第十九話 贄は逃れられない
まさか、チャシーが最初から門の鍵を持っていた?
狐だけでなく、複雑な人間の心理もまたイツハの行く手を遮るようです。
それでは、本編をどうぞ。
脱出するためには門の鍵が必要だ。
鍵さえあればすぐにでも脱出できる。
イツハはそう考えていた。
だが、チャシーが門の鍵を持っていたとなると疑問が残る。
「どうして、この鍵でさっさと脱出しなかったんだ?」
イツハは鉄製の鍵を眺める。
一部が欠けていて使えないといったこともなさそうだ。
『脱出が出来なかったのかしらね?』
『イツハ様。チャシー様が妙なことを言っていたのを覚えておりますか?』
「妙な事?」
そんな発言があったのだろうか。
イツハは首を傾げてから、マァルナからの正解を待つことにした。
『生物実習室についての話をされていた時、チャシー様は狐を何とかしないと脱出が出来ないと仰っておりました』
「そうだったかな? って、待てよ」
イツハは思い出し、チャシーの発言の真意に気づかされる。
もしや、チャシーはイツハと会う前から門の鍵を手にしていたのではないだろうか。
そしていざ脱出しようにも、何かに阻まれて出来なかった。
だからこそ、彼女はずっと脱出の妨げとなる狐を対処する方法を探していたのかもしれない。
「門の鍵があっても、それだけではダメなのか……」
イツハは呟きながらも、近くにある門と鍵を交互に見比べる。
錠前を開けてもいいんだよ、とばかりに鍵が鈍い輝きを放っているような気がした。
だが、そんなことをすれば狐達が現れて一斉に取り囲まれるのがオチだろう。
「ゲームか……」
イツハはギガントの言っていた言葉を思い出す。
脱出の鍵を手に入れたとしても、ボスを倒さないと脱出出来ないのもゲームのお約束なのかもしれない。
『いっちゃん? この後どうするの?』
「一度図書室へと戻ります。その後に学園長室を調べようと思います」
イツハは答えながらも、落ちていたかんざしも拾い上げる。
軽い点からすると、純金製ではないのだろう。
薄暗さに負けぬように光を放っているかんざしを見て、チャシーがルーロンの持っていた道具を使って完成させたのだなと推測した。
持っていても仕方ないため、彼はかんざしを地面へ置いてから再び校舎へと戻ることにした。
狐達は今もどこかで見ているのだろうか。
そして、してはならない行動を取った瞬間に襲い掛かってくるに違いない。
彼はそう考えながらも慎重に慎重を重ねて足を動かし、どうにか図書室へと辿り着いた。
「さて……」
先程来た時は詳しく調べる余裕はなかった。
改めて見てみるとチャシーが調べたのか、本がそこかしこに散らばっている。
『急いで探したみたいね』
「そうみたいですね」
時間がなかったのか、それとも焦りか、はたまた苛立ちのせいなのか。
乱雑な扱いをされている本の中で、イツハは机の上に丁寧に置かれている本に気が付く。
「これは……絵本?」
文字は何と書いてあるか分からないが、イツハはその本の前半部分が強引に破り取られていることに気が付いた。
「ミュナおばさん。お願いします」
『了解よ~。読み終えたら合図を送るからページをめくってね』
「かしこまりました」
イツハはミュナの合図に合わせ絵本をめくっていく。
絵を見ているだけだと、綺麗な衣装を来た女性が出てくる。
美しい顔が段々と恐ろしく変貌していき、恐らくは何かしらの理由で変貌してしまった天馬姫なのだろう。
子どもが読んでいてトラウマになりそうだと彼が思っていると、絵本の中に白い装束を身に纏った男が現れる。
次のページでは男は槍らしき物を持って狐達と戦っている。
天馬姫は大きな狐の上に跨っており、どうやら完全に心を乗っ取られてしまったようだ。
男は満身創痍になりながらも狐を打倒し、そして天馬姫からかんざしを奪い取っていた。
最後のページには祠にかんざしが納められている絵が記載されており、どうやらこれでめでたしめでたしのようだ。
『なるほどね~。いっちゃん、要約するわね』
「お願いします」
イツハはミュナの話に耳を傾ける。
ミュナの要約によると、狐の首領である化け狐は天馬姫の心を完全に乗っ取り、周囲に災いをもたらそうとしていた。
それを阻止すべく高名な僧侶が現れた。
僧侶の名はモクハン。
モクハンは死闘の末に化け狐を打ち倒し、天馬姫からかんざしを取り上げた。
本来であればかんざしは魔除けだったのだが、穢れによって泣き姫の心に悪影響を与えてしまっていた。
その後、正気に戻った天馬姫は行方不明になったそうだ。
モクハンはかんざしを清めるべく祠を建て、誰にも掘り返されないように山の木の根元へ埋めたらしい。
地元の民は天馬姫と土地を奪われて狐達を哀れんだ。
そして、慰霊の意味を込めてかんざしを供えるようになった。
元々は慰霊祭だったのだが、時代の流れと共にかんざし祭りという催しとなりました、とのことだ。
「そうか……」
ふと、イツハは机の上に置かれていた工具の存在に気つく。
恐らくはチャシーが技術工作室で入手して、かんざしを完成させるために使用したのだろう。
『どうしたの?』
「チャシーの行動の意味が何となく理解出来ました。チャシーはかんざしを供えれば狐が許してくれると考えていたんでしょう。実際に学校の玄関口に慰霊碑がありました」
ふと、イツハはテープの昔話を思い出す。
かつて、狐が馬のために建てた塚があったらしく、それを人間に壊されたのも狐達を復讐へと駆りたてた要因の一つのはずだ。
しかし、塚を建て直すというのも塚の情報が少ない以上は不可能だろう。
『確かにございました。かつて村で行われていたかんざし祭りは、戦争で村が消滅した後でもその名残として学校行事となったということでございますね』
「そうだと思うよ」
『なるほどね。でも、狐は許してくれなかったのよね』
「はい。チャシーの推理は概ね当たっていたと思います。ただ、実際に祠を見てみたところ、絵本とは大きく違う点がありました」
『大きく違う点? えっと、ヒントを貰ってもいいかしら?』
ミュナの発言を受けて、イツハは呼吸を整えてから話を始める。
「実際の祠には、どういう訳だか狐と天馬姫の骨が埋めてありました。かんざしを清めるだけならば一緒に埋める必要はないですし、そもそも絵本だと天馬姫は行方不明になったはずです」
『絵本に矛盾があるということでございますか?』
「うん。それに祠にかんざしもなかった。この矛盾を解くためには――」
イツハはポケットから鍵を取り出す。
彼は学園長室の鍵を見つめ、そして力強く握りしめた。
学園長室に果たして何があるのか。
「ミュナおばさん、マァルナ。それに視聴者の皆様。自分はこれから学園長室へと向かいます」
『学園長室……。絶対に怪しいわよね!』
イツハは逸る気持ちを抑えながらも、図書室をあとにした――。
絵本の内容の矛盾点は何を意味するのでしょうか?
次回は重要な場所と思われる学園長室の探索です。
是非ともご覧ください。
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




