第十七話 贄は哀れなり
※注意
今回は怖い描写がございますので、苦手な方はご注意ください。
それでは本編をどうぞ。
イツハはピタリと足を止めた。
すると、前方にいたルーロンもまた歩みを止める。
不自然なことに、ルーロンは彼の方を一切振り返ろうとはしない。
それが、彼の恐怖心を否応なしに掻き立てる。
何か尋ねてくれればいいのに、彼女は無言のまま突っ立っていた。
少し項垂れており、まるで何かを待っているようにすら見えてしまう。
このまま逃げてしまえばいいというのに、彼にはそれが出来なかった。
恐怖が脳の回路を焼き切ってしまったかのようで、彼は問いかけてしまう。
「ルーロン、さん……?」
イツハの声を聞き、ルーロンは――振り向いた。
顔が彼の方を向く。
蛇の入れ墨の入った顔はまさしくルーロンのものに間違いない。
ただ、彼は衝撃のあまり顎が外れそうになった。
今、自分は相当酷い顔をしているのだろう。
だが、ショックで倒れるよりはまだマシだった。
「あ、あ……」
どうして自分は正気を保つことが出来ているのか分からない。
イツハは後ずさりすると、ルーロンも後退する。
彼女の顔は確かに彼の方を向いていた。
向いているのだ――首を180度捻じ曲げて。
「ひっ――!?」
冷静になればなるほど、恐怖が毒のごとく全身に回り始める。
普通ならば、死んでいるはずだ。
だが、ルーロンは直立している。
イツハが逃げ出そうとしたその瞬間、彼女の目は細くなった。
細く釣り上がり、人相が変貌し、それはまるで――。
「狐――!?」
イツハが駆けだすと同時に、ルーロンに化けたそれは追ってくる。
彼を撮影しているカメラでは狐の姿は映らない。
だからこそ、ミュナがあのようなメッセージを送ってきたのだろう。
彼は叫びながらも、全速力で足を動かす。
疲れてヘトヘトだということも忘れ、彼は走り続けた。
「くっ、どこに逃げれば……」
渡り廊下から一階の西棟へと辿り着くも、まだ追ってきている。
狐に姿を変え、血走った眼でイツハを睨んでいる。
ともかく、チャシーがいる図書室に逃げる訳にはいかない。
彼は西棟の二階へと急いだ。
階段を段飛ばしで駆けあがるも、狐を振り切れそうにない。
「か、隠れる場所はどこかに……」
イツハは呟いていると、彼は発見してしまった。
隠れるには絶好の場所だ。
三つ並んでいるロッカーの中で、一番奥のロッカーの扉を開けて彼はその中に身を隠す。
「こ、これで……」
何と自分は運がいいのだろうか。
イツハは自分の日頃の行いの良さに感謝しながらも、大きく溜め息を零す。
久しぶりに心が落ち着き、彼は目から涙が出てくるのを感じる。
「音?」
イツハはまさかと思い耳を澄ますと、その音はすぐ隣から聞こえた。
金属板を強引に叩きつける音が聞こえ、そして何か重い物が勢いよく倒れる音だ。
耳障りな金属音と何かを力づくでこじ開ける音は、まさに飢えた獣が金属製の籠と格闘しているかのようだ。
何故そんなことをするのか。
それは閉じ込められた哀れな小鳥の肉を貪るためだろう。
そう、彼が今潜んでいるのは、脆弱な鳥籠に過ぎないのだ。
「あ――」
イツハは思わず笑ってしまう。
自分の間抜けさに笑う他なかったのだ。
もう一度、何かの倒れる音がした。
哀れな三兄弟のロッカーのうち、残されたのはイツハの隠れているロッカーのみとなった。
「ど、どうすれば……」
ミュナを呼ぶ降臨のお札を取り出せばいいのだが、パニックに陥るイツハはそのことが頭からすっかり抜け落ちていた。
彼が脱出しようか迷っているうちに、乱暴なノックがした。
それは早く出て来いという催促であり、言い換えるならば通告でもあった。
――お前に逃げ場はない。
そんな通告を聞き、イツハの視界は真っ白に染まった――。
大ピンチに陥ったイツハ。
果たして、彼は危機を乗り越えることが出来るのでしょうか?
次回、第十八話「贄は不憫なり」
どうぞご期待ください!
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




