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第二十五話 そして今日が終わるのだから

戦いが終わり、ミュナおばさん一行は休むための場所を探します。

今回は眺めのエピソードとなりますので、どうぞお楽しみください。

「あ、ここは――」


 気が付いたイツハは自身の周囲を見回す。

 後方には朽ちた校舎が連なっており、文明人の墓標のようにも見て取れる。


「いっちゃん!」

「イツハ様!」


 すぐ隣にはミュナがいて、その隣にはマァルナがいる。

 元気そうな顔を見て、イツハはようやく試練を攻略したのだなという実感が湧いた。


「怪我とかないかしら?」

「いえ、自分は大丈夫です」

「怪我をされて棄権となった方々は大丈夫でございましょうか?」

「その辺は大丈夫じゃないかしら。準天使は怪我を治すのが得意な子が多いとも聞いているから」

「それならばいいのですが……」


 イツハの脳裏にギガント達の姿が思い浮かぶ。

 もしもまた次回以降の試練に出会ったとしたら、何と言われるのだろうか。

 少なくとも、一時的な共闘というのも難しいだろう。


「そう言えば……」


 先程の試練で手に入れた品々はいつの間にかポケットから無くなっていた。

 少し寂しさを覚えていると、彼の指先に何かが当たる。


「これは、ペンか」


 学び舎のガラクタから貰ったペンを眺める。

 贈答品にはピッタリかもしれないが、使う機会はあるのだろうか。

 どうしたものか困っていると、マァルナがイツハにこんな提案をする。


「イツハ様。大切な思い出をお預かりいたしましょうか?」

「ありがとう」


 イツハはマァルナにペンを預けていると、ミュナは朗らかな笑顔を浮かべる。


「ふふ、いい思い出よね。で、あっちで手を振ってくれているわ」

「手を?」

「学び舎のガラクタちゃんよ」

「え?」


 イツハがよもやと思い、朽ちた校舎の屋上を見る。

 すると、人の形をしたものが、手の代わりとして使っていた物差しを左右に振っているのが微かに見えた。


「ありがとう」


 イツハが手を振り返す。

 金庫を開くメモがなければ、脱出は不可能だったろう。

 そう思い返すと、彼は強く手を振っていた。


「よかったわね。さて、次へ行きましょう」

「はい。そう言えば、順位は――」


 イツハはタブレットを取り出して配信アプリを開く。



 登録者:イツハ

 応援ポイント  :111647p

 累計応援ポイント:113868p

 ファン数    :  4274名


「か、かなりポイントが増えていますね……。試練参加ボーナスが――二十万p!?」


 前回の試練と比べるとかなりのポイントだ。

 イツハは思わず頬が緩んでしまうも、ある違和感に気が付く。


「ん? 前回と前々回は試練突破ボーナスだったけれども、今回だけ参加ボーナス?」

「今回の試練は難しかったから?」

「そうかもしれませんね。えっと、ポイントの詳細を見ると、試練中で記録したドキドキ度の最高数値で決まるみたいですね」


 履歴を見てみると、どうやらドキドキ度は最高で300を記録したようだ。

 イツハ自身、試練中考えることが多くてすっかりと忘れていた。


「300って、確かいっちゃんが終盤で叫んだ時だったかしらね」

「門の前でございますね」


 イツハは思い出す。

 確か、泣き姫狐の名前の真意が分かった時だ。

 そんなにおぞましい叫びを上げていたのだろうか。

 そう考えると、彼は少しショックだった。


「ミュナおばさまのポイントは増えたのでございましょうか?」

「今回はサポートメインだったものね。どんな感じかしら?」


 皆でミュナのタブレットを覗き込むと――。


 登録者:ミュナ

 応援ポイント  :548559p

 累計応援ポイント:652213p

 ファン数    : 25002名


「ファン数が二万五千人、凄いですよ!」

「頑張ってサポートいたしましたものね」

「嬉しいわね~」


 ミュナのニコニコの顔を見ながらも現在の順位を見てみると二十一組中九位となっていた。


「順位も着実に上がっています」

「いい感じね~。いっちゃん、先へ進みましょう」

「そうですね。疲れてしまったので休みたいところです」


 イツハ達は先を目指して進んでいく。

 目指すべき頂上はまだまだ先のようだ。

 先程の試練では肉体だけでなく精神も酷使させられたため、休憩時間が無ければ次の試練は攻略出来ないだろう。

 悲鳴を上げている肉体を強引に動かし、イツハ達は傾斜の緩い上り坂を進んでいく。


「先は長いわね。だから、慌てず行きましょ」

「はい」


 ミュナが先導していると、脇道から誰かの声が聞こえてくる。

 他の参加者だろうか。

 イツハが身構えていると、右隣からその人影は近づいて来て――。


「あ、イツハさん!?」

「君は――アケル?」


 帽子を被った短パンの少年がペコリと頭を下げる。

 その隣には進化と真価の神であるエボルア=エボリアがいた。


「おお! 元気かね!」


 ふわふわと浮かんでいる真珠色のオブジェが元気よく声を掛けてくる。

 どこから声を発しているのかは分からないが、それよりも敵意が無い点にイツハは安心してしまう。


「あ、はい。元気です」

「私達は元気よ~。アケル君は大丈夫?」

「そ、の、はい。大丈夫、です」


 アケルは恥ずかしそうに俯いている。

 まだ、ミュナと話すのには慣れていないようだ。


「アケル君……。大人の階段を昇るのは、まだまだ先のようじゃのう」

「博士! そんなこと言わないで下さい!」


 アケルは口を尖らせていると、博士ことエボルアは意地悪そうに笑っている――のか、笑い声を立てながらも身体を揺らしている。

 表情はないものの、感情表現は豊かなようだ。


「一緒に休憩所まで向かわんかのう? まあ、累計応援ポイントが達していればの話じゃがのう」


 エボルアの前方には立て札を持っている準天使達がいる。

 その自信満々な様子から察するに、かなりの応援ポイントを稼いでいるようだ。


「達しているわよ~」

「ほう、それはすまんかった。では、共に行こう」


 エボルアとミュナが話し合う中、イツハはアケルと話すことにした。


「アケルも試練を攻略したのかい?」

「はい! 博士のおかげで何とか攻略出来ました!」

「そうか、それはよかった」

「立派でございますね」


 マァルナが笑顔を見せると、アケルは目を逸らす。

 女性が苦手な年頃なのだろう。

 イツハが納得していると、アケルはこんなことを尋ねてくる。


「あの、イツハさんは宇宙連鎖崩壊の時のことを覚えていますか?」

「宇宙連鎖崩壊? いや、憶えていないな……」

「私のメモリーにもございません」


 イツハとマァルナの言葉を聞いて、アケルは驚いた顔をする。


「そ、そうでしたか? 僕が住んでいた星では宇宙全体が消滅する危険があるという話で大パニックになっていたんです」

「う、宇宙全体が?」

「詳しい話は分からないのですが、宇宙に限界が来てしまったみたいなんです……」


 アケルはぼそりぼそりと喋り続ける。

 思い出したくもない記憶を手繰(たぐ)っていると、懐かしい思い出も過ぎってしまったのだろう。

 視線を右へ左へと振り子のように揺らしている様子から、イツハはその内面は不安が渦巻いていることを確信した。


「そうか、物質界が限界を迎えてしまったのか。それで新しい世界を創り直すために、自分達は――」

「イツハ様達、残されし者が試練に挑戦されているのでございますね」

「僕、考えたんです。僕達がどうして『残されし者』と呼ばれているのかって……」

「ん、そう言えば……」


 確かに意味ありげな言葉だ。

 小馬鹿にされている訳ではないが、どこか悲しい意味合いが込められているようにも解釈出来てしまう。


「その、残されし、って生き残ってしまったということなんじゃないですか」


 アケルのその声は震えていた。

 決定的な証拠はないのだろう。

 だが、今までの試練の中でこの少年は答えを見つけてしまったに違いない。


「生き残った……? そうか、そういう意味なのかもしれない」

「多分、試練に参加できるのは、生き残った生物の中でもある程度の知恵を持っているが条件かもしれません。でも……」

「アケル様?」

「だ、大丈夫です」


 アケルは鼻をすすりながらも答える。

 涙を懸命に堪えつつも恐怖に立ち向かうその姿に、イツハは思わず胸を打たれた。


「い、生き残った二十人で争わないといけないなんて。皆で話し合って、それで新しい世界を考えるという方法では、ダメなのでしょうか?」


 イツハはどう答えたらよいのか分からなかった。

 平和的な解決が出来ればそれが一番いいのかもしれない。

 だが、これは残されし者だけの問題ではないのは、アケルも重々理解しているだろう。


「自分はその意見には賛成だけれども、神々は望んではいないと思うんだ」

「そ、それは分かっていますけども……」

「神々は個性的で、色々な理想を抱えている。人間ごときがああだこうだ言っても、耳も貸してくれないさ」

「う、で、でも、でも……」


 アケルは必死に反論しようとするも、何も思いつかないのか肩を小さく震わせている。

 少年の純粋な思いが叶うほど世の中は透き通ってなどいない。

 どうして、神は優しい少年に重荷を背負わせるのだろうか。

 イツハが励ましの言葉を考えようとしていると――。


「いっちゃん? アケルちゃんをいじめちゃダメよ?」

「い、いえ、そんな訳では……」


 エボルアと話し合っていたはずのミュナがいつの間にやらイツハの隣にいた。


「本当かしら?」

「ほ、本当です!」

「ならいいのだけれども……。で、アケルちゃんは何か悩んでいるのかしら?」

「あ、あの」

「ミュナおばさま、アケル様はこのようなことで悩んでおります」


 マァルナが先程のアケルの話を要約してミュナへと伝える。

 その間、アケルは何か言いたそうな顔をしていた。

 言わないで貰いたかったのかもしれないが、イツハとしてはうじうじ悩むよりもミュナに相談した方がすっきりするのではないかと思っていた。


「ふんふん。そうね……」


 話を聞いたミュナは遠い目をする。


「アケルちゃんの言うことも分かるわ。でも、最初から誰も彼もが平和を望んでいる訳ではないみたい。神々もね、本当に昔から戦うのが好きなのよ」


 ミュナは小さく笑う。

 力なく笑うその様子は、何かを思い出しているのだろうか。


「昔から、ですか?」

「ええ。一番酷かったのは、生命を巡って争った時かしらね」

「そ、そうなんですね」


 神々が生命を巡って争っていたとは。

 意外だなとイツハが思っていると、第三者の声がすぐ傍から飛んできた。


「ほうほう、随分昔の話をしておるのう」

「は、博士!?」


 アケルの隣に現れたエボルアは頷くような仕草をしている。


「おっと、これは失礼。しかし、アケル君が悩みを抱いておったとはのう」

「博士はどう考えているんですか?」


 アケルの質問に対し、エボルアはその場でクルリと一回転してからこう答える。


「アケル君。これは一部の神にとってはチャンスなのじゃ」

「チャンス、ですか?」

「そうじゃ。本来、神位の低い神が物質界の行く末などに意見など出せんのじゃ。ただ、今回の神命新天の儀は、ワシのような神にもチャンスがあるのじゃ」

「そ、そうだったんですね」

「だからのう、アケル君。よかったら、力を貸してくれんかのう? ワシの望む、生命が進化をすることで困難に打ち勝てる世界を目指すために」

「は、はい!」


 アケルは元気よく返事をする。

 イツハがその晴れ晴れとした顔を見ていると、悩みがどこかへ吹っ飛んだのだと安心してしまう。


「イツハさん! 急ぎましょう! ボヤボヤしていると、夜が来てしまいます!」

「あ、ああ」


 元気よく走り出すアケルを追いかけるように、イツハは足を動かす。

 アケルの走る速度に合わせて走っていると、イツハはあることを思い出した。


「アケル。さっき参加者が二十人と言っていたけど、二十一人じゃなかったかい?」

「博士が最初は二十組って言っていたからつい……」

「そうだったのか」


 それから二人で並走していると、前方に小屋が並んでいるエリアを見つける。


「あ、ありましたね!」

「あったね」


 アケルははしゃぎながらも小屋へとダッシュしていく。

 一方、イツハは安心したせいか背中からのしかかってくるような疲労に襲われていた。

 もう何もしたくないという気怠さでぼんやりとしていると、ミュナ達が追い付いてきた。


「着いたわね~」

「少し早いですが、休んで大丈夫でしょうか?」

「勿論よ。いっちゃんも今日は頑張ってくれたもの」

「ありがとうございます」


 イツハが小屋の一つへと早速入ろうとすると、ミュナがマァルナを伴って隣の小屋へと向かっている。


「ミュナおばさん。今日は休まれるのですか?」

「ええ。明日はおばさんが全力で頑張るから、今日はルナちゃんとおしゃべりをして英気を養うわ♪」

「あ、はい」


 ミュナはウインクをしながらも、小屋へと入って行った。


「博士~、今日も色々と教えてください!」

「ほっほっほ。いいじゃろう」


 アケルとエボルアもまた小屋へと入って行った。

 会話だけ聞いていると、まるで祖父と孫のようだ。


「祖父か……」


 イツハは自身の母親のことを思い出すも、それ以外の家族のことがどうしても思い出せない。

 そのうち思い出せるかもしれないと考え、彼もまた小屋の中へと入ることにした。


「やっと、休めるのか……」


 イツハはそう言ってから、手洗いやシャワーを済ませる。

 さっぱりした後、栄養補給ゼリーを二つアプリで呼び出して、勢いよく胃の中へと押し込む。


「少し贅沢をしてしまったか」


 その後、イツハはベッドの中へと潜り込む。

 電気を消し、真っ暗な天井を眺めながらも、彼は今日のことを思い返す。


「泣き姫狐か……」


 あの恐ろしい姿を思い出し、イツハは身体を震わせる。

 辛くも試練を攻略することが出来たのは、単に運が良かっただけだろう。

 ギガントとルーロン、それにチャシー。

 彼らとは協力していたのか、それとも利用されていたのか奇妙な関係ではあったものの、結果としてイツハが勝ち残った。

 そう考えると、彼は複雑な気分だった。


「嫌な、試練だったな」


 そもそも、遊馬学園に何故悲劇が起こってしまったのか。

 化け狐の執念のせいか、もしくは天馬姫の浅はかな行動のせいか。

 いや、モクハンが復讐を企てなければよかった話だ。

 そして、誰が悪いとイツハが決めつけることはできない。

 様々な感情がぶつかり合い、その結果生まれた悲劇なのだ。

 部外者であるイツハが上辺だけを見た上で総評を付けられないだろう。


「結局、弱者は何も出来ないんだな」


 泣き姫狐によりどれだけ多くの人が犠牲になったのか。

 少なくとも泣き姫狐の持つ力の前では、一般人は指を咥えて自身の不幸を嘆くしか出来なかっただろう。

 今も、イツハ達は神々の戯れに巻き込まれている。

 弱者である人間が唯一新しい世界に思いを託せる絶好の機会と思うと光栄なのだが……。


「新しい世界、か……」


 どんなに世界が新しくなったとしても、人間は、生命は弱者のままなのだろう。

 ならば、何のために戦っているのか。

 イツハはホフリの剣の柄を握りながらも考え込む。

 そして、時間の流れというのは実に残酷だ。

 窓から光が差し込んでくる。

 明るくなっていく世界に溜息を零しながらも、彼は寝床からゆっくりと立ち上がった――。

さて、次回の試練はどのようなものとなるのでしょうか?

その前に幕間がございますので、どうぞよろしくお願いいたします。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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