第二十一話 贄はここで朽ちる
ついに泣き姫狐と対峙することになってしまったイツハ。
果たして、イツハはどう動くのでしょうか?
『泣き姫狐』という名前にもう少し早く違和感を持つべきだったのかもしれない。
天馬姫が泣き虫なお姫様だからこそ、『泣き姫』と呼ばれていたのは理解できる。
ならば、どうして試練の名称が『泣き姫狐様の贄』となっていたのか。
『化け狐様の贄』という名称でも問題はないはずだ。
羽織っていた衣が落ちたことで、隠れていた泣き姫狐の胴体が露わになる。
それこそが、泣き姫狐という名称の真意でもあった。
「惨い……」
イツハは呻く。
ショックのあまりどう形容すればいいのか分からなかったが、ただやはり惨いという単調な表現がしっくりとくるのだ。
――それは虚ろな目をしていた。
生前はその美貌で周囲を虜にしていたのだろう。
だが、今のその顔は肉の張りついた仮面を被っているようにしか見えない。
――それはもがいていた。
彼女の伸ばした両腕は何かを掴もうと指を開いては閉じてをひたすら繰り返している。
大海で溺れた亡者もこのような行為を繰り返しているのだろうか。
――それは泣いていた
黒い髪を振り乱しながらも、それは泣いていた。
何度もすすり泣いていたのは、間違いなく彼女なのだろう。
ただ、どんなに泣いたところで、彼女を救うために剣を取る人間はいなかったのだろう。
「惨すぎる……」
――それは生えていた。
女性の上半身だけが狐の胴に埋め込まれており、あたかも接ぎ木でもされたかのようにも見えてしまう。
イツハは確信する。
これは間違いなく天馬姫の姿だと。
泣き姫狐は自身の胴に生えている天馬姫を見つめてから、改めてイツハに目線を移し替える。
「事情は知らないけれども、かんざしがどうしても欲しいのか……」
イツハが呟くと応えるかのように泣き姫狐は吠える一方、天馬姫は彼に向かって手を伸ばしている。
彼女は何を伝えようとしているのか。
彼が身構えていると泣き姫狐が襲い掛かってきた。
「くっ!」
前脚の一撃をどうにか回避しながらも、イツハはホフリの剣を鞘から抜こうとするも、試練のルール上敵対者に攻撃を加えることは出来ないことを思い出す。
「ど、どうすれば……」
『いっちゃん! 逃げましょ!』
「いえ、まだ自分に時間をください!」
泣き姫狐が低く吠えると、イツハの周囲に炎が舞い上がる。
「これは――!?」
『急に火が出たわね! 校舎でも見たわよ』
幻の炎かと思いきや、本物の炎も出現したようだ。
イツハの足元にある炎は熱くないのだが、背後から熱を帯びた風が吹いている。
「く……」
幸いにもイツハの周囲にいる狐達は襲い掛かってくる気配はない。
上司のお楽しみを邪魔してはならないという部下なりの配慮に見えてしまう。
「に、逃げ場がない!?」
罠と知りながらも幻の炎の中に逃げ込めばいいのか。
イツハはまたも襲い掛かってくる泣き姫狐の攻撃をかいくぐりながらも、必死に考える。
「このかんざしに、何か秘密があるのか?」
何故そう思ったのか。
天馬姫が伸ばした腕の先と、虚ろな目線は明らかにイツハの手にしていたかんざしへ向けられていた。
かんざしを渡して貰いたい、というのではない。
何故か、恐れを抱いているようにも見えたのだ。
「ミュナおばさん! マァルナ! このかんざしには何かとてつもない秘密が隠されている!」
イツハは叫ぶ。
確実な根拠はない。
ただ、彼は自身の直感を信じることにした。
『絵本によると、本来そのかんざしは魔除け代わりだったのよね』
『しかし、穢れによって魔除けとしての効力を失っており、そのためモクハンという僧侶が祠と共に埋めたのでございましたね』
「そ、そうですよね」
イツハが口にしていると、泣き姫狐が彼を噛み砕こうと大きく口を開いた。
「ミュナおばさん! そちらから炎のない地点は分かりますか!?」
『えっと、いっちゃんの左背面よ!』
イツハはとっさに指定された場所へと身を投げる。
やはり、幻の炎と共に現実の炎を出現させたようだ。
幻の炎がミュナ達から見えていなかったことを思い出せなければ危なかっただろう。
しかし、泣き姫狐はさらに猛攻を加えてくる。
イツハの動き回る姿を見て、ミュナはさらに指示をしてくる。
『いっちゃん! 左に二歩! そして後ろに四歩進んでちょうだい!』
「はい!」
イツハはステップを踏むようにしながらも、泣き姫狐の猛攻を避けていく。
その間、彼は考えた。
絵本の内容と実際の祠を目にして、明らかな矛盾がある。
「かんざしは、どうしてあの祠に埋められていたんだ?」
『かんざしを清めるってあったけど、本当かしら? ただ、狐を封印していたのは確実よね』
「しかし、今、泣き姫狐と天馬姫が同化しているんです」
『え、そうなの? もっと詳しく聞かせてちょうだい』
「いや、そうしたいのですが……」
鳴き姫狐が遊びは飽きたとばかりに高々と吠える。
すると、イツハの周囲に高熱を帯びた炎が立ちはだかった。
「時間がなさそうです。どうにか、時間を稼げれば――ん?」
門が近くにあるというのに脱出が出来ないなんて。
イツハが力なく笑ったその時だった。
彼は何かを踏みつけた。
とっさに自身の足元に目を向けた彼は――思わず笑ってしまった。
かんざしが鍵を握っているようですが、どうすればよいのでしょうか?
そして、最後にイツハは何を発見したのでしょうか?
手に汗握る緊張感を引き続きお楽しみください!
面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。
それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




