ合い、重なる。互いのぬくもり、鼓動、存在を全身で感じ合う2人。

初音は涙をぬぐうことも忘れ、さくらと見つめ合い、抱き合った。

その様子を初音とさくら、2人の家族が温かく見守っている。


 「フニ~」

 「わふっ!」


 そこにコロ左衛門と茶太郎が加わる。

2匹を抱え込み、もふもふと頬ずりするさくら。


 「お主らにも苦労をかけたな」

 「コロちゃんもずっと心配してたよ。それに、さくらちゃんのご両親も」

 「フニ~」

 「わふ~」

 「左様か、父上達も……    ちちうえ?」


 と、さくらは、ふと初音の背後を見た。

その目が大きく開かれ、顔がたちまちのうちに赤くなっていく。

さくらの表情の変化に気付いた初音も振り向き、ほぼ全く同じ顔になった。

人目もはばからず抱き合い、2人きりであるかのように言葉を交わしてしまっていたのである。

初音もさくらも、それぞれの家族に目撃されたのを、ここで初めて理解した。

そしてそんな光景を見て、大人たちはやたらと温かい表情で微笑んでいた。

庭にいる辰丸もマッタリ微笑んでいた。


 「ち、ち、ちちうえ! ははうえ! ああああの、これはっ」

 「ああああのあのごめんなさいさくらちゃんがせっかくお目覚めになられたのにごめんなさい!」

 「良い良い。2人とも、短い間に仲良うなったのだな」


 揃って慌てる初音とさくらを前に、鷹揚に笑う巌十郎とイト。

両親に撫でられ、さくらはさらに顔を赤くした。


 「お前がひと様に懐くとは、母としてとても嬉しゅうございますよ。ねえ巌十郎様。ぐすんずびび」

 「うむ。ずびび」

 「おやめくださいちちうえははうえごむたいな! ごむたいな!」

 「ヒヒ~ン」

 「おのれは変ないななき方をするでなぁい!」


 いつもと違う、しかし普通の馬とも異なる辰丸の生温かい(いなな)きに、思わず怒りの声を上げるさくらであった。

そんな光景を見て、花咲家の大人たちも笑っている。

もちろん、さくらと初音が2人の世界に浸った光景を全て見た上でのことだ。


 「良かったわね、初音ちゃん」

 「う、うん、良かったけど、良かったけどぉぉぉ」

 「何恥ずかしがってるの。いいじゃない、ねえ実さん?」

 「うん。何日も看病してたものな…! 本当によく頑張ったな、初音…!」

 「やめてーー!」


 きのめ、成子、実もまた、さくらが意識を取り戻したことに喜んでいる。

しかも純粋に、初音をからかうでもなく嬉しそうだ。

両家の父親など、「良き娘御を育てられたな」「いえいえそちらこそ」などと握手していた。

すっかり真っ赤になった娘二人が抗議するが、それも両家の母に撫でられて宥められるのであった。

明るいひとときに、花咲と鬼煌院の両家は、照れたり温かく笑ったり。

たった数日――さくらが倒れ、初音が落ち込んでいたのはたった数日だが、笑い合うのは久しぶりであった。




読んでいただきありがとうございます。

よろしければ評価、いいね、ブックマーク等お願いします。

ちなみに辰丸の「ヒヒ~ン」は実質「ヒヒ^~ン」です。

擬人化されたウマが尊いときにいなないちゃうアレ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ