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第二十四話 真相とは

前回、辛くもかんざしの謎を解き、無事に泣き姫狐に勝利したミュナおばさん御一行。

今回は真相究明するお話となります。

 一体、本には何が書かれていたのだろうか。

 イツハがいつの間にか明るくなった青空を見上げていると、ミュナがゆっくりと喋り出す。


『あの本にはね、天馬姫伝説について書いてあったの』

「天馬姫伝説ですか!」


 どうして、人形がそんな本を持っていたのだろうか。

 それよりもまずはミュナの話を聞かねば。

 イツハはタブレットから聞こえるミュナの言葉を聞き逃さないように耳を傾けた。


『ええ。昔々にモクハン――えっと、僧侶の名前よね。モクハンが遊馬の地に災厄を振りまいた化け狐を退治しようとしたのだけれども、恨みをまとった化け狐に苦戦したそうなの』

「まあ、確かに狐は色々な心霊現象――超常現象とも言うのでしょうか。少なくとも並の人間では太刀打ちできない力を振るっていましたね」

『そして、焦ったモクハンはやむを得ず禁じられた呪法を使ったのよ』

「それって、まさか……」


 ミュナが言葉を詰まらせる。

 何か言いづらいことが書いてあったのだろうか。

 暫くしてから、ミュナはこう続ける。


『そのまさかよ。モクハンは魔除けのかんざしを奪った上で、それに呪いを込めて天馬姫と化け狐を殺めたのよ』

「え、絵本の内容と違う……」


 やはり絵本は脚色されていたということか。

 英雄譚というのは英雄を褒めたたえる詩集であり、民衆が望まない雑音は必然的に取り除かれる。

 英雄とは常に純真潔白でなくてはならないのだから。


『その後、モクハンは天馬姫と化け狐の魂をかんざしに封じ込めて、かんざしと共に両者の遺体を埋めたとのことよ』

「かんざしさえ掘り出さなければ、学校に悲劇は起こらなかったということですね」

『……そうなるのかしらね』


 ミュナの声色にイツハは疑問を抱く。

 納得がいかないという感情が込められており、よくよく考えると彼としてもどこか引っかかる点があった。


「えっと、本の内容はこれでおしまいでしょうか?」

『ええ。残念ながら』

『イツハ様。本の最後にメモが挟まっていませんでしたか?』

「メモ? あ、これか」


 思わず見逃してしまいそうになった。

 メモにはビッシリと文字が敷き詰められており、本に書かれている文字と比較してみると、どうやらメモは比較的最近書かれたもののようだ。


「何だろう?」


 紙質からしても、明らかに本の製造された年代とは違っている。


『読ませてちょうだいね。字が小さいわね~』


 一体、どんなことが書いてあるのだろうか。

 イツハは疲れた身体を休ませながらも待つことにした。

 そして、かの神はこう告げる。


『いっちゃん。ここに本当の真相が書いてあったわ』

「本当の真相? それはどういう意味ですか?」


 イツハは思わず声を荒げる。

 すると、本を渡してくれた人形が小さく揺れ動いたような気がした。


『メモはこの本の持っていた人が書いたみたいね。彼はモクハンの子孫にあたる人で、ご先祖様が書き残した本を持ってきたそうなの』

『異変を聞きつけて、居ても立ってもいられなくなったのでございましょうか?』

『その可能性が高そうね。彼が改めて調べてみたのだけれども、モクハンがやったことに違和感を覚えて独自に調べたそうなのよ』

「違和感?」

『ええ。文献を漁ったり、過去の歴史を知るご高齢の方にお話を伺ったそうよ』

「かなり大変だったんでしょうね……」


 過去の足跡が残されているのならばともかく、何も残されていなかったのならば、それこそ膨大な時間が必要となるに違いない。

 何がそこまで彼を駆り立てたのだろうか。

 正義感か、それとも単なる好奇心なのか。


『子孫さんが調べた情報によると、モクハンが家族と共に社で平和な日々を過ごしていたある時、突如として遊馬の兵士がモクハンの住んでいた土地へ侵略してきたんですって』

「え、侵略? それって、まさか天馬姫が率いた兵では……」

『そのようね。その結果、たまたま進軍の邪魔になるからという理由で社は焼かれ、モクハンの妻も巻き添えになったそうよ』

「そ、そんな……」

『子孫はこうも綴っているわ。妻を亡くしたショックで優しかったモクハンは豹変してしまったそうよ。化け狐だけでなく、天馬姫としいては遊馬の地に恨みを持っていたモクハンがどうして遊馬を救ったのかが分からないともメモにはあるわ』


 そこまで聞いてから、イツハの頭の中で何度もハテナが往復する。

 軽い眩暈に耐えてから、彼はそろりそろりと口を動かす。


「モクハンさんは恨みのあまり天馬姫を殺めてしまったんでしょうか? いや、でも封印自体はきっちりと行われていますよね……」

『わざと封印をしたならばどうかしら?』

『ミュナおばさま。それはどういう意味でございますか?』

『私がかんざしを灰にした時に、狐と天馬姫の魂が解放されたわ。両者を救うだけならば何かしらの手段で怨念を晴らせばよかった訳で、最初から両者を封印する必要はなかったんじゃないかしら?』

「え? 長い年月を封印をした上でかんざしを破壊したから、天馬姫が解放されたのではないのですか?」

『それはないと思うわ。化け狐は天馬姫と同化して、泣き姫狐という姿になって元気よく大暴れしていたじゃない』

「あ、言われてみれば……」


 ますます意味が分からなくなってくる。

 では、何故モクハンは封印をしたのか。

 イツハが何度も空を仰いでいると、マァルナの声が聞こえてくる。


『後世の人間に封印を解かせ、遊馬の人間に復讐するためでございますか?』

「マァルナ、何を言って――あ」


 イツハは頭の中でこんがらがっていた考えが唐突にまとまりはじめる。

 そして、彼は早口でこう続けた。


「そうか。モクハンが民衆にとって都合の良い話を伝えれば、後世の人々は必然的に天馬姫を悲劇のヒロインとして担ぎ上げる……。敢えてかんざしを埋めたという情報を残したのも、掘り起こす人間が必ず現れるからと確信していたのか」

『メモの最後にはね、先祖代々から天馬姫伝説には関わるなという言い伝えがあるんですって』

『子孫を巻き込まないよう言い伝えていたのでございますね……』


 現に学園長がかんざしを掘り起こして封印が解かれたことで、遊馬学園に悲劇が起こってしまっている。

 これも全てモクハンの目論見通りなのだろうか。


「人間って酷いですね。モクハンの怒りも理解できなくはないですが、それでも無関係の人々を巻き込むなんて……」


 あまりにも後味の悪い話だ。

 せめても、天馬姫が解放されて良かったと喜ぶべきなのだろうか。

 イツハが複雑な面持ちでいると、ミュナがこんなことを言ってくる。


『鳴き姫狐はどうしてかんざしに固執していたのかしらね?』


 陰鬱な雰囲気を誤魔化すためなのだろうか。

 イツハとしてもこの雰囲気は好きになれない。

 彼は少し考えてからこう言った。


「もしかすると、遊馬の地を取り戻したかったのかと思います」

『取り戻すためでございますか?』

「うん。最初に泣き姫に近づいて心を奪い取ろうとしたのも、もしかするとかつての馬と狐が仲良く暮らしていた土地に戻したかったのかもしれない。まあ、人間に復讐した後の話かもしれないけど」

『そう考えると、どうにかして人間の姿を手に入れて、遊馬家の正当な後継者として名乗り上げようとしたのかもしれないわね』

「しかし、遊馬の姫を名乗るにはシンボルとなるかんざしがないと説得力がありません。真実はどうか分かりませんが、ただ、自分としては――」


 イツハは後ろを振り返る。

 後方には誰もいない学園がある。

 多くの生徒が通い、それぞれが青春を謳歌していたのだろう。

 死に絶えたような寂しさを振り払いつつ、彼は前進しながらもこう述べる。


「遊馬の家紋には馬と弓が描かれていました。馬を人間の道具であるかのような象徴を人の手から奪いたかったのかもしれません」

『そうなのかもね』


 ミュナの言葉を聞いていると、イツハは自身の目の前が明るくなっていくのに気が付いた。

 そうか、この試練もこれで終了なのだろう。

 彼はタブレットに『試練終了』と表示されたのを確認してから、その場で振り返りながらも手を大きく振る。


「視聴者の皆様。おかげさまで今回も無事に試練を攻略出来ました。応援ありがとうございます!」

『皆~! ありがとうね~』

『皆様。今後ともミュナ&イツハをよろしくお願いいたします』


 感謝の言葉を述べていると、イツハの視界が白一色に染まっていき――。

何とも後味の悪い結末でした。

ただ、天馬姫に僅かばかしの良心が残っていたおかげで、イツハが助かったのは事実です。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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