第一話 贄は動き出した
お待たせいたしました。
第四章の開始となります。
今回はガラリと雰囲気が変わりますので、ご容赦を。
学園内を探索しながらも、脱出を試みるという感じの試練となっております。
ホラーが苦手な方はご注意いただければと思います。
それでは本編をどうぞ。
「ここはどこなんだ?」
イツハはそんな言葉を口にしながらも、思わず笑ってしまう。
ミュナと出会う前にも、似たようなことを言っていたからだ。
改めて状況を整理してみる。
昨日と同じように朝が来て、そしてミュナとマァルナと共に次の試練へと向かった。
当然、天使に導かれながらも吊り橋を渡り、その後は――。
「確か、コンクリート造りの建物を発見した所で試練が始まったんだ」
そして気が付くと、イツハは建物の中にいた。
周りを見てみると、どうやらここは倉庫のようだ。
所狭しとばかりに物が並べられ、何よりも暗すぎる。
「これは何だ?」
タブレットのライト機能で辺りを照らしてみると、鉄製の籠にはボールが一杯に収められていた。
球技用のボールだろうか。少なくともこれらを使った試練という訳でもなさそうだ。
「ん?」
タブレットが振動する。
画面を操作すると、見慣れないアプリが起動している。
アプリの名称は『モダンコールセンター』というもので、こんなアプリがあったのかとイツハは首を傾げる。
どうやら通話機能のあるアプリで、通話してきたのは――ミュナからだった。
イツハは急いで通話を開始すると、ミュナの声がタブレットのスピーカーから聞こえて来た。
『いっちゃん! 聞こえる?』
ミュナの声を聞いているとそれだけで安心してしまう。
イツハは落ち着きながらも早速尋ねた。
「今どんな状況なのですか?」
『私とルナちゃんは個室にいるのよ。そして、今いっちゃんの姿をタブレットで見ているの』
「個室? タブレットで見ているって――」
イツハは天井に目を向ける。
撮影しているであろう準天使の姿があると思っていたのだが、そこには何の気配もなかった。
『いっちゃん。どうやら、今回の試練は撮影方法を変えているみたいなんですって』
「こ、今回って……」
一体どういう意図なのだろうか。
いずれにせよ、ミュナの力が得られないというのは不安でしかない。
『いっちゃんの方にもメッセージが届いていないかしら?』
「いえ、届いていないです」
『なるほど、おばさん達がサポートする感じなのね。よく聞いてちょうだい。今回の試練は『泣き姫狐様の贄』ですって』
「泣き姫狐様の贄……? 何だか気味が悪いですね」
『イツハ様。恐らくは、驚異的な存在から脱出する類の試練と思われます』
マァルナの凛とした声が聞こえてくる。
「脱出?」
『はい。ミュナ様のタブレットに届いたメッセージを拝見しましたところ、イツハ様の目的は今いらっしゃる学校から脱出とのことです』
「がっこう……。 そうか、そこから逃げるのか」
『ただ問題なのが、ルールだと敵対者に攻撃出来ないみたいなの』
「攻撃出来ない? それならば驚異的な存在から逃げるしかないという――」
自分で口にしていて、イツハはその状況にゾッとさせられる。
少なくとも、ここは彼の知らない場所なのだ。
そんな場所をどう逃げ回ればいいというのだ。
『あくまでも推測でしかございません。ただ――』
『今回の試練中は使用できるアプリに制限が掛かって、技能を習得できないそうなのよ』
「え、それは困りますね……」
もしかすると、今使っているアプリもこの試練限定のアプリなのだろう。
軽く見た感じだと通話機能しか付いておらず、オプション画面でも音量調整しか出来ないという不親切な設計だった。
『でも、探索中に見つけた降臨のお札って物を使うことで、おばさんが一時的に協力出来るんですって』
「あ、そうなんですね」
そのお札を見つけるのも大変なのではないだろうか。
一時的、と言われると使うタイミングも見極める必要がある。
苦しい戦いになりそうだなと心底嫌になってきたが、イツハは今いる場所から出ることにした。
「さてと」
引き戸を開くと、そこには木製の床が広がっていた。
樹脂による塗装が施されているらしく、先程のボールを見るにどうやらここは屋内運動場のようだ。
「妙な場所だ……」
タブレットの明かりで照らしつつも、イツハは恐る恐る室内を進んでいく。
本来ならば和気あいあいと運動をする場所なのだろうが暗いとやたらに不気味だ。
ミュナとマァルナがいれば少しは怖くないのだろうが、一人となるとこんなに心細くなるとは。
『いっちゃん。怖くなったら遠慮なく言ってちょうだいね』
「はい、あ、ちょっと待ってください」
『どうしたの?』
「自分の今の状況は当然配信されているんですよね?」
『そうね。おばさんといっちゃんのやり取りも聞こえているようね。でも、視聴者の皆からのコメントは届かないみたいね』
「そ、そうなんですか」
コメントまで聞こえないとは。
ますます寂しい状況のようだ。
そして、その状況下で視聴者を意識して行動をしないとならないということでもある。
『イツハ様。右手の方に出口がございました』
「ありがとう」
マァルナの言う通り、確かに出口らしきものが見える。
アドバイスに感謝しながらもイツハが引き戸を開いて運動場から出ようとすると、ミュナがこんなことを言い出す。
『視聴者の皆~。いっちゃんを応援してあげてね~』
果たして、視聴者の皆は応援してくれているのだろうか。
そんなことを考えながらもイツハが屋外へと出ると、彼は思わず目を丸くする。
「う……」
空には一面どす黒い雲が浮かんでいる。
雲の形がまるで人の顔のように見え、ここが異様な空間であることを思い知らされる。
「待てよ、ここから脱出をすればいいのだから……」
それならば、とっとと外へと抜け出てしまえばいい。
イツハは速足で先程いた屋内運動場から離れると、コンクリート造りの古びた建物が隣接していることに気が付いた。
『イツハ様。あの建物は学校の校舎でございます』
「こうしゃ……。ああ、勉強をする場所か」
もしかして、あの校舎を探索することになるのだろうか。
もしかしなくても、後々足を踏み入れざるを得ないのだろう。
それを何よりも期待しているのは視聴者に他ならない。
イツハはそんな確信を胸に抱く。
彼が校舎を眺めていると、まるで手招きするかのように怪しげな雰囲気を放っていた。
『えっと、どうやらそこは校庭みたいね』
「こうてい……」
乾いた茶色の土が足元に広がっている。
雑草すら生えておらず、走り回るにはちょうど良い土の硬さだ。
なるほど、ここは屋外運動場といったところなのだろう。
イツハが軽く走りながらも進んでいくと眼前に門が見えた。
周囲は高い壁に囲まれ、外へと出るには門をくぐるしかないようだ。
『いっちゃん。門へ行くの?』
「見てみるだけです」
近づいて門を見てみると、その強固な造りに驚かされる。
まるで牢屋の鉄格子を彷彿とさせ、ホフリの剣で叩き壊すというのも流石に不可能だろう。
『開けるには鍵が必要みたいね』
「そのようですね」
イツハは小さく笑う。
門からすんなりと脱出が出来たら、試練の意味がない。
『鍵を探すとなると、校舎に行くしかないのでしょうか』
「う、うん」
その辺に門の鍵が運良く落ちていればいいが、そんな都合のいいことがある訳もない。
どうしてもあの校舎に行かなければならないのだろう。
彼は憂鬱な足取りで校舎へと向かう。
乾き切った土を踏み進め、校庭を突っ切っているその時だった。
「ん……」
何かの気配を感じた。
生き物とはどこか違う。
強いて言うならば、神々と似たような気配だ。
イツハは歩きながらも、さっと振り向くと――。
ご覧いただいたとおり、今回の試練はイツハが主役となります。
ミュナおばさんとマァルナはサポートする感じです。
是非とも、イツハ視点で学校を探索するドキドキ感を堪能いただければと思います。
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




