第十四話 贄は山に
前回、皆で図書室を探索しようと提案した中、イツハが自分は裏山へ行こうと発言したところで話が終わっていました。
今回はその理由が明かされますのでお楽しみに。
「裏山? どうして?」
「さっきの映像には何か重大な情報があるんじゃないかと思ったんだ」
「だから、どうして裏山に行こうって話なんだ?」
早く、そして分かりやすく説明しろとばかりにギガントが急かしてくる。
イツハは頭を下げてからこう返した。
「ごめん。言い忘れていたんだけども、生物実習室を探していたら、学園新聞を見つけたんだ。その中に、学園の裏山で土砂崩れがあったと書かれていたんだ」
「裏山で土砂崩れがあったんだ!」
「さっきの映像も、大雨で土が流されたからこそ何かを発見した感じだったよな?」
「うん。封印がどうのこうの言っていたけど、何か関係があるのかな?」
「今もその元凶は、裏山にあるかもしれないの?」
チャシーの言葉に、イツハは顔を顰める。
「断言は出来ないよ。でも、行ってみる価値はあると思うんだ」
「確かにな。俺も、天馬姫伝説って言葉も意味があると思うぜ」
「え、どうして?」
「実はよ、探索中に絵本を見つけたんだ。タイトルは分からなかったがよ、遊馬のお城に天馬姫というお姫様がいたって話なんだ。ただ、泣き虫だから、泣き姫とも呼ばれていたらしいぜ」
「泣き姫……」
泣き姫狐ではなく、泣き姫の伝説なのか。
イツハは首を傾げていると、ギガントが深呼吸をしてから語り出す。
「ある時、天馬姫のいた城は敵の兵士に包囲されちまうんだ」
「え」
イツハは聞いたことのある内容に驚くも、今はギガントの話に耳を傾けることにした。
「家来は敵に掴まり、困った天馬姫は天に祈りを捧げたと」
「それから、どうしたの?」
「すると、奇妙な女性がどこからともなく現れ、天馬姫に対してこう言う。逃がしてあげるから、その代わりに一日だけ心を貸してくれないかと」
「もしかして、そ、その女性って狐が化けていたんじゃ?」
チャシーが慌てる中、イツハは彼女を制止させる。
「ギガント、続けて貰っていいかな?」
「お、おうよ。天馬姫はその条件に乗ると、いつの間にか城から脱出していたらしい。その後生き延びた家来達と合流したが、どうしてお前だけ生き残ったのかと厄介がられていたと」
「それは酷いな……」
「その後、天馬姫は謎の女性と接触する。誰からも馬鹿にされないようにしてやると言われたそうだ」
「確か……」
イツハは思い出す。
教壇の下敷きになっていたページには城を脱出した後、天馬姫の様子が変わってしまったとあった。
「それで、どうなったの?」
「また心を借りる代わりに願いを叶えてやると言われたそうだ。天馬姫はそれに承諾しちまう。謎の女の狙いは天馬姫の心を完全に奪うことだが、それは難しかった」
「どうして?」
「天馬姫が大切に身に着けている代々受け継がれているかんざしがあってな。それには魔除けの力があるそうなんだ。だから、一時的にしか心を奪えなかった。それから天馬姫は不思議な力を引き起こすことで、家来達から畏怖の目で見られるようになったそうだ」
イツハはその光景を想像して小さく身震いする。
超常的な力で周りを怯えさせていたということだ。
刃物を振り回すよりも恐ろしいに違いない。
「それから、天馬姫は軍議にも積極的に進言するようになり、戦でも指揮を執るようになった。天馬姫の指揮のおかげで軍は連戦連勝して領土も増やしていった。そして、天馬姫がこのぐらいで満足というところで、謎の女にもう心を貸さないと言ったそうなんだが……」
「え、その後は?」
「悪いが、実は絵本の前半部分しか見つからなかった」
「肝心な部分が分からないのは残念だね」
「まあ、絵本だからよ。真に受けるのも危ねえが、これが天馬姫伝説とやらに間違いなく関係しているぜ」
「自分も学園の歴史の本の一部分を見つけたのですが、それと一致している部分ありますね」
そうなると、絵本が単なる子供向けの作り話と切り捨てる訳にもいかない。
だが、鵜呑みにするのも危険だろう。
イツハが考え込んでいると、ギガントが拳を固めてこう言った。
「よし、早速裏山に行こうぜ」
「え、私も裏山に行くの?」
チャシーはビクリと身を震わせる。
その怯えた顔を目にして、ギガントはとっさにこう言い直す。
「いや、俺とイツハが裏山、それでチャシーちゃんは図書室を調べてくれ」
「え、私は図書室でいいの?」
「図書室も安全とは断言出来ないけど……」
「その、降臨のお札をもう一枚持っているから、私は図書室でもいいよ?」
「よし、決まりだな。裏山への道は何となく分かるぜ。中庭にそれらしき道があったからな」
「中庭からか。行くしかないんだよな……」
イツハは改めて自分が危険な場所に行くのだと確信する。
映像を見た限り、裏山は隠れ場所の宝庫のようだ。
それこそ、狐達が住み着いていてもおかしくはないだろう。
「おう、とっとと行くぞ」
「あ、はい」
ギガントに肩を押され、イツハは保健室を抜け出る。
「気を付けてね」
「おう!」
チャシーと別れて、イツハ達は中庭へと向かう。
いつどこから狐達が襲い掛かってくるのだろうか。
そう思うと、二人の足取りは重かった。
「なあ、あの噴水目掛けて三階から男が落ちたんだよな……」
「う、うん」
イツハは中庭にある噴水を見つめる。
その水面は緑色に濁っており、藻が湧いているのが見て取れた。
「しかし……」
イツハの脳裏に、三階の渡り廊下から男が飛び降りた光景が蘇る。
男はあんなに必死に逃げたというのに、結局狐に追い詰められてしまった。
被食者の末路というのはああも悲しいものなのか。
「ここから中庭を抜けられそうだぜ」
ギガントが指差した方を見ると、噴水の後方に鉄製の小さな門がある。
幸いなことに鍵は掛かっておらず、イツハはその門を押し開く。
学校の裏手側へと繋がっているらしく物置の脇を抜けると、舗装されていない道が広がっていた。
「裏山か……」
「まったく、嫌な試練だぜ。化け物の相手だけでなく、山歩きもさせられるんだからな」
ギガントは吐き捨てながらも、ポケットから干し肉の入った袋を取り出す。
「ギガント。ここから先は注意しないと」
「言われなくても分かっているっての」
ギガントが答える最中、タブレットからミュナ達の声が聞こえる。
『いっちゃん。無理はしないでちょうだいね』
『イツハ様。ご武運を』
さっきから静かにしていたのは、ギガントとチャシーとの会話を邪魔したくなかったのだろう。
イツハはミュナ達の思いを無駄にしないよう、砂利の道を進んでいく。
その最中、彼は斜面に石垣の残骸らしき物を見つける。
「もしかするとよ、この辺りに昔城があったんじゃねえかな」
干し肉を齧りながらも、ギガントはそんな感想を漏らしている。
イツハはふと考える。
平地には野生の馬が住み、敵の侵略しにくい山も近くにある。
そう考えると、遊馬の土地は軍事的な拠点として大いに有用だったのだろう。
「争いか……」
イツハは小さく独り言ちる。
結局、人間のつまらない大儀のために、何かが犠牲にならざるを得ないようだ。
彼はそう考えつつも、裏山の奥へ奥へと進んでいった……。
裏山へと向かって行ったイツハ達。
脱出の手がかりは果たして見つかるのでしょうか?
それでは次回をご期待ください。
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




