第十一話 贄は語る
生物化学準備室の探索を行うことにしたイツハ。
鍵のかかった部屋だからこそ、何か有益な情報は得られるのでしょうか?
生物化学準備室の中へ入ったイツハを待っていたのは、埃とカビの臭いだった。
積まれた書物や使いどころの分からない実験器具などを目にして、彼は小さくため息を零す。
「物置、なのかな?」
教員用の机もあるが、机の上には書類が散乱している。
確かに情報の宝庫ではあるが、悠長に調べている時間はないだろう。
「ミュナおばさん。何か興味を惹くものはありますか?」
『こんなに多いと大変ね。ざっと見ているけど、生物や化学の教科書や資料集ばかりよ』
やはり、ここは特に何もない部屋なのかもしれない。
せめて、お札や祝福の器があればと思ってイツハは物をどかしてみるも、埃が嘲笑うかのように舞い散るだけだった。
「そうだ。生物化学準備室というくらいだから、この部屋の隣には化学実習室があるのか」
チャシーが言うにはさらに美術室もあるらしいが、探索済みの部屋を調べている余裕はないだろう。
イツハが部屋から出ようとした瞬間、微かだが物音が聞こえた。
「ん?」
何かが動いたような。
イツハは音がした所をじっと眺めると、そこには教科書らしき本や大型の三角定規や物差しが床に置かれているだけだった。
本の表紙は日に焼けて色あせており、物差しに至っては半分ほど欠けている。
彼は気になって何となく本を拾い上げようとすると、不思議なことに妙に重い。
「ん? ん?」
首を傾げながらも、力を込めて持ち上げようとしたその時だった。
「やめ、やめて……」
微かな声ではあったが、イツハは聞き逃さなかった。
小さく後ずさりしていると、本や文房具は――立ち上がった。
「え」
立ち上がったという表現は変かもしれないが、事実床に散らばっていたと思っていたそれらはまるで組み立て式の機材のごとく合わさり、彼とほぼ同じ高さとなったのだ。
「えっと……」
心霊現象だ、とイツハは断言できなかった。
だが、敵意はないのだなと思うと不思議と安心してしまった。
「き、君は?」
「私は、あの、ガラクタ、です。学び舎のガラクタと、呼ばれてます」
ガラクタという言葉を聞いて、イツハは瞬時に思い出した。
前にも現像のガラクタという似たような存在を目にしたからだ。
「そうなんだ。自分はイツハ。ここで何をしているんだい?」
「閉じ込められて、その、隠れていて……」
頭部と胴体がどこにあるか分からない。
ただ、必死に人間を真似するかのような身振りを試みているのだけは理解できた。
「隠れる? もしかして、狐から?」
「うん。気が付いたら、あの恐ろしいのが、いたの」
「そうか。実はこの学校から脱出したいのだけども、何か知らないかな?」
目線をどこに合わせて話しかければいいのか分からなかったが、イツハは出来る限り学び舎のガラクタを怯えさせないように心がける。
すると、申し訳なさそうに、まるで首を垂れるかのように一番上にあった教科書をだらりと下げてからこう言った。
「ごめんなさい。分からないんです」
「そうか。それならば仕方ないよ」
イツハが慰めていると学び舎のガラクタは思い出したかのように、何かを取り出す。
「あの、これ、意味があると思います。廊下で、拾いました」
「これは……」
学び舎のガラクタは物差しを手の代わりにしてイツハに紙片を差し出す。
それはメモ用紙らしく、文字らしきものが書いてある。
「何だろうかな? でもきっと意味があるよ。ありがとう」
イツハが礼を述べると、学び舎のガラクタは嬉しそうな声を上げる。
「お役に立てて、嬉しい、嬉しい、です」
「この試練を攻略したら、君も抜け出られると思うから。先を急がせて貰っていいかな?」
イツハがそう言うと、学び舎のガラクタは楽しそうに身体を弾ませる。
「よかったら、これもどうぞ」
「ありがとう」
イツハはペンらしきものを受け取った。
銀色に輝いており、校章らしきマークが刻まれている所から記念品の類かなと彼は推測する。
「じゃあね。危ないから隠れているんだよ」
「はい……!」
イツハはペンとメモをポケットにしまってから、生物科学実習室からそのまま廊下へと抜け出る。
イツハ自身無事だった以上、その代わりにルーロン達が狐や心霊現象に襲われている可能性もある。
一階の保健室へ向かう前に、三階に顔を出してみるべきか。
階段の方へ足を向けながらも、イツハは通話アプリとして使用しているモダンコールセンターを確認してみる。
ルーロン達とやり取りが出来るかと思っていたが、ミュナ達としかやり取りが出来ないようだ。
わざわざ試練限定のアプリを用意した理由の一つは、集団による試練の攻略を阻止するための措置なのだろうか。
「自分は三階に行こうと思います」
『了解よ~。ところでいっちゃん、さっきのメモをチラっと見たのだけども。数字が羅列してあったわ』
「ありがとうございます。暗号の類でしょうか」
ルーロンとチャシーに聞いてみれば新しい手がかりが得られるかもしれない。
イツハはそう考えながらも、階段を昇り始める。
足元が暗い為、踏み外さないようにだけ気を付けていると、彼は目を何度も瞬きした。
前方に明かりが灯っていたからだ。
「な、なんだ……?」
もしかして、三階だけ電気系統が復旧しているのか。
そんな都合の良い話がある訳もない。
灯りに誘引された虫の末路なんてロクなものではないのだから。
「それでも――」
イツハは覚悟を決めて先を急ぐ。
ルーロン達の身を案じながらも――。
三階で何が起こっているのでしょうか?
気になる続きをこうご期待ください!
面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。
それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




