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見参!おにざくら  作者: eXciter
最終幕:胸に桜を、この手に君を
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第六十八話

心が疲れた時やささくれ立った時は「科学戦隊ダイナマン」を見よう

爆破しまくるOPと名乗りの爆発三段活用で一生分の笑顔になれるゾ


 初音は当初からさくらの看病を引き受けるつもりであったが、申し出る前にさくらの両親に一任された。

重大な責任感と同時に、自分への強い信頼を感じる。

もし目覚めなかったら、という不安はある――しかし、初音と茶太郎は強くうなずいた。


 「――はい。任せてください!」

 「わふっ!」

 「うむ、良い目だ。そなたに逢えたのは、わが娘にとって僥倖であった」


 初音の両肩に大きな手を置き、目を見てうなずくと、巌十郎がイトを抱えて立ち上がった。

そろそろ行くのだと知り、辰丸の頭からコロ左衛門が離れる。名残を惜しみ、丸い前足と大きなヒヅメが触れ合う。


 「では行こうぞ、辰丸」

 「バルル…」

 「宮野の子はいかがなさいますか?」


 抱えられたイトの質問に、寧々子が答えた。


 「アタシ、一回病院に行ってきます。

  父さんたちのお見舞いして、それからすぐ戻ります。

  お二人がいくことはお祖父ちゃんには伝えておきます」

 「左様か。では伝令を頼むぞ」


 寧々子に言うと巌十郎とイトは辰丸の背に乗った。

見送る一同の先頭で、コロ左衛門が辰丸に手を振る。

その横で、寧々子はすぐにスマートフォンを取り出し、神社にいる祖父に連絡。


 「フニ~」

 「コロ左衛門、そなたもさくら達のことを頼む。

  初音殿のことも、しかと助けるのだぞ。――行け、辰丸!」

 「バル!」


 巌十郎が手綱を引くと、辰丸が一声いななき、桜ヶ守神社へと跳んで行った。

――時刻は夕刻近く。しかしどす黒い雲に遮られて夕日は差さず、日没前にもかかわらず暗い。

巌十郎達を見送り、花咲家、そして6-1メンバーと担任の千歳が残った。


 先刻辰丸を見送ったコロ左衛門は、さくらの枕元に座り、そこから離れまいとしている。

初音はコロ左衛門の頭を撫でてやった。そんな初音の隣に千歳が座る。


 「初音さん。さくらさんが目を覚ますまで、学校は休みなさい」

 「……いいんですか?」


 担任教師の意外な言葉にためらう初音。千歳、そして理一らが初音に答える。


 「さくらさんの事を任されたのでしょう。今は学校に行くより、そっちの方が大事だもの」

 「学校は後でも通えるんだからさ、今はさくらちゃんの方についてなよ」

 「それが良いですわ。ノートはわたくし達が取って差し上げますから」


 千歳、理一、渚の進言に、初音は本当に良いのかと問うように千歳を見つめ返す。

彼女がうなずくと、続けて級友たち、そして家族に視線を向ける。

全員が、それで良いと答える代わりにうなずいた。


 「わふ!」

 「フニ~」


 最後に茶太郎とコロ左衛門が一声鳴く。2匹とも、皆と同じ意見だったようだ。

さくらのことを任せられるのは初音しかいない。そして今はさくらの回復に努めるべきだと。


 「何でしたら授業の録画もしときましょ。先生、良いですよネ?」

 「もちろん。担任として、私もちゃんと卒業してほしいからね」


 寿司の提案を受け入れる千歳。

そして始終無言だった真登は、初音と目が合うと静かにうなずき、級友たちの発言を肯定した。

何日か学校に通えないことは残念ではある…が、級友たちの言葉に、初音も意を決した。


 「――わかった。ごめんねみんな、迷惑かけちゃうけど…」

 「いいって、友達なんだしさ!」


 そう言って寧々子が了承した。寧々子も両親のことがあろうに、気丈に笑っている。

家族が、そして級友たちが支えてくれる。

その安心が恐怖を…さくらが二度と目覚めないのではないかという恐怖を、少しずつ和らげる。


 初音はもう一度、横たわるさくらの顔をよく見た。

倒れた直後から幾分か持ち直してはいるが、顔色は土気色で、頬も少しばかりこけている。

鬼たる彼女の生命力をここまでそぎ落としたスクナの一撃の恐ろしさが、初音にもよくわかる。

幸いにして寧々子の祖父から受け取った薬があり、これを飲ませれば傷は癒える。

そして傷が治ってから、食事と共にこれを飲むことで、活力も戻る。

――胸の内で、初音はそう自分に言い聞かせた。


 (絶対に)


 初音はさくらの冷たい頬に触れた。


 (絶対に治るからね。大丈夫だからね、さくらちゃん)


 スクナに立ち向かえるただ1人の少女を救うこと。

そして――大切な、だれより大切な人を救うことを。

初音は胸の内で決意したのである。



 その後千歳と級友たちが帰宅し、慌ただしかった花咲家の居間に再び静寂が訪れた。

時間は既に夕方、5時を過ぎている。普段なら日没間際の時刻だ。

しかし空がただ暗くなるだけで、日差しも殆ど差さない。

周囲の家では室内照明を点灯させていた。時折住人が顔を出し、異様な暗さに戸惑った声を上げている。

初音も居間の電灯のスイッチをオンにした。横になったさくらは、しかし照明の明かりにも反応しない。


 さくらの着物はきのめが縫い直して洗い、初音の服と共に普段は日当たりが良い縁側に干している。

早めに乾くように衣類乾燥用の除湿機も稼働させているが、肌寒さすら感じる程の雨では、いつ乾くのやら。

台所では成子が夕食の支度をしていた。

目まぐるしい状況の変化に疲れ切った初音のため、早いうちに夕食にしようという成子の提案だ。

実、きのめ、そして茶太郎も揃って賛成した。状況に翻弄されて疲れ切った初音は、特に何も言わなかった。

風呂掃除を終えた実が、そこへ布団一式と茶太郎用のベッドをもってやってきた。


 「お布団? どうしたの、お父さん」

 「看病の間だけでも、初音が一緒にいてあげなさい」


 実が布団を居間の隅に置く。


 「さくらちゃんだって、初音が一緒の方が心強いだろうからね」

 「…うん!」

 「わふ!」

 「茶太郎も頼むぞ。…コロ左衛門君も元気を出せ。さくらちゃんはちゃんと治るから」

 「フニ~」


 初音と茶太郎の返事につられ、コロ左衛門も顔を上げて答えた。

いつもと比べて声に張りが無い。さくらが寝込み、相当意気消沈しているようだ。

それでも初音と実が撫でてやると、少し元気になったらしい。


 夕食が出来上がり、食卓に運ばれてきた。食卓の席に着く初音。

目の前には母が作った夕食が並んでいた。疲れた今、いつも以上に美味しそうに見えた。


 「いただきます」

 「わふ!」


 家族で揃って挨拶を済ませ、食事にかかる。

まず、自分がしっかり栄養を採らねば…と初音は考えている。

さくらは両親の手で治療を施された。

自分は両親に頼り、恐怖に折れそうになった心を立て直した。

級友たちと担任の千歳も協力してくれる。

支えてくれる人たちがいる――ならば絶対にさくらを助けるのだと、初音は誓った。



 その日、実が言う通り、初音は居間で眠った。

照明の明かりを落とした中で布団にもぐり、薄暗いLEDで照らされて隣に眠るさくらの横顔を眺める。

枕元に置いた犬用ベッドには茶太郎が眠る。

もしも全てが夢だったら…ほんの少しだけそう思ったが、隣に眠るさくらの姿が現実を物語る。



 翌日からさくらの看病が始まった。

薬を飲ませるのはこの日の朝の食事分から。

最初は湯呑か何かで溶いた薬をスプーンで飲ませるつもりだったが、どう考えても今のさくらが呑み込めるわけがない。

初音が悩んでいると、きのめが薬箱からあるものを取り出し、持ってきた。

急須に似た形だが、柔らかいプラスチック製で、透き通っていて取っ手が無い。


 「うわ、懐かしいな母さん。まだ取っておいてたんだ」


 実がそれを見て感心する。初音には初めて見る道具だった。


 「お祖母ちゃん、これって何?」

 「吸飲み(すいのみ)というの。寝たきりの人に水を飲ませるためのものよ。

  あなたのお祖父ちゃんの介護をしてた頃、ずっと使ってたの」


 初音は父方の祖父、つまりきのめの夫と会ったことが無い。物心ついた頃には亡くなっていた。

また、成子も初音を身ごもっている最中だったのもあり、祖父の介護の経験は無いという。

その祖父から譲り受けるような形で、さくらを救うために必要な器具が手に入った。

亡くなった祖父も支えようとしてくれているのだろうか。

初音は胸の内で亡き祖父に感謝した。


 「洗ってはあるけど、何しろ古いものだから。もう一回洗ってから使いましょうね」

 「うん」


 台所で朝食を作る成子の横で、きのめが吸飲みを洗い、薬やスプーンなどと共に持ってきた。

初音は湯呑み一杯のぬるま湯の中に薬をスプーン一杯、そして裏庭の桜の花びらを数枚投じる。

薬はペースト状だが、初音が思ったよりも粘りがあった。

強くなった腕力もあり、かき混ぜるスプーンが曲がってしまいそうになる。

折らないようにゆっくりゆっくりとかき混ぜると、少しずつ花びらと薬がぬるま湯に溶けていった。

僅かに粘りのある桜色の薬湯が出来る。それを吸飲みに移そうと、初音が湯呑を持った時、薬湯が淡く光った。

となりで見守っていたきのめもその光に気付く。


 「何かしら。電気じゃないわね」

 「うん。何だろう…」

 「わふ?」

 「フニ~」


 茶太郎とコロ左衛門が湯呑に顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぐ。

と、何かに気付いたらしく、2匹そろって耳がピコっと立ち上がった。

そろって初音の手を握り、もふもふと顔を近づける。

2匹が伝えようとしていることを初音は悟った。


 「鬼力…? 私の鬼力が、薬に伝わってるの?」

 「わふ!」

 「フニ~」

 「初音ちゃんの――ああ…」


 初音の鬼力。その事実に…即ち初音が鬼になりつつあることに、きのめは新たにショックを受けたようだ。

初音はさくらと出会ったばかりの頃を思い出した。


 「最初の日ね、さくらちゃんは私に鬼力を『おすそ分け』して、ケガを治してくれたの」

 「つまり、いまの初音ちゃんは同じことができるかも、って?」

 「…うん」


 出来上がった薬湯を吸飲みに移すと、きのめがさくらの体を支え、上体を起こしてやる。

初音はさくらに寄り添うと、注ぎ口を閉ざされた唇に軽く差し込み、容器を傾けた。

薬湯が数滴、唇から顎へと伝う。初音は手に持ったタオルで拭いてやった。

注いだ分の殆どは喉を通ったらしく、さくらの小さな喉仏が動いた。

途端、さくらの全身が淡い桜色に光った。



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