第三十話 そして次に備える
拾捨と原罪の神であるシューシャと出会ったミュナおばさん御一行。
色々な神がいるようです。
それでは本編をどうぞ。
イツハはくたびれた足の痛みを堪えながらも先を目指していく。
目の前には看板を持っている準天使達がおり、ミュナ曰く累計ポイントが十五万以上を越えているために近道が出来ているとのことだった。
飛行機の墓場を通り抜けて行く中、ミュナがこんなことを言い出す。
「あ、順位が上がっているわね」
「本当ですか? って、タブレットを見たまま歩くのは危ないですよ」
「あ、そうよね」
イツハも立ち止まってからタブレットを見てみる。
ランキングは二十一組中十一番目だ。
昨日と比べると確かに上がっているのは嬉しいのだが、上位のコンビはどういった配信を行っているのだろうかと気になってしまう。
彼がまだ見ぬ強敵達のことを考えていると、空が暗くなり始めていることに気が付いた。
また、夜がやって来たのだ。
急がねばならないと思うと、必然と歩みも速くなる。
「いっちゃん、あそこに休憩所があるわね」
「あ、本当ですね。では、今日はあそこで休みましょう」
ミュナが指差した先には小屋が並んでいた。
小屋へと近づいてみると、やはり昨日と同じようにタブレットをかざすことで開く形式のもののようだ。
不自然な建築物であるため、本当ならば怪しい罠だと警戒するだろう。
だが、そんなことを気にしている場合もない。
折角用意して貰ったのだから、警戒するのも失礼な話だ。
「じゃあ、自分は休ませていただきますね」
「では、私は特訓かしらね~。気の抜けない戦いだもの」
「分かりました」
イツハは手を振りながらも、小屋の扉にタブレットをかざす。
スッと開いた扉に入ろうとすると、マァルナが彼の後ろに付いて来る。
「えっと、マァルナ。他の小屋があると思うのだけれども」
「イツハ様。私はタブレットを持っておりません」
「あ、そうか」
「いっちゃん、意地悪してあげないの」
「え、でも……」
いくら機械人形とはいっても、何かマズいだろう。
こういう状況をどうすればいいのだろうか。
イツハが悩んでいると、マァルナがじっと彼を見つめてくる。
「イツハ様? よろしければ子守唄を提供いたしますが?」
「いや、いいから。一人で休みたいんだ」
「かしこまりました」
イツハは他の小屋の扉をタブレットで開き、そこにマァルナを連れて行く。
「マァルナ。悪いのだけれども、朝までここにいてくれ」
「それがご命令とあらば従います」
イツハは罪悪感を覚えながらも、自分の泊まる小屋へと戻る。
家具などの配置は昨日の泊まった部屋と全く同じであり、彼はまるで帰宅したかのような奇妙な感覚に襲われてしまう。
「何はともあれ……」
今日もまた散々な日々だったような。
サメに、リヤカーに、そしてトドメは戦闘機と来た。
神々に弄ばれているような気がすると、どうにもイツハは腹が立って仕方なかった。
タブレットのアプリで高カロリーの栄養補給ゼリーを注文してから、それを胃へと流し込むも、簡単に気分は落ち着かないようだ。
「いけないな……」
このままでは気も休まらない。
イツハはタブレットを開き、神命新天の儀のマニュアルに目を通すことにした。
ミュナをサポートするためにも、神命新天の儀の詳細について知っておくべきだろうと彼は考えていた。
マニュアルはやたらと細かく記載してあり、タブレットを初めて触れる神に対してか、起動方法からアプリの詳細、簡単な用語の説明などやたら丁寧に書いてある。
そして、彼は妙な記載に首を傾げる。
「タブレットには自動修復機能や、無くした場合も自動的に手元に戻ってくるとか……」
一体どんな技術で作られているのだろうか。
試しに壊してみようかとも思ったが、完全に直らなかったらと思うとそんなことは出来ない。
「さて……」
イツハは部屋の電気を消してからベッドの上に横になり、就寝することにする。
今日は眠れるのだろうかと思い、目を閉じてみる。
闇の中で、彼は何度も何度も考える。
自分は一体何者なのだろうか。
イツハはレイゼイのことを思い出す。
「人類救世軍最終決戦隊――通称アタッチメントの副隊長か」
レイゼイが本当にそのアタッチメントとやらに所属していたならば、イツハもひょっとしてそれに近い部隊に所属していたのだろうか。
「戦いか……」
殺し合いの中に美学というのはあるのだろうか。
イツハはホフリの剣の柄を握り締めながらも考える。
野蛮かもしれないが、こうしていると彼は不思議と落ち着く。
そう考えると、やはり血に塗れた過去があってもおかしくはないだろう。
「自分は、何なんだ?」
自問自答しても、何も得られない。
モヤモヤとした気持ちが高まり、ついには苛立ちにまで発展してしまう。
イツハは仕方なく寝床から抜け出す。
「ミュナおばさんはまだ訓練中かな?」
イツハは準備をして外へと出る。
何か手伝えることはないだろうかと彼は考えていた。
ミュナを探そうと闇の中を睨みつけると、輝く灰色の光がかの神の居場所を示していた。
「ミュナおばさん」
転ばないように気を付けながらもイツハは光へと向かう。
近づくにつれ、美しい歌声が聞こえてくる。
聞いているだけでも意識が遠のきそうだ。
そして――。
「あ」
イツハは小さく声を上げる。
彼の目の前にはミュナの姿があった。
どこからか見つけて来た椅子に腰掛け、目を閉じて歌っている。
そして、その周囲には灰が空中で渦巻いており、まるで銀河を模しているかのようであった。
彼の前にはいつもののほほんとしたおばさんの姿はなかった。
触れ得ざる神がそこに座していたのだ。
「いっちゃん」
「は、はい!?」
そして、唐突に声を掛けられ、イツハは叫ぶように返答する。
「眠れないのかしら?」
「ええ、ああ、はい」
「緊張しちゃうと眠れなくなるわよね~」
いつものおばさんに戻り、イツハは安堵してしまう。
「神も眠るんですよね」
「そうよ。長い間眠らなくても活動できるけれども。私の場合はそうね~」
ミュナは何か考えている。
嫌な事でも思い出したのだろうか。
「寝起きがとんでもなく危険って言われるのよね……」
「危険、ですか?」
「そうみたい。その時の記憶が全然ないのよ……」
ミュナは複雑な顔をしている。
神も寝ぼけるのだなと、イツハは軽く笑いつつ話を切り替えることにした。
「そう言えばミュナおばさん。神代の秘剣についてなのですが……」
「秘剣がどうかしたのかしら?」
「ええと、あれは、どうやって習得するものなのですか? 勿論、人間に扱えるものではないのは分かっておりますけど」
「うーん、神自身強い力を持っているものなのよ。強く願えば、周囲の事象に影響を及ぼせるのよ」
「え、それはつまり――」
「何でもできる、ってわけでもないのよ。影響の大きさも神位によって違ってくるかしらね」
「神魂術と神代の秘剣はまた別なんですか?」
イツハの質問に、ミュナはどう説明すればいいか困りつつもこう答えてくれた。
「神魂術は己の持つ感情の力を反映させるものならば、神代の秘剣は己の持つ意志と……。そうね」
ミュナは銀色の瞳をイツハへと向ける。
「武器を持つこと――それ自体がどういったことを意味しているかを理解する必要があるのよ」
「え、理解ですか?」
「剣に限らない話なのよ。それが分かったならば、剣の意味を知ることよ」
「剣の意味……」
「その意味を知ることで、自然と剣を振る動作にも凄みが出るのよ」
イツハは何となく分かったようで、分からなかったようで。
いずれにせよ、自分には関係のない話なのだろう。
「あとは、秘剣に対しては秘剣で対応した方がいいって言われているわね」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。自身の見つけた答えを、相手とぶつけ合う――。そんな感じかしら」
「と、と、とても、勉強になりました」
「ふふ、それならばよかったのだけれども」
イツハはミュナと別れてから小屋の中へと戻ることにした。
その道中、ホフリの剣の柄をじっと握り締める。
剣の意味とは、何なのだろうか……。
そのうち分かるかもしれないと信じ、イツハはベッドの上で横になり、また明日が来るのを待つことにした――。
厳しい試練を乗り越えましたが、また次の試練が待ち構えています。
次回は幕間となります。
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それでは今後ともミュナおばさんとイツハとマァルナの活躍をお楽しみに。




