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魔王に殺された代理勇者の。  作者: ねずみもち月
五章 代理勇者の助太刀
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117.騎士団、あてにできず

 ラヴィアスが出した話題には、ノイムも大いに興味があった。

 食用花で飾られたプディングをせっせと口に運んでいたノイムは、手を止めて顔を上げた。


「さっきも思ったけど、エクシア団長ってほかの団員と仲が悪いの? すんごい失礼な態度とられてたよね」

「わたしは団長代理だよ。わたしは彼らが嫌いなわけではないんだが、彼らのほうではそうでないらしい。わたしが団員から慕われていないのはたしかだね」

「この部屋も原因のひとつ?」

「不本意ながら」


 エクシアは苦笑して、ソファに置かれたクッションを撫でた。このクッションも羽毛がふんだんに詰め込まれてやわらかく、カバーにはみっしりと刺繍が施されている。なにからなにまで、大袈裟なくらいに金がかかっていた。


「でも、この金のかかった内装は団長サンの父親の趣味だろ。それで団長サンが誹りを受けるのは違うんじゃないの?」


 これまで黙りきりだったシャティアも、会話に加わることにしたらしい。いつトワンとの戦いが始まるかわからない緊張感に耐えられなかったのかもしれない。


「エクシア団長のお父さん?」

「そ。本来のサフィート騎士団長だよ。それの父親が王サマに引き抜かれて王都に行っちゃったもんだから、団長の座が、息子のエクシアに回ってきたワケ」


 さすがというべきか、シャティアは騎士団の内情にも詳しい。


「そこまでわかっているのなら、シャティアさん。いい加減にわたしを団長サンと呼ぶのはよしてくれないか?」

「そうだね、団長サン」


 エクシアはシャティアを見つめて、たっぷり五秒は固まった。


「……たしかにこの部屋を整えたのはわたしの父だが、あの人の趣味というわけではないよ」


 そして諦めたようだった。


「わたしは一応、箱入り息子だったからね。騎士団の質素な調度品は肌に合わないだろうと考えて、執務室をこんな豪華な部屋に改装したんだ。いわばわたしのためさ」

「全然ためになってないのに?」

「仕方がない。父はわたしのことを、剣も握れないか弱い息子だと思っている」


 一瞬、場が静まり返った。エクシア以外の四人が同時に首を傾げる。


「握れないどころか、エクシア団長って結構強いよね?」


 皆を代表してノイムが素直に言うと、エクシアは嬉しそうに微笑んだ。


「強いかどうかはさておき、きちんと鍛錬は積んでいる。剣は使えるつもりだよ」

「それがなんだって、か弱いなんて勘違いをするんだい。あんたの父親の目は節穴なの?」

「おそらく、わたしの母が体の弱い人だったからだ。母が死んで以来、父はわたしと母を重ねて見ているところがある」


 エクシアは部屋の壁にかかった絵画のひとつを指さした。

 肖像画だった。ほとんど白に近い金髪を肩に流した夫人の姿が描かれている。繊細な顔立ちと淡い微笑みが、今にも消えてしまいそうな儚さを醸し出していた。病弱だと言われたら納得する。


「すごい、エクシア団長にそっくり! 綺麗な人だねえ」


 真っ先に声を上げたのはシンシアだった。彼女はこういうとき、抱いた感想を誰よりも早くそのまま口に出す。


「団長サンはなにかの間違いで男に生まれたわけだ」

「そう言ってくれるな。男らしくない顔立ちなのは自覚している」


 しかしエクシアは、顔は綺麗でも体はきちんと男だ。そして剣を立派に使う騎士だった。ラヴィアスよりは細身だが、それなりに上背もある。鎧を着て腰に長剣を下げていれば、間違っても女には見られないだろう。

 エクシアと肖像画の夫人とをがっつり見比べた上で、シャティアが口を開いた。


「やっぱり、あんたの父親は目が悪いんだね」


 答えに窮したようで、エクシアは曖昧に笑ってこれにはなにも言わなかった。


「ラヴィアスさんも美人だけど、やっぱり女の人には見えないよね」


 シンシアのこの一言で、今度は矛先がラヴィアスに向いた。


「団長サンよりずっと綺麗な女顔だけど、団長サンよりよほど男らしいよね。やっぱり体格かな。鍛えてるのがひと目でわかるくらいがっしりしてる」

「シャティアさん、もう少しこう、わたしに対する手心というものをだね」

「事実でしょ。ラヴィアスさんに比べたら、団長サンは薄いし細いし見劣りもする」


 ぐさりとやられて、エクシアはうなだれてしまった。傷ついたらしい。この言われようでは当然である。


 執務室の扉がノックされた。

 とたんにエクシアは背筋を伸ばし、しっかりした声で「入れ」と許可を出す。堂に入った団長ぶりである。


「失礼します。件の魔族の行方がわかりました」


 弛緩していた部屋の空気が引き締まった。続きを促されるまでもなく、入室した騎士は淡々と言葉を継いだ。


「南東の森に――」

「森だって!」


 シャティアが絶叫して飛び上がった。

 ノイムも思わず、握っていたフォークに力を込める。


 サルシャの町の南東に広がる森といえば、それは、最近一部から『勇者の森』と呼ばれるようになった場所だ。

 ノイムとシャティアが暮らす村の傍の、あの森だった。


「トワンは森に逃げこんだの!?」


 重量のある高級ソファを蹴倒すのではないかという勢いで立ち上がったシャティアは、報告する騎士に詰め寄った。掴みかからんばかりだったが、激しているのは彼女だけだ。


 騎士はうさんくさそうな目をシャティアに向けて、黙ってしまった。

 どうしておまえに教えてやらなければならない、上司でもないくせにと言いたげな表情である。


 今度こそその騎士に掴みかかろうとしたシャティアより先に、エクシアが口を挟んだ。


「ここにいる者は全員関係者だ。続けてくれ」

「……町民の目撃情報をもとに捜索を進めたところ、森へ続く真新しい血痕を見つけました。かなりの出血量です。件の魔族は翼を真っ二つにされる大怪我を負っているようですから、ほぼ間違いないと思います」


 言いながら、騎士団員はあまり好意的とはいえない視線を一堂に向けた。テーブルの上のお茶請けを見、それを前にしたノイムとシンシアを見る。


(こいつ今、鼻で笑ったな)


 こんなときになにを呑気なと、そう思ったに違いない。きっと、こういうところからエクシアの評価が下落していくのだ。不憫なものである。ノイムは眉をひそめた。


 あからさまに馬鹿にした態度の部下には気づいただろうに、それには頓着せずに、エクシアは頷いて返す。


「わかった。町の見回りと、闘技場の後処理、町民への対応で団員を分けてくれ。指示は副団長に仰ぐといい。ご苦労だった」


 部下を下がらせると、シャティアに座るように促した。

 とはいえ、今のシャティアがそんな悠長な言葉を聞くはずもない。依然として扉の傍に立ったまま、恐ろしい眼光でエクシアを睨みつけた。


「なに言ってんの。あたしの村はトワンが逃げ込んだ森の目と鼻の先なんだ。トワンのヤツに見つかったら、まず間違いなく襲われる。すぐにでも行ってやらなきゃ……」


 ましてや、シャティアが住んでいる場所だ。それを知られでもしたら、事態はもっと悪い。


 ノイムもまた、居ても立っても居られなくなった。

 理論立てなんかしなくたってわかってしまう。トワンは間違いなく村を襲う。何故ならノイムにも関係のあることだからだ。きつく握り込んでいたフォークを置いて、思わず立ち上がる。


 こういうときのノイムの運の悪さは筋金入りである。


「いいから、少し聞いてくれ」


 エクシアがため息をついた。今にも飛びだしていきそうなシャティアを手で制し、そわそわしているノイムのことは視線で押しとどめる。


 そして眉間にシワを寄せた団長代理は、ひどく言いにくそうに言葉を継いだ。


「騎士団を動かせなくなった」

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