第二十三話 口惜しや
ついに泣き姫狐との決着となるのか!?
サブタイトルの時点でネタバレとなっておりますが、気にせず本編をご覧ください!
かの神は光と共にイツハの前に現れた。
陰鬱な空気を勢いよく吹き飛ばし、柔らかな雰囲気へと塗り替えてしまう。
「ミュナおばさん!」
久々のミュナの登場に、イツハは思わず喜びの声を上げる。
だが、感動の再会を味わっている時間はないのだ。
ミュナが現れたことで、泣き姫狐はその場で後ずさりしている。
本能でミュナを恐れているのか。
正しい反応なのだろうが、彼としてはあれほど恐ろしかった泣き姫狐が震えているのが信じられなかった。
「あらあら、これが泣き姫狐なのね」
今までのカメラ視点では狐の姿は見えていなかった。
ここに来てようやくミュナはご対面出来たのだが、特段驚く様子はない。
もしも泣き姫狐に攻撃が可能だったのならば、ミュナのスリッパの一撃で簡単に退治されるだろう。
「あっと、拾わなくちゃね」
泣き姫狐が強引に首を伸ばしてかんざしを咥えようとするよりも先に、ミュナはかんざしを拾い上げた。
正確にはその拾い上げるまで動作があまりにも速く、イツハが瞬きをしている間にミュナの手にかんざしが出現していた。
まるで手品でも見せられているかのような心境で、これには泣き姫狐も驚くしかないだろう。
「ごめんなさいね。このかんざしは、あなたには不要なのよ」
ミュナは謝りながらも、素早く何かを呟く。
神魂術を使ったのだろうか、突如かんざしが灰色の光に包まれる。
「あっ」
イツハは思わず声を上げる。
代々受け継がれてきた大切なかんざしのはずだ。
その金色の輝きはさながら栄華の象徴とも呼べる。
だが、神の前ではどのような歴史があろうとも吹けば飛ぶほど軽々しいものなのだ。
あっという間に灰と化してしまったかんざしを見ていると、彼はそんな感想を抱かずにいられなかった。
「ミュナおばさん?」
どうして、かんざしを灰にしてしまったのか。
すると、泣き姫狐が両眼を見開いて、ミュナを睨もうとする。
だが、やはり本能的に神への不敬を働くことは出来ないらしい。
泣き姫狐が悔しそうに天を仰ぐ一方で、天馬姫が泣き止んだことにイツハは気が付いた。
「こ、これは――」
イツハは目の前の光景に唖然とする。
何と、泣き姫狐と天馬姫の身体が徐々に分離していく。
天馬姫の虚ろな目に光が戻り、そして微笑む。
その安らかな笑顔を最後に、天馬姫の身体は大気に交じるかのように消え去ってしまった。
他方、泣き姫狐は苦しそうにもがくと、その身体はグズグズと溶けていき、やがて土に還るかの如く消え失せ、配下の狐達も同様に姿を消してしまった。
「一体、どうして……」
イツハがミュナの方に目線を移そうとするも、かの神はどこにもいなかった。
どうやら降臨のお札の効果時間が切れたようだ。
短い時間だったが、ミュナがいなければ危なかったということだけは彼にも理解できた。
『間一髪だったわね』
タブレットからミュナの声が聞こえて来たので、イツハはすかさずこう問いかける。
「ミュナおばさん。何故かんざしを灰にしてしまったのですか?」
『家紋の裏面に刻まれた文字を読んだんだけれども、そこにはね』
「そ、そこには?」
イツハが耳を澄ましていると、ミュナはこう答える。
その声色には、重い悲しみが込められていた。
『天馬姫と狐を呪う言葉がビッシリと書いてあったのよ……』
「の、呪う言葉、ですか?」
『どんな呪いなのかは分からないけれども、ただ、穢れを持ったかんざしが泣き姫狐と天馬姫の魂を呪いで縛っていたんじゃないかなって』
「呪いで縛る? 何故そんなことをする必要が……?」
『いっちゃん。狭い部屋に一人で閉じ込められるのと、気の合わない二人が一緒に閉じ込められるのって、どっちが嫌かしら?』
突然のクイズに、イツハは面食らう。
だが、かなり単純なクイズだ。
余程のひねくれ者でなければ、楽に正解出来るだろう。
「後者です」
『そうよね。相応の苦痛を与えたかったに違いないわ』
「苦痛を……。それで両者をかんざしで殺めて、骨と共にかんざしを埋めたのですか」
『かんざしを掘り起こしたことで封印が解かれてしまったのよ。呪いのせいで泣き姫狐と天馬姫が同化したと推測すると、多分合っていると思うわ』
イツハは絵本の内容を思い出す。
狐に頼っていた天馬姫にも非はあるものの、あまりにも悲しい最期だったのが伺える。
『いっちゃん。脱出はしないの?』
「え、そうですよね」
イツハがポケットから門の鍵を取り出していると、足元の灰の塊が視界に入る。
それは先程ミュナが灰にした天馬姫のかんざしだったものだ。
まだこの世に未練があるのか。
そう思うと、彼は虚しくなってしまう。
ふと、彼の手は動いた。
まるで、汗を拭うハンカチを取り出すかのような、ごく自然な動作で彼は鞘から剣を抜いていた。
そして、これまたごく自然に灰の塊にホフリの剣を突き立てた。
すると、塊は力尽きたかのように崩れていく。
どこからか吹いてきた風と共に散って行く灰を眺めていると、タブレットから声がした。
『いっちゃん?』
「あ、え、あれ? 自分は何を――」
イツハは我に返る。
どうして、わざわざ切ってしまったのだろうか。
剣を鞘に納めてから、彼は改めてポケットから門の鍵を取り出す。
「自分は何をしたかったのだろう……」
自分自身の行動に疑問を抱きながらも、イツハは鍵で門の錠前を外す。
重い門を押し開けると、そこに広がっていたのは――。
「バリケード?」
『あらあら、どうしてかしらね』
門を開けたというのに、易々と出してはくれないというのだろうか。
「ん?」
開いた門を振り返ると、門の外側に大量のお札が貼られている。
『えっと、見てみるわね~。悪霊退散とか、悪鬼封印、とか書いてあるわね』
「そうなんですか……。待ってください。バリケードと合わせて、それは誰かが学校を外から封鎖したということでしょうか?」
『学校内で心霊現象が多発したのが原因かと思われます』
「そうか。人形はあったけど人の姿はなかったものな……」
そんなとんでもない場所に自分は放り込まれたのだな……。
イツハは改めてバリケードを見てみると、簡易的な造りな上に有刺鉄線の巻き方もいい加減であった。
「ここから抜けられそうだな」
場所が出来ないため助走も出来ないが、イツハは有刺鉄線が途切れている間を抜けるようにバリケードを強引に飛び越えた。
「よしっと」
『お見事でございます』
幸いにもバリケードはイツハでもどうにか飛び越せる高さだった。
彼が背後を振り返ると、バリケードには何やら張り紙が貼られていることに気が付く。
『立ち入り禁止ですって』
「なるほど、一般人が入らないようにするためのバリケードだったんですね」
イツハが納得しながらも改めて前方を見てみると、そこには人の姿はいなかった。
その代わりに、それらはいた。
あるものは倒れ伏せており、あるものは木に寄り掛かったまま力無く項垂れていた。
まさに死屍累々といった様子で、イツハは思わず目を逸らしてしまう。
『いっちゃん。これって……』
「人形、ですね」
イツハは改めて人形に目をやる。
職員室で彼の手首をつかんだ人形とほぼ同じで、暗い場所で見れば人間と見間違えてしまうだろう。
『元となったのは――いえ、余計なことを言うのは止しておきましょう』
イツハとしても、マァルナの意見には同意だ。
悲しみを背負いすぎても良いことはないのだから。
「しかし、彼らは……」
人形達は何故こんな所にいるのだろうか。
まるで、校内に取り残された家族を待っているようだ。
だが、どの人形も誰かを待つのに疲れてしまったのだろうか。
今はただ自身の身体が朽ち果てていくのを待っているだけのようにしか見えない。
「はて、脱出しよう」
この先に行けばこの試練を攻略したことになるのだろうか。
イツハが先へ進もうとしたその瞬間、物音がした。
「な、何だ!?」
敵襲かと思い、イツハがとっさに音の方に目を向けるとそこには人形がいた。
ぐったりとした姿勢でゲートに寄り掛かっており、手には一冊の本を手にしている。
彼が恐る恐る近づくと人形は身体を小刻みに震わせ、手から本を取り落した。
「読め、ということか?」
人形は頷かない。
頷く力がもう残されていないのだろうか。
イツハは察しながらも本を手に取る。
紐で閉じられた本で、雨風のせいで表紙はボロボロだ。
イツハがページを開いてみると、何と書いてあるか読めないが、文字の筆跡は震えており、不安定な精神状態で書かれたということだけは彼にも理解できた。
「ミュナおばさん。見て貰ったもいいですか?」
『任せといて。ふんふん……』
ミュナが読み終わるまでイツハは待つことにした。
もしかすると、大したことは書いていないのかもしれない。
それにとっとと脱出しても構わないだろう。
明るくなった空を見上げながら彼がぼんやりと考えていると、やがてミュナがゆっくりと話し始めた。
『いっちゃん。思った以上に重要なことが書いてあったから視聴者のみんなと一緒に聞いてちょうだいね。モヤモヤした気分も少しは晴れるかもしれないから』
さて、無事に泣き姫狐を倒せたのですが、謎がまだまだ残っております。
是非とも次回をご覧ください。
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




