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第十六話 贄は掘り当てた

前回、学校の裏山にて何かを発見したイツハ。

さて、脱出の手がかりとなるものが見つかったのでしょうか?

それでは気になる本編をどうぞご覧ください。

 イツハは叫んでしまった。

 その声に反応し、ギガントが駆け寄ってくる。


「おい! どうした!?」

「骨が……」

「また骨かよ! 慣れろよ、って――」


 ギガントはイツハの掘り出したものを目にして、甲高い叫び声を上げた。


「人間の頭蓋骨じゃねえか!?」

「土の中に埋められていたんだ。あ、頭蓋骨の額部分に穴が空いている……」

「それが致命傷だったのかもな。しかし、誰の骨なんだ?」

「うーん……」

『イツハ様。よろしいでしょうか?』


 タブレットからマァルナの声がした。

 イツハは慌ててタブレットのスピーカーを自身の耳へと近づける。


「何かあったのかい?」

『ミュナ様が部屋をどうにか脱出しようとしております』

「えぇ……」


 ミュナの性格からすると、今のイツハの状況を目にして、居ても立っても居られなくなったのだろう。

 もし仮にミュナが助けに来てくれたら、泣き姫狐も簡単に追い払えてしまうに違いない。


『イツハ様。お骨の近くに何やら黒い物が埋まってございませんか?』

「えっと、ああ、あるね」

『ご確認くださいませ』


 イツハが掘り出してみると、真っ黒な小箱を発見した。

 滑らかな光沢をしており、手のひらサイズの小物入れらしい。

 中を開けてみると、残念ながら何も入っていなかった。


「イツハ! そりゃあ、印籠じゃねえか!」

「いんろう?」

「知らないのかよ! 王者のみが持てる証だぜ!」


 ギガントの興奮している様子からすると凄い物なのだろう。


『私も知っているわよ~』

『私も知ってございます』

「え」


 どうやらかなりメジャーな存在らしい。

 一体、どういう力を秘めているのだろうか。


「ところでイツハ。さっきからミュナ様とは別の素敵なレディーの声が聞こえているが、誰なんだよ」

「え、ああ。マァルナといって――」


 イツハがマァルナと出会った経緯を簡単に説明する。

 すると、ギガントは太い眉を吊り上げてからイツハを睨みつける。


「てめえだけずるいじゃねえかよ!」

「いや、そう言われましても……」

「くそっ! 俺も絶対見つけてやるからな!」


 怒気を含んだギガントから目を逸らしていると、イツハは印籠に変わった模様があることに気が付いた。

 年月の経過のせいか模様は薄くなっており、彼が目を凝らして見てみると――。


「お、印籠に馬と矢の合わさったマークがある」

「そりゃあ、家紋だ。待てよ、学園長が言っていた遊馬家の家紋じゃねえか!」

「ということは、もしかすると、この骨は天馬姫かもしれないってこと?」

「でもよ、歴史的にかなり重要なものだぜ。それを埋めておくなんざ……」


 ギガントはふと考え込んでから、何かを思い出したのか自身の指を鳴らす。


「そう言えば、探索中にポスターを見つけてよ」

「ポスター? それってかんざし祭りのもの?」

「ああ、そうだ。玄関の所に一番大きなポスターがあってよ、その中に大きく『今回のかんざし祭りは特別です。秘蔵の品が登場!?』と書いてあったらしいぜ」

「今回だけ特別で、秘蔵の品……。もしかして、学園長が見つけた物と関係があるのかな?」

「ともかく、この鍵で分かるさ」


 そう言いながらも、ギガントは手にしていた鍵をイツハへと見せつける。


「え、それは?」

「さっきそこで拾ったんだ。トレン先生が言うには、これは学園長室の鍵だとよ」

「校門の鍵じゃないのか……」

「そんなに世の中楽じゃねえぜ。こういうのはボスを倒さないと脱出の鍵は手に入らないもんさ。ゲームのお約束さ」

「ゲームか……」

「そして、この鍵さえあれば大きく前進さ。攻略の一番乗りは俺様よ! というわけで、じゃあな!」


 そう言うと、ギガントはいきなりその場から駆け出した。

 余裕があるのか、ポケットから干し肉の入った新しい袋を取り出している。


「え!?」


 イツハは驚く。

 暗いだけでなく、足場も悪い場所を全力で疾走するとは。

 ギガントもそのことを分かっているはずだ。

 だが、彼は速度を落とすことなく山道を下っている。


「この勝負、俺の勝ちだ! そして、俺もきゃわいい機械人形の女の子をゲットしてやるさ!」

「試練の攻略じゃなくて、そっちが本命!?」


 イツハもその後を追いかけるが、ライトで照らさないと進むのは危険だ。

 当然、ギガントとの差も開く一方で、追いついたからと言って無理矢理鍵を奪うというのも人として問題があるだろう。


「くっ……」


 最初から皆で協力して試練を攻略するという考えが甘かった。

 イツハは自分の未熟さを嘆きながらも、必死に脚を動かす。


「しかし、ギガントの速さの秘密は――はっ!?」


 イツハは思い返す。

 ギガントは降臨のお札は手に入らなかったと言っていた。

 最初から抜け駆けをする算段ならば、わざわざ自分が不利であるという手札を皆へ公開しつつも、切り札は隠しておいても何ら不思議ではない。

 そう考えると、ギガントは祝福の器をいくつか手に入れていたのかもしれない。

 夜目が利くようになる技能や足場が悪い場所でも進める技能があったとしても何らおかしくはないだろう。

 イツハが落胆しているとタブレットから声がするものの、今の彼に返事をする精神的な余裕はなかった。

 疲労と嘆きを吐き出すように彼が溜息を零していると、どこからか野太い声がした。


「え、誰の声だ?」


 声は前方から聞こえた。

 ならば、声の主はギガントに違いないだろう。

 イツハは慎重に山道を下っていき、暫くすると彼はいた。


「なあ、おい! 来るなよ!」


 ギガントの前方には狐がいた。

 彼からすると、煙にしか見えていないようだ。


「ギガント!?」

「イツハ、俺を助ける必要はねえぜ! 非情になれ! 俺からのアドバイスだぜ!」


 ギガントは笑っていた。

 その(いさぎよ)い笑顔に、イツハは困惑した。

 恐怖を微塵も感じていないと言いたいのだろうが、イツハはまたも気が付いてしまった。

 ギガントの顔は青かった。

 まるで血を抜かれてしまったかのようで、それでも空元気(からげんき)で振舞うギガントを見ていると、イツハは苦しくて仕方なかった。

 やがて、狐は容赦なくギガントの喉元へと牙を突き立てる。

 イツハが制止しようと手を伸ばそうとすると、狐と目が合った。


 ――邪魔をするな。


 雲った目はそんなことを告げていた。

 睨まれたイツハは怯んでしまう。

 心中で自分の不甲斐なさに舌打ちをしながらも、彼が目を開くと、そこには――。


「ギガント!?」


 狐の姿は既にどこにもいなかった。

 その代わりにギガントが地面に倒れ伏せていた。

 喉から血が出ており、彼の虚ろな両眼は今まさに生死の境目を彷徨っている最中のようだ。


「ギガント! しっかりするんだ!」


 イツハが叫んでいると、これまた唐突に準天使達が空から舞い降りて来た。

 機械的な動作で手際良く止血を行い、傷の手当てを終えると即座にギガントを担ぎ上げ、そしてあっという間に空の彼方へと連れ去ってしまった。


「ギガント……」


 戦友というほど仲が良い訳でもなく、どちらかというと敵対関係にある。

 それでも、悪人ではない。

 イツハはそう断言出来る。


「しかし、どうしてギガントは襲われたんだ?」


 よくよく考えると、祠周辺から出たすぐの場所で襲ってきてもおかしくはない。

 イツハが首を捻っていると、タブレットが微振動する。


「しまった……」


 放置していたことに、ミュナ達も怒っているに違いない。

 イツハは慌ててこう答える。


「ごめんなさい、ミュナおばさん」

『気にしないでちょうだい。いっちゃん。落ちている袋を拾って貰っていい?』


 袋とは恐らくギガントが持っていたものだろう。

 複数枚あるビニール製の袋をイツハが拾い上げると、袋の真ん中に短く何かが書いてある。


『袋に書いてあるのは記号で、袋ごとに別々の記号になっているわ。何の干し肉かは分からないわね~』

『干し肉を食べたことが、狐を怒らせたのでしょうか?』

「いや、それはないと思うよ。学園内でも食べていたし……」


 そこまで考えて、イツハはふと思い返す。

 狐を怒らせるものとは何か。

 今までの調査で馬の標本を触れたのが原因で狐を怒らせたのは分かる。

 まさかと思い、彼は持っていた袋を見比べる。

 記号が違うということは、袋によって干し肉の種類が違っていたということか。

 そこまで考え、彼はよもやと思った。


「まさか、干し肉の中に馬肉を使った物があったのでは?」

『あ、そうなのかも』

『ギガント様がそれを食べてしまったからこそ狐が襲い掛かったということでしょうか』

「確かに……」

『それと思い出したのですが、音楽室の弦楽器の弓も不自然と無事でございました』


 そうだったかな。

 驚きと困惑と恐怖の連続のため、イツハは自身の記憶に自信がなかった。


『弦楽器の弓毛は馬の尾の毛で作られております』

「そうなの? だから、弓だけ無事だったのか……」


 そのことを考えると、やはり狐は馬を今でも友と考えており、傷つける者には容赦をしないのだろう。


「自分も気を付けないと……。そうだ」


 イツハはギガントが倒れていた場所を注視する。

 そこには学園長室の鍵が落ちており、彼は落ちた干し肉に触れないよう気を付けながらも鍵を拾い上げる。


「これで……」


 学園長室には恐らく重大な秘密が眠っているに違いない。

 イツハはチャシーの安否も気になり、急いで学園へと戻らなければと決意を固める。

 その道中、彼を睨む視線がますます増えてきているような気がした。

 隙あらば襲い掛かってくるのだろう。

 彼は生きた心地のしないまま進んでいくと、ようやく学園へと辿り着くことが出来た。


「も、戻って来られた……」


 イツハは肩で息をしながらも、中庭へと向かう。


『いっちゃん。大丈夫?』

「だ、大丈夫です」


 ミュナに返事をしながらも、イツハは次の自分の目的を見失わないよう気を付ける。

 このまま西棟の図書室にいるチャシーの所へ向かわなければ。

 だが、ギガントが棄権してしまったことを告げるのは、彼としても心苦しかった。


「さてと、あれ?」


 イツハは西棟へ向かおうとすると、東棟へ向かおうとしている人影を見つける。

 後ろ姿しか見えないが、緑色のロングヘアは間違いなく――。


「ルーロンさん?」


 まさか、ルーロンが棄権していなかったとは。

 イツハは喜びながらも、渡り廊下を進んでいるルーロンの後を追いかける。


「無事だったんですね!?」


 イツハは自身の疲れも忘れて、大きな声を上げる。

 当然、ルーロンの耳にも届いているはずだ。

 だが、彼女は振り返ろうとしもしない。


「え、ルーロンさん?」


 もしかして、怒っているのだろうか。

 無理もない話だ。

 イツハは申し訳なさそうに声を出す。


「す、すみません……。あの時は、助けられなくて……」


 イツハが頭を下げていると、言葉が返ってきた。


「なあ、どうして人間って愚かなんだろうな」

「え?」


 ルーロンはその場に立ち止まり、そんなことを呟いている。

 イツハは返答に困った。


「えっと、それは……」

「天馬姫もさ、本当に踏んだり蹴ったりさ」

「え、天馬姫? 急に何を?」


 イツハは困惑する。

 もしかして、意趣(いしゅ)返しなのだろうか。


「笑える話さ。誰かを犠牲にしても、結局蘇ってしまうんだからさ」


 ルーロンはクスクスと笑い声を上げながらも、東棟へと向かって歩いていく。


「待ってください!」


 イツハは追いかけようとする。

 その瞬間、タブレットからミュナの声がした。

 小さな声だったが、彼は聞き逃さなかった。

 そして、その言葉の意味を脳内で反芻(はんすう)していると、彼は思わずタブレットを手から落としそうになってしまう。

 短い言葉ではあったが、肝を冷やすには十分だった。

 彼はもう一度、ミュナの言葉を思い出す。

 かの神は、確かにこう問うた。


 ――いっちゃん。誰とお話をしているの?

まさかのギガントの裏切り。

そして、ルーロンの登場。

一体、何が起きているのでしょうか?

ますます緊迫する物語をお楽しみください。


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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