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見参!おにざくら  作者: eXciter
最終幕:胸に桜を、この手に君を
69/80

第六十九話

前回の更新後、本作が日間ローファンタジーで初ランクイン!

読んでくださっている皆様、評価・ブクマしてくださった皆様、ありがとうございます! ありがとうございます! 感謝のハラキリ


 薬に伝わった初音の鬼力が、さくらの体に活力を注いでいるのだ。

さくらの褐色の肌に僅かに生気が戻り、顔色が良くなったように見えた。


 「……やっぱり」


 鬼力の『おすそ分け』が出来た。

自然に鬼力を使える。つまり、さらに鬼に近付いている。

改めて突き付けられた事実に、初音は神妙な顔になった。

だがその胸の内に、きのめがショックを受けたのとは裏腹に、意外な程不安は無かった。

昨夜のうちに自身が変わる事への恐怖は消え、代わりにあったのは、自分が変わっていくことへの無常感だった。


 「初音ちゃん…」

 「今は、さくらちゃんの方が大事…!」

 「わふ…」


 きのめの青ざめた顔を見上げつつ、己に言い聞かせるように、初音は告げた。

自分の決断はまだ後回しにしていて良いと。

隣に座る茶太郎が心配そうに初音を見た。

そして引き続き、薬湯を少しずつさくらに飲ませていく。

淡い輝きがさくらの体を包んで明滅し、昨夜と比べて僅かに安らいだ顔になる。

活力が少しずつ戻っているのだ。


 鬼力を籠めた薬には確かな効果がある。

飲ませ続ければ、確実にさくらの傷は癒えるだろう。

といって、眠ったままのさくらにむやみに飲ませては、誤嚥で呼吸ができなくなる。

早く治してやりたいと逸る気持ちを、初音はどうにか抑えた。


 朝の分の薬を飲ませ終えたところで、コロ左衛門がさくらの口元を拭い、きのめが布団の上に再び横たえてやる。

不安そうな2人の視線に答えることなく、初音は空になった吸飲みをちゃぶ台に置いた。

丁度そこで実と成子が朝食を持ってきた。


 「お薬飲ませてあげた?」


 ちゃぶ台に料理を並べつつ問う成子に、初音はできるだけの笑顔でうなずいた。


 「うん」

 「よし。それじゃあ僕たちもいただこうか」


 実が言うと、全員が席に着く。

――初音自身も、そして実も成子も、初音からさくらへと伝わった鬼力のことを言わなかった。

既に昨夜のうちに聞いていたことでもあるが、何よりも自分達の娘を見守りたいと、花咲夫妻は思っている。

故に敢えて何も言わない。

初音は鬼力をわずかながら持っている。そして、恐らくはさくらが無事に治るようにと祈りつつ、薬に花びらを溶いていた。

その想いが鬼力を薬へと伝えたのだろう。


 食事を終えると、実が町役場へ行き、成子ときのめが洗い物を始める。

そして初音は教科書とノートをちゃぶ台に並べた。

授業を直接受けられない代わり、級友たちが来るまでの間、予習と復習をするためだ。

休憩時間用に、愛読書の童話集も置く。


 「わふっ」


 初音に何かあった時のためにと茶太郎も隣に座る。

まだ雨が降っていること、そしてスクナが復活したこともあり、しばらく散歩は出来そうになかった。

一方、コロ左衛門はさくらの枕元で丸まっていた。

初音の勉強の邪魔にならぬよう、洗い物を終えたきのめは、少し離れた場所に座る。

成子がホットカフェオレを淹れ、マグカップを初音の前に置いた。


 「はいどうぞ。ちゃんと休憩も取るのよ」

 「うん、ありがと」


 カップをそっと両手で持ち、カフェオレを一口飲む初音。温かさと甘さに心が落ち着く。

丁度1時限目の時刻になったところで、初音は国語の教科書とノートを開いた。


 国土滅亡の危機を前にして、子供ができることは決して多くない。

例え渦中にいようと、今の初音自身にできるのは、普段通りの行動。

そしていざという時のために避難の準備を整え、心を落ち着けておくことくらいだ。

いずれ桜ヶ守神社に避難することになるだろうと、初音はリュックに衣類や防災グッズを詰め、居間に準備していた。

成子も同じく避難用リュックの中身を点検している。


 そして、国土の潰滅が迫っていることを知っているのは、初音とさくらの関係者くらいだ。

幸運なのは実が町役場の職員、寧々子の祖父が神社の関係者で、両者からの伝達で町の公式SNSに避難情報が掲載されていることだ。

昨夜からの大雨もあり、SNSの情報を見たのか、近所では避難を始めた家がいくつかあった。

既に一部の家では駐車していた自家用車が無く、人の気配も無くなっていた。

被害が拡大する前に、町内の避難場所か他の市町村に避難したのだろう。


 初音は一度手を止め、縁側から空を見上げた。

相変わらずどす黒い雲が広がり、時折赤い稲光がちらついている。


 おぞましい時が迫っている。

それに対して準備ができるのは、鬼たる巌十郎とイトのみ。そして闘えるのはさくらのみ――

魔妖夷討取(まよいうちとり)改方(あらためかた)を実質的に潰滅させた相手に、さくら1人だけ。


 さくら1人しか闘えない。さくらは強い…しかし、そのさくらでも勝てるか判らない。

初音は横目でさくらを見た。

さくらがスクナを討てば、さくらと別れなくてはいけない。

しかしさくらが勝てなければ――


 (…………)


 初音は改めて状況を頭の中で整理する。

スクナとの闘いの時が近い。すなわち、さくらとの別れの時も近い。

いずれの形でも、さくらとは別れなければならない…初音が現世にいるのなら。


 (……お母さんは、どんな結果になっても応援してくれる、って…でも…)


 初音はこの時初めて、己の願いの本質と向き合った。

さくらと共にいたい。それ自体は偽らざる初音の本心だ。

だが――ならば、どうする? その願いを叶えるには、どうすればいいのか。

さくらと共にいるという願いに対し、自分がどうありたいのか?


 初音は以前、『自分が鬼になる事を拒む』ということの意味を、さくらに問うた。

今度は初音自身が、『さくらと共にいること』の意味を己に問う。


 (私は――私は、どうしたい(・・・・・)?)


 スクナが出現する日は遠くない。

その日は、すなわち自身がさくらに対してどうありたいのか――

初音が決めなくてはいけない日でもある。



 夕方になり、花咲家を寧々子と理一が訪れた。

きのめが居間に通した2人を迎える初音。

初音の隣に寧々子、茶太郎を間に挟む形で斜め対面に理一が座った。

寧々子はタブレットPCをちゃぶ台に置き、録画した授業の映像を再生する。

ちなみに夕方と言っても雨が降っているため、夕日は差さず時計でしか時刻はわからない。

成子がちゃぶ台に2人分のお茶を置く。礼を言う2人。

初音は録画の映像を見つつ、2人のノートを参考にして自分のノートをまとめた。


 「理一のノート参考になる?

  初音ちゃんのためって、すんごい気合入れてたけど」


 横から寧々子が問うと、初音は顔を上げ、うなずいた。


 「うん。すごく見やすいよ、原木君のまとめ方。字も綺麗」

 「そそそそりゃ人に見てもらうんだからよ、丁寧にも書くよ。

  …前から思ってたけど、寧々子お前さぁ。時々俺に当たり強くない?」

 「え、今のそう聞こえた?」

 「聞こえた聞こえた」


 軽口で笑い合う2人を、初音と茶太郎が交互に見比べる。

同じクラスになって6年目という2人は、こういう時も息がピッタリだ。

2人に限らず、6年1組の級友たちは仲が良い。


 「まあまあいいじゃん。

  それより初音ちゃん、さくらちゃんの具合どう? うちの薬効いてるかな」


 寧々子が誤魔化すように話題を変えた。

3人と茶太郎で揃って振り向いた先では、さくらがまだ布団に横たわり、眠っていた。

枕許にはコロ左衛門が座っている。


 「少し良くなったみたい。まだ起きられそうにないけど」

 「フニ~」


 コロ左衛門が一声鳴き、さくらの額に触れた。

ゆるやかに呼吸し、僅かに肌や唇の艶こそ戻ってきたが、今では汗さえかかない。

倒れた直後よりは落ち着いている。それでも、まだ肌は冷たい。

今のさくらは、自身と初音、合わせて2人分の鬼力によって、どうにか命をつなぎとめている状態だ。

沈痛な表情の理一がコロ左衛門を撫でた。


 「フニ~」

 「早く元気になってほしいよな」

 「うん…」

 「そしたらまた皆で…さくらちゃんも入れて、遠足とか見学とか、行きたいよね」

 「……うん」


 理一と寧々子の言葉にうなずく初音と茶太郎。


 「そうだね…」

 「わふっ」


 2人の言う通りだ。さくらは鬼だが、初音だけでなく6-1の面々とも友達なのだ。

かくれ里に帰る前、1日だけでもともに過ごしたい。

理一と寧々子だけでなく、千歳や寿司らもそう思っているはずだ。

スクナを討つ仕事だけがさくらの全てではない。

共にいたい、一緒に遊びたいと、さくらの友達として彼らは思っているはずだ。

スクナを討ったその先。さくらが『かくれ里』に帰るとしても、僅かな時でも共に過ごしたいと。


 「…私も、さくらちゃんと一緒にいたい」

 「わふっ」

 「…そうだよな」


 理一の僅かに残念そうなつぶやきは、幸か不幸か初音には聞こえなかった。

勿論隣にいる寧々子が意地悪そうに笑うのも、初音は気づいていない。


 「じゃあ、もうちょっとのガマンだね。

  さくらちゃんが良くなるまで、初音ちゃんが看ててあげないと」

 「うん」


 寧々子に言われ、初音はノートの書き取りを再開した。

茶太郎はといえば、コロ左衛門を元気づけているらしく、背後からわふわふフニフニと声が聞こえた。

理一の表情がどこか曇っていることに関しては、寧々子に放っておけとだけ言われ、追及はやめた。

ここで初音は寧々子の両親の事を思い出した。

傷付いた2人の姿を、初音も一度見ているのだ。


 「寧々子さんのお父さんとお母さん、ケガの具合は?」


 初音が問うと、寧々子は明るい表情で答えた。

 

 「心配してたより良かったよ。鬼のみんなが人間を護ってくれたんだって。

  鬼のひと達…ひと(・・)でいいのかはわからないけど、おかげで助かったよ」

 「そっか…よかった」


 自分のことのように初音は安堵する。

寧々子の顔から、課外授業の時に見えた影は消えていた。



読んでいただきありがとうございます。

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