表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/85

第三話 贄は怯える

前回、学校からの脱出の鍵を探すべく職員室を訪れたイツハ。

しかし、肝心の鍵は見つかりませんでしたが、誰かがいるようです。

果たして、その正体とは?

 人影は膝を崩したようにも見えた。

 イツハは慌てて駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


 人影に近づき、タブレットの光で照らすと――。


「え」


 光で照らしたことで、イツハはそれがようやく人形であることに気が付いた。

 のっぺりとした木目調の人形だ。

 シルエットは人間そのものだが、服は身に着けていない。

 どうして生きた人間だと思ってしまったのだろうか。

 イツハが踵を返して職員室から出ようとしたその時だった。


『いっちゃん?』

「どうされましたか?」

『今、その人形が動いたような気がしたのだけれども』

「え、まさか……」


 そもそも、どうしてこんな場所に人形があるのか。

 自身の思考力の低下に疑問を抱きながらもイツハがその場から逃げようとすると――。


「うぐ――!?」


 何者かに足首を掴まれた。

 この場から逃がさないと言わんばかりの力だ。

 イツハがとっさに足元を見る。


「あ、あ……」


 イツハの手首を掴んでいたのは――人形だった。

 膝から崩れ落ちて床に伏せた状態に関わらず、その指には相当の力が込められていた。


「ぐっ、離してくれ!」


 イツハはしゃがんでから掴んだ指を剥がそうとするも、まるで万力のようにガシリと彼の右足首を離そうとしない。


『イツハ様!?』

「何でこんな力が――。ん……?」


 イツハは耳を澄ます。

 声が聞こえた。

 聞いているだけでも寒気のする、気分の悪い声だ。

 彼は自然と声の主を探す。

 今もなお、人形は彼の手首を掴んでいる最中だというのに。

 そして、彼は気づいてしまった――。


「ま、まさか……」


 イツハは声の主の正体が分かってしまった。

 それは、彼の目の前にいる人形だった。

 そして、今、声色から察するに人形は――泣いているようだ。

 どこから発しているか分からない。

 顔には表情すらないというのに、確かに泣いているのだ。

 まるで何かを伝えたいかのように、啜り泣いており――。


「わああああっ――!?」


 気が付くと、イツハは逃げ出していた。

 どうやって、縋りついて来る人形を振りほどいたのか分からない。

 ともかく、職員室から彼は逃げ出すことに成功していた。


「な、何だったんだ。今のは……」


 心臓が爆発するかのように響く中、イツハは荒い呼吸を繰り返す。

 現実であることを忘れさせないかのように、右の足首には掴まれた感覚が今も残っていた。


『イツハ様? ご無事でしょうか?』

『急に人形が動くなんて……』

「あ、はい」


 前にも似たようなことがあったような。

 デジャヴを感じていると、マァルナが恐る恐るこう言った。


『イツハ様。あの時は申し訳ございません……』


 そう言えば、初めてマァルナと会った際には肩を掴まれたような。

 イツハはわざとらしく咳払いをする。


「そ、それよりもともかく、何て悪趣味なんでしょうか」

『悪趣味な試練よね~』

「ところで、今の泣き声って聞こえていましたか?」

『泣き声? 私は聞こえていないわね。ルナちゃんは?』

『申し訳ございませんが、私にはそのような声は……』


 ミュナとマァルナの反応から察するに、起きている現象の一部は確実にカメラやマイク越しでは伝わっていないのだろう。

 恐怖感だけでなく、この何とも言えない孤独感とも向き合わなければならないのか。


「さ、さて、と……」


 人形が追ってくる気配はない。

 だが、職員室に再度戻りたくもない。

 どちらにせよ、イツハに出来ることは一刻も早くこの試練を攻略するために探索を続けることだ。


「ミュナおばさん。自分が廊下を歩きますので、通りがかった部屋の案内板に何と書かれているか読んでもらっていいですか?」

『任せといて。でも、無理はしないで頂戴ね』

「はい」


 会話を終えてからイツハはタブレットを配信アプリへと切り替える。

 ドキドキ度を見てみると、数値が50から80へ上昇していた。

 視聴者が喜んでくれればいいのかなと複雑な気持ちのまま、イツハは廊下を歩いていく。


『いっちゃん。そこにある部屋は保健室みたいよ』

「保健室ですか。行ってみましょう」


 手がかりがない以上、ぼんやりとしている場合ではないだろう。

 イツハが保健室の扉を開き、部屋の中へと入る。

 ざっと見てみると、カーテンで仕切られたベッドが三台ほど置かれている。

 職員の机の隣には薬品棚があり、簡易的な治療や休む場所として欠かせないだろう。


「誰もいない、か」


 安心しながらも、イツハは探索を始める。

 門の鍵を手に入れるのが第一目的だが、その手掛かりすらも掴めない。

 いずれにせよ、探検を楽しむ余裕も時間もない。

 急がなければならない以上、彼は動く他に選択がなかった。


『いっちゃん。壁に貼られているポスターだけど……』

「何です?」

『うーん。健康に気を付けようとか、虫歯を無くそうという啓発ポスターみたいなものね』


 イツハがポスターを見てみると、確かにそんな意味合いの絵が描かれている。


『待って、かんざし祭りのご案内? これだけ違う感じ。ほら、いっちゃんの左手の方にあるポスター』

「かんざし祭り?」


 イツハはそれらしきポスターを見てみる。

 そこにはかんざしを持った少女の絵が描かれていた。

 かんざしには金色の華の飾りが付いており、煌びやかな印象を放っている。


『この地方のお祭りなのでしょうか?』

『えっと、学校にお客さんを招くみたいね。日程も書いてあるわよ』

「何かの手がかりになればいいのですが」


 イツハは呟きながらも考える。

 今までの試練には様々なガラクタが登場していた。

 もしかすると、彼が今いるこの場所も過去に実在していた学校をモチーフにしているのではないだろうか。

 一から考えるも、素材を有効活用した方が効率的だ。


「いや、待てよ……」


 逆かもしれない。

 良い素材があったから、それを元に今回の試練の舞台として選んだのか――。

 確信はないが、今まで会った神々は物好きが多かった。

 その可能性は捨てきれないだろう。


『いっちゃん?』

「いえ、何でもないです」


 他には特に変わった所はなさそうだ。

 イツハが保健室から出ようとすると、マァルナの声がタブレットから聞こえてくる。


『イツハ様。ベッドの下に何かございませんか?』

「ベッドの下?」


 イツハはしゃがんで姿勢を低くすると、確かにベッドの下に何かが落ちている。

 腕を伸ばしてそれを掴み引っ張り上げる。


「これは……」


 イツハが手にしたのは一枚の紙切れだった。

 本から破り取ったようで、下部にはページ数らしきものが書かれている。


『えっと、読んでみるわね。どうやら、いっちゃんの今いる学校――帝立(ていりつ)遊馬(あそま)学園の歴史資料みたいね』

「学園の歴史ですか?」

『ええ。書いてあることを要約すると、遊馬学園のあった場所は元々村だったんだけども、昔起きた戦争で全焼しちゃったんですって』

「戦争で、ですか……。あっと、裏のページを向けますね。見えますか?」

『見えるわよ~。えっと、裏面の方は――。遊馬学園は元々男子校だったけれども、男女共学に変わったとか、新しく就任した校長先生が誰かとか、そんな情報ね』

「あまり有益な情報ではなさそうですね」


 しかし、一ページだけ落ちているというのはあまりにもわざとらしすぎる。


『過去の歴史が脱出に関係あるのでございましょうか?』

「どうなのだろうか。いや、もしかするとそうしたいのかもしれない」

『そうしたい、ですか?』

「単純に鍵を見つけて脱出する、だけでは面白みがない。どうにかこうにかして、慌てふためくような状況を作りたいからこそ、わざとらしく手がかりを散りばめていると思うんだ」


 ドキドキ度なるものがある以上、それが今回の試練のコンセプトなのだろう。

 イツハとしては勘弁して貰いたいのだが。


『なるほどね~』

「ともかく、この保健室での用事は済んだことですから早く出ますね」


 イツハは手にしたページをベッドの上へと置き、退室しようと扉を開くと――。


「え」


 イツハの目の前に、大きな影が立ちはだかった。

またもや何者かに出くわしたところで次回へと続きます。

またしても人形なのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ幸いです。


それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ