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第六話 贄は落ちる

今回は少々怖いシーンがございますので、ご注意いただければと思います。

さて、誰かの悲鳴を聞いたイツハ。

彼の次に取る行動とは?

 唐突に聞こえた叫び声――。

 無視をするわけにもいかず、イツハは声の発生源へと向かう。


『嫌な予感がするわね。視聴者の皆もきっと気になると思うのよね』

「は、はい。というか、ミュナおばさんにも聞こえたとなると、今のは生身の人間の声で間違いないんですね」

『そういうことになるわね』


 声がしたのは東棟の方だ。

 イツハが東棟へ向かう渡り廊下に向かっていると、再度叫び声がした。


「どこだ?」


 イツハは渡り廊下へと出ると、そこから東棟の方を見上げる。

 東棟の二階か、三階からだろうか。

 彼が恐る恐る進もうすると――。


「え――」


 突如、東棟三階にある渡り廊下から叫びが聞こえた。

 それと同時に人影が窓から飛び降り、中庭にある池へと飛び込んだ。


「なっ――!?」


 イツハは驚きのあまり言葉を失う。

 池へと飛び込んだのはギガントではなく、見たこともない男だ。

 年齢からすると初老といったところだろうか。

 幸いにも池は深く、男は重傷を負ったりはしていないようだ。

 男は池から這い上がるも未だにその顔は恐怖で歪んでいた。

 イツハが男へと駆け寄ろうとすると、またも三階から何かが飛び降りて来た。


「え!?」


 今度は人影ではなかった。

 それは――衣で胴体を覆った大きな狐だった。

 イツハが校庭で目にした狐よりも大きく、そしてその佇まいには品位があった。

 それは中庭へすっくと降り立った。


「う――」


 まともにやりあっては勝てないだろう。

 そもそも、試練のルール上イツハは敵対者に対して攻撃が出来ないのだ。

 ホフリの剣の柄を悔しそうに撫でつつも、彼はとっさに柱に隠れる。


「ん、何だ……?」


 どこからか女性の泣くような声をイツハは耳にした。

 周囲を見渡しても、男と狐の他に動く姿はない。

 心霊現象かとイツハが身を強張らせていると、男の悲鳴が聞こえてくる。


「な、何だ、これは!? ひっ――」


 男は腰を抜かしながらも叫びを発する。

 全身ずぶ濡れで哀れな姿だというのに、狐は情けを掛けてはくれないようだ。

 ゆっくりと近づき、狐は――大きく口を開いた。


「た、助けてくれ!」


 男の叫びも虚しく、狐はその喉元へと喰らいつく。


「ひっ――!?」


 租借する音が聞こえてきそうで、イツハもまた叫びたかったが、とっさに自身の口を押えてどうにか堪える。

 男を助けなければ、そして治療をしなければ――。

 イツハがパニックを起こしていると、男の傍に何かが飛んでくる。


「あれは――準天使?」


 仮面を被った小さな天使が三体集まってきた。

 撮影用のカメラは持っておらず、準天使の中には包帯や薬箱を手にしている者もいた。


「え」


 天使達は男を担ぎ上げながらも、空高く飛んで行ってしまった。

 まるで昇天の最中だが、せっせと止血作業を行っている点からすると生きてはいるようだ。

 狐は天使達を追うこともなく、イツハが天使に気を取られているうちにその姿は煙のごとく消え失せていた。

 驚きの連続で彼はぼんやりとしていた。


『いっちゃん! 今何が起きたの?』

「え、ああ。その、狐が男を襲ったんです」

『狐が現れたの? 私には見えなかったわね……』

『男性の方が突如流血いたしました』


 イツハは考える。

 視聴者の視点からも、男が何かに襲われて血を吹き出し、その後に準天使に救われたという光景になっているのだろう。

 どこかシュールだったが、それでも演技では到底できない恐怖に怯える男の姿は記憶に焼き付くに違いなかった。


『いっちゃん。今メッセージが届いたんだけれども、この試練で重傷を負った者は強制的に棄権させられるんですって』

「強制的にですか……」


 意外にも良心的だなと喜べばいいのか、それともそんな重傷を負わせるような試練にするなと怒ればいいのか。

 いずれにせよ、精神に大きな損傷を受けることには違いない。


『イツハ様。危なくなったらお逃げくださいませ』

「そうだね……」


 恐怖で足が竦んで動けなくなる前に、果たして逃げることは出来るものなのだろうか。

 イツハは生きた心地がしないままその場から立ち上がると、男がいた場所に何かが落ちていることに気が付いた。


「あれは、何だ?」


 狐に警戒しながらも近づくと、イツハは小さく声を上げる。


「これは――鍵だ」


 男が持っていたものだろうか。

 鍵についているタグには文字が書かれていた。


『いっちゃん、それは生物化学準備室の鍵らしいわよ』

「生物化学準備室……。一階にはなかった部屋ですね」

『お探しになりますか?』

「いや、まずは一階の西棟にある放送室を探索してみるよ」

『放送室を調べるの?』

「はい。他の部屋はもしかすると探索されている可能性があります。それならばまだ探索されていない部屋を片っ端から探した方がいい気がしました」

『危険かと思われます。お気を付け下さいませ』


 危険だと分かっていても、イツハはやらなくてはならないのだ。

 ミュナのためでもあり、視聴者のためでもあり、何よりも自身のためにも。

 彼はその場から引き返して西棟へと向かう最中、彼は考える。

 先程男を襲った狐は、大きさや品性のある点からすると、狐達の首領かもしれない。

 そして、瞬時に姿を消してしまった点からも、強襲してくる可能性も否定できない。

 怯えながらも脱出のために動き回らなくてはならず、なおかつ視聴者を退屈させないように努力をしなければならないのだ。


「参ったものだ」


 イツハが溜息を零しながらもタブレットでドキドキ度を見てみると――。


「あれ、90に上がっている?」


 どうしてかと思ってイツハが考えてみると、先程の男が倒れる場面を目にして、視聴者の間に恐怖が走ったのだろう。


 ――そうか、これならば楽にドキドキ度を稼げる。


「いや、自分は何を……」


 心の中で何やら(よこしま)なものが(うごめ)いた気がした。

 イツハは気の迷いだと口の中で呟きつつ、放送室の前まで戻ろうと西棟へと向かって行く。


「ん、足音……?」


 前方からドタバタと誰かの駆ける音が聞こえてくる。

 イツハが身構えていると現れたのは女性だった。

 緑色のロングヘアと何かの組織の制服――公安関係のものと思しき黒い服装が特徴で、顔の右半分には蛇を模した入れ墨がビッシリと刻み込まれていた。


「あ、あんたは!?」

「あ、どうも。イツハと申します」


 イツハが丁寧に頭を下げていると、女性は驚いた顔から一転して落ち着いた顔でこう答える。


「私はルーロン。さっきのを見たかい?」

「さっきの?」

「二階の窓から見たんだよ。男が窓から落ちて、それで何かに襲われて……」

「狐に襲われたんですよ」

「え? 私にはぼんやりとした煙にしか見えなかったさ」


 イツハは首を傾げる。

 近くで見たからあんなにはっきりと見えたのかもしれない。


「わざわざ見に来たんですか?」

「そうさ。で、あの男はどこ行った?」

「あ、そうか」


 恐らく準天使が助けた場面を見ていなかったのだろう。

 イツハが事情を説明すると、ルーロンがポンと手を叩く。


「そうか。それでワンストンが、準天使がああだの言ってたのか」

「ワンストン?」

「私と組んでいる神さ。迷走と解決の神とか、意味が分からなくてね」


 ルーロンは大きく笑っている。

 先程まで驚いていたのが嘘のようだ。


「た、大変なんですね」

「ま、誰だって大変さ。それじゃあ、私は先に失礼させて貰うよ」

「え、はい」

「とっととこんな辛気臭い所から脱出したくてね」

「お、お気をつけて」


 ルーロンはその場から立ち去り、西棟へと向かって行く。


『活発そうな子ね』

「活発というよりもサバサバ系かと。ところでミュナおばさん。ずっと黙っていましたが……」

『おばさんとしても、二人がお話しているところで、口を挟むのはどうなのかなって思ったのよ』

「あ、そうだったんですか」


 確かに、いきなり第三者が喋ってくるというのも何となく嫌だろう。

 そんなことを考えながらも、イツハもまた西棟へと向かう。

 西棟へと辿り着くと、ルーロンの姿がない。

 どうやら階段を昇って行ったようだ。

 それならばと彼は放送室へと近づき、扉を開いて中へと入った――。

早々に脱落者が出てしまうとは。

果たして、イツハは脱出が出来るのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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