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第四話 贄は集う

前回、学校を脱出すべく保健室を探索したイツハ。

かんざし祭りに学校の歴史と、何やら手がかりになりそうなものを見つけました。

そして、保健室を出ようとしたところから物語が再開いたします。

 イツハは後ずさりながらも剣の柄に手を伸ばす。

 近づいたその瞬間、切りかかる準備は出来ていた。

 だが、目の前の大きな影は何もしてこない。


「おいおい。あんたかよ」

「君は――ギガント?」


 イツハはホッと胸を撫で下ろす。

 特徴的な赤い皮膚と額の角はとても印象に残る。


「イツハとかいったな。あんたも参加していたのか」

「奇遇ですね」

「ああ、奇遇だよな」


 ギガントは自身の頬をかきながらもどこか落ち着かない様子だ。


『あらあら、元気~?』

「はい! 俺は元気です!」


 タブレットから聞こえたミュナの声に対し、ギガントは元気よく返事をする。

 イツハへの塩対応とはえらい違いだ。


「そっちの部屋には何もなかったか?」

「いえ、あるとしたら歴史について書いてある紙があったぐらいです」

「鍵はなかったのかよ」

「いえ、ありませんでした」

「そうかよ。いや、待て」


 ギガントはタブレットを取り出し、それを耳に当てて会話をし出す。

 どうやら、コンビを組んでいるトレンと話をしているようだ。

 暫くして、会話を終えたギガントは改めてイツハの方へと向き直る。


「悪いな。トレン先生があんた達のことを信じるなとよ。それと、あんた達のお情けもごめんだと」

「そっか。わかったよ」

『残念ね~』


 トレンの方針がそうであるならば、イツハも無理強いはしたくない。

 そこから離れようとしたその時、ギガントは小さな声で尋ねて来た。


「ところで、お前は遭遇したのか?」

「何を?」

「何をって、そりゃあ、心霊現象だよ」

「しんれいげんしょう?」

「知らないのかよ。科学では説明できない、恐ろしい現象だよ」

「あ……」


 イツハは思わず言葉を失ってしまう。

 つい先程職員室で彼は人形に足首を掴まれたばかりで、その時の感触はまだ残っていた。


「その様子だと出くわしちまったみたいだな。せいぜい、ションベンを漏らさないよう気を付けるんだな」


 そう言いながらも、ギガントは保健室の中に入っていく。

 余裕綽々(しゃくしゃく)といった様子だが、イツハは気が付いてしまった。

 ギガントの脚は微かではあるが、小刻みに震えていたのだ。


「行かなくてはな」


 やはり他にも参加者がいる以上、競争となってしまう。

 しかし、焦れば焦る程、危険を察知するのも難しくなるだろう。

 心霊現象というありがたくないおまけまでこの学校にはあるのだから。


『いっちゃん。怖い? 大丈夫?』

「大丈夫ですよ」

『イツハ様。直接ご協力出来ないのが残念でございます』

「自分も残念だよ」


 一人だけの探索がこんなに苦しいものだとは。

 保健室から離れたイツハはすぐ隣の部屋に目線を向ける。


『いっちゃん。そこの部屋は技術工作室みたいよ』

「技術工作室ですか」


 製作に関する授業を行う部屋なのだろうか。

 果たして、探索して何か得られるのか。


「その隣はどんな部屋ですか?」

『調理実習室って書いてあるわよ』

「う、うーん。待って下さい?」


 イツハはタブレットのライトを通路の先へと向けると、二階へと続く階段の他に、渡り廊下らしきものを発見した。

 雨で濡れないよう屋根があり、屋根を支えている柱が等間隔で並んでいた。


『別の棟への通路みたいね』

「一階を探索すべきか、別の棟を探すべきか……」


 かなり重要な選択だろう。

 ギガントとの探索が被ってしまうのも面倒だ。

 そう考えてから、イツハは――。


「自分はこれから渡り廊下へと向かいます」

『どうして?』

「ギガントと探索している階層が重複するのは問題があるかと思ったんです」

『なるほど……。イツハ様の勘を信じましょう』


 果たして、自分の判断は正しいのか。

 イツハは疑問に思いながらも、渡り廊下を目指して歩いていく。


『えっと、西棟への通路って案内板に書いてあるわね』

「ならば、自分が今いるのは東棟になりますね」


 西棟への通路は扉によって遮られていたものの、幸いにも鍵は掛かっていないようだ。

 イツハが扉を押し開けると、ゾッとするような冷たい風が彼の頬をくすぐる。


「うっ――」


 単なる風だ。

 どこにでも吹いているような気まぐれな風だ。

 イツハは自分に言い聞かせるものの、やはりギガントの口にした心霊現象という言葉が頭から離れない。


『イツハ様。中庭があるようでございますね』

「あ、本当だ」


 渡り廊下は中庭を突っ切るような形で設計されているようだ。

 中々に風情のある造りなのだが、イツハは自然と身構えてしまう。


『いっちゃん?』

「いえ、その。すみません」


 どうしてだか分からない。

 だが、風で揺らめく植え込みや、静かに波紋を立てる池の水面を見ていると、イツハはどうにも気が立ってしまう。


「いない、よな?」


 小さく呟きつつも真正面を見据えようとするが、やはり左右にある中庭に注意が行ってしまう。

 先程の狐と、もしかするとバッタリと出くわしてしまうかもしれない。

 だが幸いにも、何も起きないままイツハは西棟へと辿り着いた。

 扉を押し開き、彼は胸を撫で下ろす。


「やれやれ、と」


 イツハは大きく深呼吸するも、まるで気が休まらない。


『部屋が沢山あるわね~』

「はい、そのようですね。ところで、ミュナおばさん。今、タブレットでこっちを見ているんですよね」

『ええ、そうよ。いっちゃんを中心にしてカメラで撮影されているみたいね』

「分かりました。一階の西棟に何があるか知りたいので、ひとまず歩き回ってみます」

『了解よ~♪』


 イツハは一階の西棟をぐるりと巡り、また渡り廊下の所へと戻ってきた。

 渡り廊下の扉を背にして、イツハはミュナへと尋ねてみる。


「えっと、どんな部屋がありましたか?」

『いっちゃんの右手側には順に事務室、応接室、学園長室があるわね』

「学園長室……。何かありそうですね」


 学園のトップがいる部屋である以上、重要な鍵を保管している可能性は高いだろう。


『きっと豪華な部屋なのでしょうね。いっちゃんの左手には順に放送室、図書室があるわよ』

「図書室の隣には階段とトイレがありましたね」

『どこをお探しになりますか?』


 イツハは迷う。

 今彼は重要な選択を迫られている。

 仮に間違った部屋を探索した場合は時間のロスになるだろう。

 ただ、彼が気掛かりだったのが、また心霊現象に遭遇してしまうのではないか。

 そう言えば真っ先に探索を優先すべき職員室にあの人形はいたのだ。

 水飲み場に罠を仕掛けるのは狩猟の(たしな)みだ。

 イツハは迷い、そして決断することにした――。

他にも参加者がいるとなると、じっくりと探索している時間もなさそうです。

果たして、イツハは次にどこを探索するのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

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