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第十話 贄は渡る

西棟から東棟へと向かったイツハとチャシー、それにルーロンの三名。

果たして、脱出に関する手がかりは見つかるのでしょうか?

 イツハは二階の渡り廊下から下方を見下ろすとそこには中庭が広がっていた。

 整った庭木を見ているとこの学校に異変が起こっているとは到底思えない。

 ホフリの剣の柄を握り締めて彼は前進する。

 彼の後ろには二人の女性が怖がりながらも付いて来る。

 彼女達のためにも、彼は大きく胸を張って足を動かす。


「何も出てこないでくれ……」


 イツハが小さく呟くと、その願いはあっさりと叶えられたようで、彼らは無事に東棟の二階へと辿り着いた。


「ここが東棟の二階か……」


 イツハは拍子抜けをしながらも唾を飲みこむ。

 いつどこから狐が襲ってくるのか……。

 廊下にあるロッカーの中から襲ってくるようなことはしないだろう。

 緊張のあまり、自身の体温が上昇しては下がっていくような奇妙な感覚に彼は襲われていた。


「イツハ、そっちは任せたよ」

「イツハ君、頑張ってね」

「はい」


 三階の階段へと向かっていたルーロンとチャシーを見送ってから、イツハは改めて二階の廊下へと目を向ける。

 どんよりと空気が淀んでおり、今すぐにでも暗がりから何かが飛び出そうだ。


『う~ん、嫌な予感がするわね。視聴者の皆もいっちゃんを応援してあげてね』

「応援して貰えると本当に助かります。ところで、生物実習室と生物化学準備室はどこにありますか?」

『ちょっと待ってね。えっと、いっちゃんのすぐ後ろにある教室が生物実習室で、その隣にあるのが生物化学準備室よ』


 イツハは背後を振り向く。

 扉が開いたままで、この部屋を探索していたチャシーが勢いよく逃げ出したことが伺える。


「さて、と」


 イツハは恐る恐る生物実習室へと入る。

 暗い室内には木製の机が並び、簡素なパイプ椅子が仲良く傍に寄り添っていた。

 それだけならばごく普通なのだが、壁際の棚を覗くと彼はぞくりと身を震わせる。


「これは……」


 蚊の鳴くような声でイツハは呟く。

 ホルマリン漬けにされた生物標本が瓶の中に浮かんでいる。

 名前も分からない虫や魚、それにネズミらしきものも詰められている。

 腐ることのないそれらの虚ろな目を見ていると、生物学に対しての興味を持たせる教材となっているか(はなは)だ疑問だ。

 彼が棚から目を背け、その隣をライトで照らすと――。


「うっ――」


 そこには、内臓のはみ出た人の死体が立っていた。

 左半身の皮を剥がれ、血走った眼球は真正面へと向けられている。

 あまりの凄惨な死に様に、イツハは叫びそうになる。

 だが、声を押し殺して何とか冷静になろうとすると、彼はあることに気が付いた。


「ん?」


 よくよく見ると、人間の死体ではない。

 人形らしく、そもそも血が一滴も流れていなかった。


『いっちゃん。それは模型みたいよ』

『人体模型という代物かと思われます』


 模型と言われて、イツハはようやく納得した。

 あまりにも造りが精巧なため、いきなり目にして驚くのも無理はないだろう。


「そうだ」


 何となく現在のドキドキ度を見てみると、数値は80となっていた。

 大分数値は下がってしまったが、イツハはめげずに探索を再開する。

 人体模型の隣にはガラスケースに入った剥製や骨格標本が彼の目に入った。

 よく出来ているなと彼が関心を抱いていると、四つ足の獣の骨格標本を発見した。

 そのケースの蓋はこじ開けられており、彼が不思議がっているとマァルナがこんなことを言ってくる。


『イツハ様。これは馬かと思われます。小型の品種の馬なのでしょう』


 馬という単語を耳にして、イツハはドキリと心臓を高鳴らせる。

 もしかすると、馬の標本に触れたりするのはNGなのか。

 イツハは思い出す。

 狐と馬は仲が良かったという過去を。

 カセットが語っていた内容が嘘でなければ、つまりはそういうことなのだろう。


「しかし……」


 イツハはタブレットのライトで生物実習室を照らすも、他にめぼしい物はなかった。


「ここに情報はないのか?」


 イツハが隈なく探そうとすると、椅子の上に何かが置いてあることに気が付く。


「これは、紙?」

『いっちゃん。それは学園新聞ですって』

「なるほど、では重要な情報があるかもしれないですね」

『確認するわね……。うーん、表面は交通安全やスポーツの表彰に関する記事らしいわ』

「では、裏面は何て書いてあります?」

『裏面なんだけれども、悪天候のせいで帝立遊馬学園の裏山で大規模な土砂崩れがあったそうよ』

「自分達が今いる場所の近くで、ですか」


 単なる偶然とは言い切れない。

 学園新聞を元あった場所に戻すと、イツハは室内にある扉を発見する。


『いっちゃん。その扉は生物化学準備室って書いてあるわね』

「こちらからも入れるみたいですね」


 鍵は持っている。

 イツハはポケットから鍵を取り出し、鍵穴へと差し込む。

 無事に開錠出来たことを案内してくれるかのように、ガチャリという音が小気味よく響く。


「さて、この先には……」


 閉ざされた部屋には何があるというのだろうか。

 隠してあるのは宝か、それとも罠なのか……。

 イツハは興奮と恐怖に急かされながらも、生物化学準備室へと踏み入った――。

少し怖い思いはしましたが、特段トラブルに巻き込まれることなく生物実習室を調べ終えたイツハ。

さて、次の準備室には何が隠されているのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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