表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王に殺された代理勇者の。  作者: ねずみもち月
五章 代理勇者の助太刀
109/128

108.近況報告、滞りなく

 勇者の剣を見つけたこと、それをノイムが抜いたこと。


 これは間違っても、魔王を相手に明かしていい話ではない。

 前世のノイムは殺された。勇者の剣を持っていたから。代理とはいえ、勇者の立場にあったから、魔王のラヴィアスに殺された。


 今のノイムは、前世よりもはるかに幼く御しやすい。

 ついでにいえば、前世よりもずっと、ラヴィアスとは浅い関係にある。何年もともに旅をして仲を深めた――とは、ノイムが一方的に思い込んでいただけなのかもしれないが――前世でも躊躇なく殺されたのだから、面倒ばかりかけている今世では、もっと簡単にやられてしまうだろう。


(絶対に言えない……けど、けど……)


 なにかあったことは、もうラヴィアスだって察している。今さら涼しい顔で「なにもなかった」と言ったところで信用されない。だいいち、ことこの話に限っては、ラヴィアスの前で涼しい顔なんてできなかった。

 どころか、勇者の剣を抜いた自分は今、魔王の前に立っているのだと、改めて認識してしまった。かえって動揺したくらいである。


「シンシア、思いあたる節はありますか」


 一向に答えないノイムにしびれを切らしたのか、ラヴィアスはシンシアに矛先を向けた。

 シンシアはただ首を傾げるばかりである。


「人に話せないような内容は、今ノイムが言った、モニカのことだけだと思うけど……」


 当然だった。彼女が知るはずもない。ノイムが隠しているのは、シンシアと離れ離れになったあとの出来事なのだから。


「では、あの奴隷商がノイムを捨てたあとの話ですね」


 もちろん、ラヴィアスがそれに気づかないわけがない。


「いいでしょう。それからなにがあったのか、すっかり話して聞かせなさい。時間はたっぷりありますからね」


(シャティアの試合、始まらないかな……)


 そうすればこの追及から逃れられる。せめて言い訳を考える時間がほしい。ノイムは耳を澄ませた。風に乗って聞こえてくる闘技場のアナウンスは――。


「続いて第十七試合……」


 シャティアの出番にはほど遠かった。無情である。


(どうしようどうしよう、勇者の剣のことは隠して、あと、廃墟でラヴィーさんの家族の肖像画を見たことも……廃墟に行ったことそのものも隠さないとまずいかな。でも、そしたら村で過ごした間の話に穴ができちゃうし……)


 特にノイムの腹の傷については、誤魔化しがきかない。実際に傷跡が残っている。そして、この傷を負うに至った過程を語るには、勇者の剣は欠かせない。あの剣があったから、ノイムは暴走した熊と渡り合うことができたのである。

 ノイムは唇を噛んだ。


「わ、私はいっぱい話したから、次はラヴィーさんの番だよ!」


 そして盛大に話を逸らした。わざとらしすぎるくらいわざとらしいが、ラヴィアスに口を挟む隙は与えなかった。早口でまくし立てる。


「ラヴィーさんとお姉ちゃんが一緒にいるの見て、本当にびっくりしたんだから。ラヴィーさんがデビーのところからお姉ちゃんを連れだしたんだよね? でも、どうやってお姉ちゃんのこと知ったわけ? トパの街から追っていったにしたって、デビーは行き先なんて一度も言わなかったよ」


 そこまで言い切ると、ノイムはラヴィアスに向かって空いた手を突き出した。「いっぱいしゃべって喉かわいちゃった。それちょっとちょうだい」と白々しくねだって、あたたかいワインを取り上げる。


「……仕方ないですね。わかりました。順を追って話しましょう。ただし、私の話が終わったら、あなたの隠しごとも聞かせてもらいますからね」


 ノイムの勝ちである。安堵の笑みが浮かびそうになるのを隠して、ノイムはワインを口に含む。

 たちまち飛びあがった。


 澄んだ赤い酒はびっくりするくらい熱かった。危うく舌を火傷するところだ。買ってからそれなりの時間が経っているのに、どうしてかまったく冷めていない。まさかラヴィアスは、手元で魔法を使ってずっと温めていたのだろうか。

 顔をしかめたノイムは、しつこいくらいに息を吹きかけてワインを冷ました。今度は慎重に飲み下す。

 酒はゆっくりと喉をすべり落ちて、腹の底に着地した。体が芯からぽかぽかするが、アルコールはさほど強くない。熱を通してあるからだろう。


「知ってのとおり、私はカデルくんを追ってニギの国に渡ろうとしていました」


 ワイン相手に格闘しているノイムに白い眼を寄越し、ラヴィアスは語りはじめた。


「ノイムには手紙でも伝えましたが、彼の国では内乱が起こっています。向こうへ渡る船を出したがる人はいません。船を出す気があったところで、サニア国は現在、ニギの国に渡ることを禁止していますから、港を離れる前に止められてしまいます。合法的に向こうへ行く手段はありませんでした」


 合法的な手が無理だというなら、非合法な手段を取れば海を渡れるということである。ニギの国が内乱状態にあるというのなら、武器商人などは稼ぎどきだ。密輸しようとする者はいくらでもいるだろう。ラヴィアスが考えたのも、まさにそういったことだった。


「密輸業者にお願いして、一緒に乗せてもらう手筈を整えました。ところが運の悪いことに、密輸船を告発したら報酬をもらう約束をしていた方が交ざっていたようでして。深夜に出立しようとしたそのとき、波止場の向こうに次々と松明の明かりが浮かび上がったんです。騎士団が掲げる明かりでした。あれには、さすがにぞっとしましたね」

「ラヴィーさん、捕まっちゃったの?」

「まさか。海に飛び込んで、ことが終わるまでやり過ごしました。いくらなんでも、水のなかにまで騎士団の手は及びませんからね。ひと晩潜っていれば静かになりましたよ」

「……浮かんで待ってたんじゃなくて、潜って待ってたの?」

「そうですが?」

「きょとんとしないで、おかしいから」


 並みの人間には不可能だ。水中では呼吸ができない。常識である。

 シンシアはとても素直に「ひと晩中!? よく息が続いたねえっ」と驚いていたが、ノイムはドン引きだった。まさか魔族はみんなこうなのだろうか。ラヴィアスだけが例外なのだと思いたい。


「朝になると、速やかに港町を離れました。同じ船に乗っていた方々には、私の顔を知られてしまっていますからね。ほとぼりが冷めるまでは、近づかないほうがいい。それで、一度トパの街まで戻ろうと思ったわけです」


 彼はなにごともなかったかのように話を続けた。

 ラヴィアスが海沿いを離れたのが夏の盛り。ちょうど、ノイムがデビーの策略にはまって、シンシア共々トパの街から連れ去られたころである。


 ラヴィアスはサニアの北東にあった町から、少し西へ進み、そこから南へ下ってトパの街に戻る道をたどっていた。


「実はその道中で、例の奴隷商……デビーと言いましたか? 彼とすれ違っていたんです」


 シンシアがふたたび驚きの声を上げた。この話は、彼女も初耳だったらしい。


「商人と、青年奴隷と、ぼろぼろの服を着た少女。不思議な取り合わせでしたからね。シンシアの髪は目立ちますから、トパの街に帰っても覚えていました。孤児院に寄って、ノイムが仲の良い友人の家に引き取られたと知って、シンシアの家に足を向けたのですが」


 当然、そのころはもうノイムはそこにはいない。シンシアの両親からことのあらましを聞いて――本当のことを聞き出すのにずいぶん苦労したという。マーリアもイゴルも、最初は頑なに、姉妹は行儀見習いのために揃って奉公に出したと言い張っていたらしい――とにかく話を聞いて、ラヴィアスは直感した。帰ってくる間にすれ違った印象的な三人連れ。あのうちの商人がノイムとシンシアを攫った犯人で、赤毛の少女がノイムの義姉だったのだろう。


「マーリアとイゴルからお話を伺うまで、私はシンシアの存在なんて知りませんでしたからね。見過ごすんじゃなかったなどと後悔しても仕方がないのはわかっていましたが、思い返すに最悪の気分です。それに、私が見かけたとき、あの荷馬車にノイムは乗っていなかったでしょう。いればさすがの私も気づきますからね。ものすごく嫌な予感がしました」


 ラヴィアスは来た道をとんぼ返りした。どうにかデビーの荷馬車に追いついたはいいが、問題になったのはそこからである。


「まさか、そのお嬢さんを譲ってくれと言うわけにもいきませんし……」


 相手は奴隷商だ。それでは子供奴隷を売ってくれという意味になってしまう。

 今さら犯罪者になることに尻込みするようなラヴィアスではないが、こればかりはまずい。なんといっても、彼はその子供奴隷を扱う違法な孤児院を取り潰したばかりなのだ。そのラヴィアスが奴隷商に攫われた子供を金で買ったとなれば、それでは筋が通らない。


「素直にこちらの正体と目的を明かしては、向こうはきっと、私をどうにか抹消しようと小細工をするでしょう。奴隷商のもとからシンシアを奪ってしまうのはどうかと思ったのですが……」


 それではデビーは、血眼になってシンシアを捜すだろう。ノイムをつけ狙っていたときと同じだ。こちらは未来永劫、デビーを警戒しながら生きていかなければならなくなる。それは非常にありがたくない事態だった。


「で、どうしたわけ?」

「どうもしません。奴隷商は隣国ナグリーブでシンシアを競りにかけるつもりだったようですから、それまでは猶予がありました。ひとまずあとを尾けて、なにかうまい手を考えようと思ったんです」


 ここでシンシアが勢いよく手を挙げた。


「はい! そこからはあたしもわかるよ。国境を越えたあたりでね、馬車が襲われたの」


 デビーが向かった国境沿いは、サニア国からもナグリーブ国からも辺境と称されている場所だった。道によっては盗賊が出る。魔物も出る。


 デビーの荷馬車は、魔物の襲撃に遭ったのだという。

びっくりするくらい調子よく毎日投稿できていますが、奇跡みたいなものなのでそのうち途切れると思います。できれば大量に書き溜めて安定した供給をしたいんですけど、なかなか上手くいきませんねえ……。

ところで累計PVが10000を越えました。連載中にこの数字を見るのは初めてです。いっぱい読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ