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第二十話 贄は見つけた

校長室に全ての謎を解くカギがあるのでしょうか?

試練もいよいよクライマックスが近づいております。

それでは、気になる本編をご覧ください。

 イツハは学園長室の前までやって来た。

 ごくりと息を呑んでから、彼は手にしていた鍵を鍵穴へと突き刺す。

 ゆっくりと回すと、やがてカチリという音と共に扉が開いた。

 その瞬間、彼は身体を滑り込ませるようにして部屋の中へと潜り込んだ。


「ここが学園長室……」


 イツハはタブレットのライトで室内を照らす。

 応接室を兼ねているらしく、部屋の中央には黒革のソファーが置かれ、壁には鹿の剥製や風景画が掛けられている。

 棚に飾られたトロフィーの輝きを横目に、書斎机にどしりと腰掛けていたのだろうか。

 彼は早速学園長の机を調べることにした。


『学園長が祠で何を見つけたのか。それを探すのが優先事項ね』

「はい。ん、これは――」


 木材に関しては詳しくはないが、良質な素材が使われているのだろう。

 そんなことを考えながらもイツハが机を漁っていると、引き出しの中から一冊の本を見つけた。


『お、早速収穫ありみたいね。えっと、タイトルは――我が栄光の生涯ですって』


 随分と大仰な内容だ。

 イツハはミュナ達に見えるようページをめくっていく。


『うーん、内容からすると日記ね。えっと、学園長は元々帝都の学校に勤めていたんだけれども、裏口入学の仲介を疑われて左遷されたんですって』

「う、裏口入学ですか」

『日記によると、袖の下で大儲けしていたのは本当のことって書いてあるわ』

「えぇ……」


 どうにも性根まで腐った人物のようだ。

 教育者としてのあるまじき一面を知り、イツハは嫌悪感で思わず日記から目を背けてしまう。


『イツハ様、今重要なのは最後の日付かと思われます』

「あ、そうか」


 イツハが最後のページを開こうとすると、ミュナがこんなことを口にする。


『そうよね。きっと、祠で手に入れたものについて自慢げに書いているに違いないわ』

「自慢げに?」

『ええ、そうよ。だって、そもそも日記って他人には見せない物でしょ』

「え、あ、はい」

『自分だけの記録だもの。日頃の鬱憤を晴らすようなことを書きたいでしょ。誰にも見せないのだから、なおさらよ』

「まあ、そ、そうですよね。こうやって、誰かに見られる訳はないと考えているでしょうし」

『しかし、私の知る限りでは日々の出来事を不特定多数に見られることで悦に浸る方もおります』

『え、そういうものなの?』


 ミュナの言っていることは間違ってはいないだろう。

 マァルナの言っていることも間違ってはいない。

 いずれにせよ、日々の記憶を綴る際には、常に誰かに見られた際のリスクを考えるべきなのかもしれない。


『読むわね~。う~ん、まずは愚痴が書いてあるわね』

「愚痴?」

『鍵を無くしてしまったんですって。合鍵があったからよかったものの、ゴロウダ教頭は減給処分せねばですって。酷いわね~』

「他人のせいにするなんて……」


 何ともまあ傲慢な性格なのだろう。

 散々苦労していたであろう教頭に同情しながらも、イツハはミュナの言葉を待つ。


『えっと、ついに天馬姫のかんざしを手に入れた。これでかんざし祭りの新たな目玉が出来た。地元の有力者に取り入る絶好の機会だ。帝都の学園の連中共を見返してやる、ですって』

「な――」


 イツハは言葉を失う。

 歴史の真実を追い求めるだとか、天馬姫の慰霊のためだとかではない。

 ただただ自身の私欲のためだけに祠を暴いたのだ。

 連帯責任として学園長以外にも被害者が出てしまっているのはあんまりな気がする。


「それでポスターでも堂々と宣伝していたのか」

『かんざしって、確か絵本に描いてあった物のことかしら?』

「恐らく、学園長が欲しかったのはかんざしだけなのでしょう。天馬姫様の遺骨も埋め直していました。もしかすると、かんざし祭り後に遺骨も見つけたとか言って、さらに知名度を得ようと思ったのでしょう」

『日記にも遺骨はどうしようか扱いに迷っているわね。それで肝心のかんざしは今どこにあるのかしら?』

「やはり、この部屋の中でしょう。もしかすると、泣き姫狐は祠にあったかんざしを探して貰いたかったのかな?」

『それならばそう言ってくれればいいのだけれども』


 果たして、人間に恨みを持つ狐と分かり合うことが出来るのかどうか。

 ともかくかんざしを探さなければとイツハは思い直し、引き出しを机から引っ張り出し、本棚に入っている本を全て引き出してみる。

 しかし、かんざしはどこにも見当たらない。


「参ったな……」


 イツハは机の中に押し込められていた書類を適当なところに置き、溜息を零していると何となく壁に掛けられた風景画が目に入る。


『綺麗な風景ね。夕焼けの丘ってとってもロマンチックだけども、何かおばさんは苦手かしらね』

「自分は嫌いではないですが。しかし、学園長がこんな風景画を見て心を落ち着かせているのでしょうかね」


 イツハは皮肉に笑いながらも、風景画に触れてみると妙なことに気が付いた。


「何だ?」


 風景画の後ろに何かが隠れているような。

 イツハが試しに風景画をどけてみると、壁に金庫が埋め込まれているのを発見した。


『いっちゃん。この中にありそう! うん、絶対あるんじゃないかしら!』

「は、はい。しかし……」


 イツハは改めて金庫に目をやる。

 鍵穴はなく、どうやらダイヤルを合わせれば扉が開く仕組みのようだ。


「でも、どうやって開ければ……。いや、待てよ」


 イツハはポケットの奥からメモを引っ張り出す。

 それは学び舎のガラクタから貰ったものだった。


「ミュナおばさん。このメモに何と書いてあるか見て貰っていいですか?」

『了解よ。えっと、まずは右に八、左に三ってあるわね』

『ダイヤルを回す方向でございますね』

「よかった! これならば――」


 イツハはミュナの指示通りにイツハはダイヤルを回していく。

 やがて、小気味いい音と共に金庫が開いた。

 彼は興奮を押し殺しながらも中を覗いてみる。


「ん、これか?」


 イツハは金庫から布を取り出す。

 彼がその布を広げると、その中央には一本軸のかんざしが包まれていた。


「これが、天馬姫のかんざしか……」


 土中に埋められていたというのに、その輝きはほぼ失われていない。

 金と銀を贅沢に使っており、馬と矢を組み合わせた家紋の細工には誰もが心を奪われるだろう。


『綺麗ね~』

「は、はい」


 芸術に疎いイツハでも、このかんざしが単なる高価なだけの装身具ではないことが理解できる。


『このかんざしを泣き姫狐に渡せば、脱出が出来るのかしら?』

「それはどうなのでしょうか? 最初から狐が自分達と敵対している以上、そう易々(やすやす)と脱出させて貰えるとは……」


 そもそも、四名の残されし者が狐によって悲惨な目に遭っている以上、媚びへつらって脱出するというのは如何なものなのだろうか。


「そう言えば、かんざしには魔除けの力があるとか」

『かんざしを使えば、泣き姫狐に対処出来る可能性がございます』

『そうかもね。ところで、扉から音が聞こえなかったかしら?』


 イツハは思わず扉に目を向ける。

 残されし者が他にいるはずがない。

 そして、再度聞こえた音はノックとは思えぬほど粗暴なものだった。


『イツハ様。逃げましょう。嫌な予感がいたします』

「逃げるって――」

『窓があるわよ』

「そ、そうか!」


 イツハがガラス窓を蹴破ると同時に、扉をぶち破って何かが侵入してくる。


「き、狐!?」


 イツハが後ろを振り向くと、そこには目を血走らせた狐の姿があった。

 まさか、無理矢理室内へとやって来るとは。

 窓から外へと飛び出した彼は全速力で走り出す。

 どこへ逃げればいいか分からない。

 だが、狐の興奮した様子から察するに、天馬姫のかんざしを見つけたことが奇襲のきっかけとなっているに違いないだろう。


「ん?」


 一先(ひとま)ず体育館に逃げ込もうとしたその矢先に、待っていましたとばかりに中から扉を突き破って狐が姿を現す。

 さも逃げ場所等どこにもないと主張しているかのようだ。


『いっちゃん。狐達に襲われているの?』

「は、はい!」


 どうやら、狐達が探していたのは天馬姫のかんざしで間違いないようだ。

 今の今までイツハ達は狐達に泳がされていただけに過ぎなかったらしい。


「くっ!」


 そう考えると、イツハ達が贄となる運命は変わらなかったのかもしれない。

 無性に腹立たしくなるも、イツハは今を生き延びるべく懸命に手足を動かす。

 やがて、何匹もの狐が彼を取り囲み、彼はひたすら前進する他に道がなかった。


「え、校門?」


 誘導されているのは分かっていたが、イツハは目の前にある校門を見て驚く。

 もしかして、このまま逃がしてくれるのかと思っていたが、そんな彼の期待を裏切るかの如く何かが眼前に躍り出る。


「な、泣き姫狐――!」


 イツハは思わず声に出す。

 狐達を束ねる首領は、イツハを睨みつけると、まるで何かを催促するかのように低く唸る。

 その唸り声に交じり、やはりすすり泣く声が聞こえてくる。

 まるでデュエットにでも興じているかのようで、恐怖を誘う演出としては実に適していた。


 ――持っているのは分かっている。

 ――早く出せ。


 その恨みで黒く淀んだ両眼は、確かにそう語っていた。


「だ、出すしかないのか……」


 イツハは周囲を見てみると、狐達に取り囲まれていた。

 逃げることは不可能だ。

 彼が他に出来ることと言えば、降臨のお札でミュナを呼び出すくらいだろう。

 やがて、しびれを切らしたのか、泣き姫狐が大きく吠える。

 すると、泣き姫狐の羽織っていた衣がずり落ちた。

 それを見た瞬間――イツハは我を忘れて叫んだ。

 自我が飛び、知性が決壊し、そして本能が産声を上げて暴れ出す。

 発狂する手前で彼はどうにか押しとどまり、そして改めて目の前の泣き姫狐を見据えた――。

泣き姫狐に追い込まれてしまったイツハ。

そして、最後にイツハが目にしてしまったものとは一体――!?

次回第四章第二十一話「贄はここで朽ちる」

絶対にお見逃しなく!


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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