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第七話 贄は耳にする

注意

今回は驚かせる描写がございますので、ご注意いただければと思います。

それでは本編をどうぞ。

「失礼します……」


 この挨拶に何の意味があるのだろうか。

 イツハは自分自身の行動に疑問を抱きながらも、タブレットのライトで放送室内を照らす。

 狭い室には素人目にも分かるような放送用の機材が置かれている。

 音量はスライドで調整するものらしく、視覚的に見ても操作方法はそれほど難しくなさそうだ。

 ただ残念なことに壊れているようで、彼がスイッチを押しても反応はなかった。


「何もないかな」


 埃をかぶった卓上型のマイクを撫でながらも、イツハは室内を改めて見回す。


「これは?」


 棚の中を見てみると、そこには電子機器やら本が押し込められている。


「ミュナおばさん。どんな本か分かりますか?」

『ちょっと待って頂戴ね……。ええっと、取扱説明書とか緊張せずに話せる本とか、そういった本だけね』

「ありがとうございます。関係なさそうなものばかりか」

『イツハ様。棚にある機械はどうでしょうか?』

「色々あるけれども、動きそうにないな……」


 イツハがざっと見てみると、大型のアンプや携帯式の音楽再生機械といった類らしい。

 取扱説明書を丁寧に読んでいる暇もないし、そもそも動くのかどうか。


「ん?」


 イツハは軽い眩暈を覚える。

 症状はすぐに収まったが、それと同時にある衝動に駆られ、それぞれの電源スイッチらしきものを適当にいじってみると――。


「ん、これは!?」


 小型の機械の中の一つだけ電源ランプが点灯した。


『あらあら。動くのもあるのね』

『見逃してしまう所でございましたね』

「ああ……」


 どの部屋にある機械も動かなかったというのに。

 普通ならば誰もが見逃すはずだろう。

 イツハには心当たりがあった。


「もしや、センスの技能おかげかな?」


 しかし、機械が動いたからといってどうすればいいのだろうか。

 ボタンの配置から察するに、何かを再生する――要はプレイヤーらしい。

 だが、その前にデータを保存しているものを機械の中に入れる必要があるようだ。


「しかし、どれを入れれば――。これかな?」


 イツハは棚に入っていたカセットらしきものを手に取る。

 プレイヤーの大きさからしてこれを入れて再生するのだろう。

 カセットを観察してから、彼は驚きの声を上げた。


「これはもしかして磁気テープ式の記録媒体か!」

『それって凄いの?』

『何と言えばよろしいのでしょうか。記録できる量が他の媒体と比べると少なく、テープの劣化によって再生に不備が生じてしまうこともございます』

『そ、そ、そうなのね?』

「いずれにせよ、何が保存されているか……」

『いっちゃん、待って。そのラベルなんだけれども、遊馬地方の伝承って書いてあるわよ』

「遊馬地方の? この学校は帝立遊馬学園でしたね。これは何かの手がかりになりそうです」


 イツハはプレイヤーにカセットを挿入してから、再生ボタンを押す。

 すると、テープの回る音と共に音声が再生され始める。


『昔々、この遊馬の地には多くの馬様と狐様が住んでおられました。馬様と狐様は仲良く暮らしていたそうです』


 やや雑音が入っているものの、丁寧な女性の声が淡々と何かを語っている。

 童話の一部に聞こえるが、イツハはひしひしと嫌な予感がしていた。

 例えるならば遠方に黒雲が見え、これから天候が荒れていくであろう海を眺めているかのようだ。


「ミュナおばさん、マァルナ。音声は聞こえていますか?」

『聞こえているわよ~』

『はい。聞こえております』


 音声は問題なく聞こえるようだ。

 そうなると、やはり心霊現象の類は配信のカメラやマイクを通して見たり聞いたり出来ないらしい。


『ある時、人が馬様に乗るようになりました。人は馬様を遊馬の地から連れ出すようになり、その末に遊馬からは馬様がいなくなってしまいました』


 淡々と喋ってはいるのだが、どこか悲しみが込められている。

 単に過去の歴史を告げているだけだというのに。

 まるで、自分自身の過去を語っているかのようでもあった。


『それから、遊馬の地は狐様のものになりました。馬様がいなくなり、狐様は大層寂しい思いをされていたことでしょう。狐様は馬様を(しの)ぶかのように塚をお造りになられました』

「塚を……」

『そして、ある時を境に人間達が遊馬の地へと住み着くようになりました。狐様は懸命に人間達へと抵抗するも虚しく、遊馬の地は人間達のものとなってしまいました――』


 語る声が一瞬だけ間を置く。

 何か躊躇っているかのようで、そして観念したかのように喋り出す。


『狐様は人間達を恨みました。ある日、人間達は遊馬の地に大きな城を築きました。とても立派なお城でした。ただ、人間達はしてはならないことをしてしまったのです』


 イツハはぞくりと身を震わせる。

 声のトーンが明らかに違っていたからだ。

 思わず停止ボタンに手が伸びるも、その前に声がこんなことを告げた。


『――復讐』

「え?」


 この瞬間、不自然なほど雑音が入り込む。

 プレイヤーが壊れそうなばかりに異音が鳴り渡る中、イツハは身動きすら出来なかった。


『よりにも――塚を壊すとは。これは――復讐、だ。お狐様からは――逃げられない』

「逃げられない?」


 先程まで過去を語っていたはずなのに、この憎悪に溢れた声は何なのだろうか。

 背景からは砂嵐のような雑音が続くも、声は妙にはっきりと聞こえる。


『ほら、いる――だろう?』

「え?」

『お ま え の う し ろ』


 一瞬だけ、イツハは自身の心臓が微かに止まったのを実感する。

 彼に背後を振り向く勇気があるはずもない。

 タブレットからミュナとマァルナの声が聞こえるも、応対する余裕はなかった。

 気が付くと、彼は叫んでいた。

 プレイヤーを放り投げ、一目散に放送室を飛び出る。

 そのまま彼は二階へと急いだ。

 その間、後ろから何かが追ってくるような感覚に付きまとわれながらも彼は走った。

 そして、走り疲れて、彼はその場で腰を下ろす。


「い、今のは……」


 廊下の壁を背にして、イツハは呻く。

 心臓が破裂しそうなほど叫んでおり、彼はそれを落ち着かせようと何度も深呼吸をする。

 荒く呼吸を続けながらも、彼の耳元で誰かの声が聞こえる。


 ――これは最高傑作です!

 ――滅びの定めにある人類を救う希望なのです!

 ――そう、――に抗うために!


 演説をしているかのような、堂々とした声だった。

 自信に溢れたその声は聞く者を勇気づけさえもするだろう。


「誰だ、今の声は……」


 頭蓋骨が裂けそうな痛みを抑えながらも、イツハは首を傾げる。

 この痛みは前にもあった。

 自分の記憶が蘇りつつある兆候なのだろうか。


『いっちゃん? いっちゃん?』


 タブレットから聞こえるミュナの声で、イツハは正気を取り戻す。

 心配しているようなその声に気づき、彼は慌てて返事した。


「あ、すみません。ぼんやりとしていました」

『さっきのは怖かったね』

「は、はい」

『イツハ様の背後には何もおりません』

「そ、それならばいいのだけれども」


 イツハは引きつった笑いを返しながらも、自分の過去は一旦置いておき、先程のカセットの内容を思い返す。

 狐が人間に明確な恨みを抱いているという重要な情報だ。

 だが、脱出とどう関係があるのだろうか。


「そう言えば……」


 ドキドキ度を見てみると、何と――。


「150だって!?」


 あのカセットの声は視聴者にも聞こえていたのだろう。

 イツハは少し申し訳なく思いながらも、その場から立ち上がる。


「皆さん、すみません。突然走り出してしまって……」


 ペコリと頭を下げて謝罪の言葉を述べる。

 これで許してもらえるかどうか分からないが、何も言わないよりはマシだろう。


「さて、ここからどう動こうか」


 今イツハがいるのは西棟の二階だ。

 廊下にはロッカーがいくつか並んでおり、開けてみるも中には何も入っていない。

 ルーロンがこの棟にいるかもしれないし、もしくは三階に移動しているかもしれない。

 いずれにせよ、彼が先程本能的に逃げ出したのは、誰かに救いを求めたかったのだろう。


『いっちゃん。左手側の案内板に書いてあるのは1-3という文字ね』

「1-3ですか? 何の暗号でしょうか?」

『イツハ様。恐らくは一学年の三クラス目の表記と思われます』

「あ、そういう意味なのか。で、こっちにも部屋がありますね」

『右手側は音楽室って書いてあるわね』

「では、調べてみますね」


 果たして、何が待ち受けているのだろうか。

 イツハは恐る恐る音楽室の扉を開いた――。

探索も順調に進んでいるの、でしょうか?

遊馬地方の過去が、脱出とどう関わるのか。

どうか次回をご期待ください!


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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