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第十二話 贄は火に入る

チャシー達の様子を見るべく、三階へと向かったイツハ。

しかし、何より怪しい気配が……。

さて、それでは本編をどうぞ。

 明るい。

 輝いている。

 眩い。

 そんな言葉がイツハの頭の中で並ぶ。

 どちらというとポジティブな単語のはずだ。

 だが、目の前の光景を改めてみると彼は首を傾げざるを得なかった。


「燃えて、いるんだよな?」


 炎の揺らめきというのはどうしてこうも蠱惑(こわく)的なのだろうか。

 イツハが辿り着いた東棟三階の廊下は一面の火が踊り狂っていた。

 本当に燃えている訳ではないらしく、熱くもなければ煙が充満しているという訳でもない。

 パチパチと木片の爆ぜる音が響く最中、イツハはもしやと思ってミュナに尋ねた。


「ミュナおばさん。廊下はどのように見えていますか?」

『え? 暗くて何か出てきそうな廊下って感じかしら?』


 イツハを撮影しているカメラ視点からすると、炎は見えていないようだ。

 となると、今彼の目の前で燃え盛る炎と音は心霊現象の類なのだろうか。


「実際に火が出ていたら、心霊というよりも超常現象なのか?」


 火に対してトラウマを持つ者ならば、この廊下を歩くことすらままならないだろう。

 イツハの視界の中には獲物を狙う蛇の舌のごとく蠢く炎がチラつく。

 突然何者かに襲撃されたら、即座に反応出来るかどうかすら怪しい。


「ルーロンさんとチャシーさんはどこに行ってしまったのか?」


 小声で囁きつつも、イツハは近くにあった部屋の扉を開ける。

 そこには火の手はなかったものの、机の並ぶ教室がそこにあった。


「二人は……いないな」


 ゆっくりと教室を探索している暇もない。

 教室を出ると、ミュナからの通話が聞こえる。


『いっちゃん、廊下の手前から2-1教室、2-2教室、2-3教室、そして歴史資料室があるわ』

「ありがとうございます。歴史資料室が怪しいですね」


 イツハは廊下の最奥へと目を向ける。

 優先的に情報を得るのであれば、歴史資料室を探すべきだろうし、ルーロン達も探している可能性が高い。

 しかし、どうにも嫌な予感がする。

 センスの技能のおかげなのだろうかは分からないが、イツハはじっと炎に包まれた廊下を睨んでいると――。


「……やはりか」


 炎のカーテンに隠れるかのように、それはいた。

 ほっそりとした顔立ちにギラリと輝く両眼。

 花模様の付いた衣を胴体に羽織っていた。

 もしや、この炎は姿を隠すための幻なのかもしれない。

 そして……。


「泣き声なのか?」


 火花の散る音に隠れて聞こえにくかったが、イツハには聞き覚えのある泣き声が微かにした。

 狐自体は口を動かす様子はないが、もしかするとこれが由来なのかもしれない。


「これが、泣き姫狐か……」


 やはり、泣き姫狐が手下の狐達を束ねているのだろう。

 そして、彼らの首領がここにいる以上、重要な情報が隠されているに違いない。


「しかし……」


 ルーロンとチャシーは他の教室を探しているのだろうか。

 イツハが2-2教室を調べようと思ったその瞬間だった。


「お願いしますねー!」


 女性の勢いのある叫びが廊下の奥から聞こえて来た。

 まさかと思い、イツハがとっさに声の方に目を向けると――。


「え」


 そこには奇妙な男の姿があった。

 頭髪は爆発にでも巻き込まれたかのようにチリチリになっており、ツナギを着ている。

 他にも参加者がいたのかと思ったが、男の隣にはルーロンとチャシーの姿があった。


「まさか?」


 イツハはルーロンとチャシーのどちらかが神を一時的に呼び出す降臨のお札を使ったのだと確信した。

 当然、泣き姫狐も臨戦態勢を取るが即座に男が何かを唱えると――。


「な、なんだ? 雲――?」


 真っ白な雲が泣き姫狐の前に現れる。

 視界を塞がれては襲うことも出来ないだろう。

 その瞬間に、ルーロンとチャシーは全速力で逃げ出す。


「二人共、こっちです!」


 イツハは手招きをしていると、真っ先にチャシーが向かってくる。

 その俊敏さから察するに、スプリントの技能を使っているのだろう。

 そして、ルーロンもその後を追ってくる。

 神の姿は既におらず、どうやら降臨のお札の効果時間が来てしまったようだ。


「危なかった~!」

「狐が追ってくるかもしれません! 早く下の階に!」


 イツハが手招きをしていると、ルーロンもまたやって来た。


「まったく、とんでもないことになったよ」

「でも、無事で何よりですよ」


 姫狐は白雲のせいでまだ身動きが取れないらしい。

 神の力には敵わないことに安堵していると、ルーロンは口早にこう言った。


「早くこの炎から逃げたいもんさ」

「そうですね」

「でも、熱くなっていない?」

「へ?」


 そんな馬鹿な。

 先程まで熱を帯びてもいなかったというのに。

 だが、皮膚を焼くような熱さに襲われ、イツハは瞬時に叫んだ。


「逃げましょう!」


 イツハが階段を降り始めたその時だった。


「な、なんだい!? 火が!?」


 ルーロンの足元の火が突如燃え広がり、火柱が立ち上がった。

 まるで、大魚が小魚を丸呑みにするかの如く。


「きゃあああっ!?」


 幻の炎が突如として牙を剥くなんて。

 イツハとチャシーはただただ慌てふためく。


「ルーロン!」

「くっ! ミュナおばさんを――」


 イツハが降臨のお札を取り出そうとしたまさにその時。

 泣き姫狐はいつの間にか彼らの傍に現れた。

 今の今まで白雲と戯れていたのではないのか。

 彼らの疑問を余所に、泣き姫狐は大きく口を開いた。

 そこには汚れた歯肉に、肉片のこびり付いた牙が見える。

 まるで処刑具のようにおぞましく、彼は思わず手の動きが止まってしまった。


「あ――」


 イツハの叫びも虚しく、泣き姫狐はルーロンの肩へ噛みつき、そのまま炎の奥底へと引きずり込んでしまった――。

まさかの二人目の犠牲者が出てしまうとは……。

緊迫感溢れる状況が続く中、イツハ達は無事に脱出が出来るのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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