第八話 贄は惑う
次に音楽室の探索を行うことにしたイツハ。
さて、一体何が見つかるのでしょうか?
音楽室となると、楽器が置かれているのだろうか。
音楽を奏でる部屋となると、防音機能もさぞ優れているのだろう。
そして、どんなに大きな悲鳴を出したとしても、誰も助けには来てくれないのか。
イツハがそんなことを考えながらも、真っ暗な音楽室をライトで照らす。
そして、彼は唖然とした。
「これは……」
室内で何かが大暴れしたのだろうか、床の絨毯は強引に剥がされ、壁面は獣の爪痕がいくつも残されていた。
「狐の仕業か?」
カセットの音声が語った内容を思い出し、イツハは身を震わせる。
今までの部屋は特に荒らされていなかったというのに。
『うーん、こんなにボロボロにするなんて』
「何か、あったのだろうか……」
『気に喰わないことがあったのかしらね?』
「この暴れようですと、そうかもしれないですね」
いずれにせよ、この音楽室には狐を怒らせた何かしらの要因があるに違いない。
『イツハ様。お気を付け下さいませ。心霊現象というものに巻き込まれる可能性がございます』
そして、マァルナの言う通りにこの部屋の捜索は今まで以上に危険だということだ。
「そう言えば……」
狐の首領らしき存在に噛みつかれた男を思い出す。
あの男は狐を怒らせることをしてしまったのではないだろうか。
虎の尾をならぬ狐の尾を踏み、あのような惨事が起こった……。
イツハはそんな推測をしていると、思い当たる節がある。
『いっちゃん、どうしたの?』
「いえ、最初に出会った狐も自分を襲うことも出来たと考えると、狐は何か考えがあって自分をこの校舎の中に誘き寄せたのではないかと思ったんです」
『考えでございますか?』
「何かを探して貰いたいとか。しかし……」
『しかし?』
「狐を怒らせるような行動を取ってはいけないのでしょう。そのヒントがここにあるかもしれません」
イツハはそう推理しながらも、心の中では別のことを考えていた。
もしかすると、狐達は恨みを晴らすために贄としてイツハ達を招いているのではないだろうか。
そうなると、狐達は今もどこかで見張っているのかもしれない。
「気を付けないとな……」
どちらにせよ、ここは狐達のなわばりの中だ。
彼らの贄であるイツハは、それこそ追われるウサギのように素早く、そして賢く動かなければならない。
イツハは唾を飲みこんでから、音楽室に目を向ける。
「う……」
音楽室には生徒用の机と椅子が並べられていたが、それらも当然好き放題に荒らされていた。
中でも異様だったのが、机の近くに職員室で見たのとほぼ同じ人形が倒れている点だった。
「この人形は一体?」
人形に近づけばまた襲われるかもしれない。
イツハは人形に近づかないよう気を付けつつも、タブレットのライトで室内を照らす。
闇の中からヌッと人形が現れるのは心臓に悪く、彼はびくびくとしながらも音楽室の奥へと向かう。
「これは、扉?」
ライトで照らした先には木製の扉があった。
ドアノブが強引に壊されているらしく、半開きとなっている。
『いっちゃん。楽器庫って書いてあるわ』
「楽器が入っているんですね。この中も調べておくか」
イツハは決心を固める。
中にはただ単に楽器が収められているだけかもしれないし、それらが荒らされているだけかもしれない。
だが、扉に集中的に刻まれている爪痕を見ていると、彼は気になって仕方なかった。
『イツハ様。何かあったらすぐに逃走ください』
「分かっているよ」
イツハは覚悟を決めて楽器庫の扉を開ける。
暗い室内をライトで照らすと、案の定というべきか獣が暴れ回った形跡が残されていた。
真鍮製と思しき楽器は爪で傷つけられ、鍵盤楽器は蹴とばされたのか横倒しとなっていた。
『うーん、ここまで暴れる必要があったのかしらね?』
『人間への恨みを晴らしたいのでしょうか?』
「何だろうかな……」
イツハとしても違和感を覚えてしまう。
そして、もう少し調べてみると弦楽器を発見した。
「これも酷いな……」
無事だった弓を撫でながらも、へし折れた弦楽器の胴部をライトで照らす。
「ん……?」
イツハは弦楽器の影に何か落ちていることに気が付いた。
「これは、紙?」
何か文字書かれた長方形の紙片だ。
イツハが手に取っていると、タブレットからミュナの嬉しそうな声が聞こえた。
『いっちゃん! それが降臨のお札よ』
「えっと、何でしたっけ?」
『ミュナ様が一時的にお力をお貸しできる道具でございます』
「そうだ。かなり重要な道具だ!」
イツハは驚きのあまり口から大きな声が出てしまう。
『おばさんパワーで解決! と行きたいのだけれども……。敵を倒したりは出来ないわよ』
「う、そうか。あ、でも門を強引に壊すことは出来ますよね?」
『いっちゃん……。おばさんの勘だけども、皆同じことを考えると思うし、対策とかされていると思うのよね』
「あ、はい」
『ともかくピンチの時に呼んでね。かく乱ならおばさんに任せてちょうだい』
「は、はい!」
イツハは札をズボンのポケットにしまい込むと、楽器庫から抜け出ることにした。
楽器庫を抜けてそのまま慎重に音楽室から脱出すると、彼はホッと胸を撫で下ろす。
「さてと……」
情報こそ得られなかったが、貴重な道具を入手することは出来た。
さて、次はどこを探すべきだろうか。
興奮と恐怖で心臓が鼓動する中、イツハの目線は1-3の教室へと向けられた。
運良く降臨のお札を手に入れたイツハ。
しかし、どのタイミングで使うかが悩み所です。
次回もじわじわと来る緊張感をお楽しみください。
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




